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3章
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「志麻ちゃんってどこ住んでるの?」
「青岩口です」
「お前それ聞いて覚えておくんか!?」
「えぇちょっとメモっときます」
高橋が杉村の言葉に、筆記用具を持って書くフリをした。
料理を皿に盛り付けた後、呑んですでに顔が赤くなった杉村と、ノンアルコールしか口にしてない辻本が、志麻と高橋の元へ来た。
4人とも近くに皿やグラスを置いて談笑中。
「青岩口ってことは市電通勤?」
「そうです。富橋の駅前、安いコインパーキングもあるけど、市電の往復代の方が安いんですよね~」
高橋とは杉村や辻本とよりは歳が近めなのですぐに打ち解けた。
聞けば結婚しており、1歳の娘がいるという。まだ新婚さんらしい。
杉村と辻本は高橋と慶司にとって幼い頃からの近所のおじさん。
「隼人と慶司、おんなじように育ってきたハズなのに…。隼人は人当たりがいいからすぐに結婚できたのに、慶司は悪いヤツじゃないけどひねくれてるからな~。ところで志麻ちゃんは彼氏いるの?」
「話とんでません?」
「杉村おじさん、そういうのも最近はセクハラになるらしいよ」
杉村は驚いた表情になったが、すぐにいつもの調子に戻り、志麻の肩を抱こうとしたが。
「そうなの? 別にいいじゃんね────」
「それはダメです!」
志麻は両腕で杉村を押し退けてさりげなく辻本の後ろに隠れる。
盾にされた辻本は半分振り返った。
「俺の後ろ? 隼人じゃなく?」
「近かったので…」
「志麻ちゃんホントは辻本おじさんがタイプでしょ。さっきからチラチラ見てたし」
「そうなの?」
「高橋さん!?」
瞬間、志麻の顔が赤くなる。
年上が好きなのは昔から。正直、最近はOK年齢が上がっている。
「ん~…。気持ちは嬉しいけど…あ、ウチの子になる?」
「なる。辻本志麻! 」
バッと真顔で手を上げると辻本によしよしと頭をなでられた。
「ま~でも。こんなおじさんのこと気にしないで同年代の男つかまえなよ」
「…やっぱりですか?」
「年上がいいのも分かるけどね。かくいう俺も嫁さんは2つ上だし。志麻ちゃんもがんばりな」
辻本が新しいドリンクを取りに行くと、杉村が志麻の背中をパシンと叩いた。
「志麻ちゃん! 彼氏ができたら報告な! おじさんがおごってやるよ!ところでタイプは?」
「杉村さん恋バナ好きね…。でも強いて言うなら優しいイケメン?」
「あっは! そんなんおらんわ~!」
「えぇーっ!?いましたよ? 前の会社に! …ちょっと怪しい噂耐えなかったけど」
軽いショックを受けると、高橋が苦笑いをした。
正社員時代の恋を思い出してちょっと切なくなった。
が、新入りの志麻には切ない思い出に浸る暇もなく。
高橋の奥さんや会長の奥さんをはじめ、女の人たちに話しかけられたり男の人たちに絡まれたりと忙しい歓迎会だった。
「成人式の写真ってある? 見たいなー」
「いいですよ。でもズームしないで…ズームしないでって言ったでしょ!!」
志麻は、彼女の親世代の40代後半のおじさんに渡したスマホを奪おうとした。
ムキになった志麻の姿に、彼女の周りに集まった人たちが笑う。
「なんでぇ? 可愛いでいいじゃん」
「よくない! 可愛くないからダメですー」
いかにも真面目そうなおじさんが、真っ赤な顔で志麻のことをベタ褒めする。
必死にスマホを取り返そうとした理由…危うくコスプレ写真を見られる所だったから。
「まぁまぁ。僕が確認しますよ」
チューハイを持って戻ってきた高橋がおじさんの手から志麻のスマホを奪い取り、奥さんとじっくり眺めてから志麻に返した。
「志麻ちゃんいいじゃん。大和撫子って感じで」
「いいわぁ。あたしの時なんてメイク失敗して撮り直したかったくらいなのに…。綺麗だわぁ…」
奥さんは腕に抱えた赤子を揺らしながら志麻の着物姿を褒めた。
もう娘がおねむの時間だから、と高橋夫妻はそこで帰った。「またいつでもカフェに来て」と言い残して。
「なんなら慶司が嫌になったら新しいバイト先としておいで」とも言われた。慶司が速攻断っていたが。
「慶司は志麻ちゃんのこと気に入ったんだなー?」
「使えるからな、バイトとして」
「冷たーい…。だからお前、見た目良くてモテても中身残念とか言われるんだよ」
慶司の隣に戻ると、海鮮を扱う居酒屋を営むおじさんに絡まれていた。
「もう何回その話すんだよ…」
慶司がため息をつくと、おじさんは志麻に話を振った。
「はじめましてだな! 俺は広小路で海鮮の居酒屋やってる親父です。歳は杉村と辻本のちょっと上。志麻ちゃんいくつ?」
「25です」
「わっかいわ~。結婚するなら相手はいくつまでいいの?」
「えー…三十代後半?」
「おっ。慶司いけるじゃん。この辺で手ェ打っとけ」
「ちょっと待った。それ何気あたしに失礼じゃないですか!?」
それをほっとき、慶司はおじさんを親指でさしながらこそっと耳打ちした。
「この親父バツイチだから。あわよくば再婚考えてるから。こんなのになるなよ」
「お前志麻ちゃんに何吹き込んでんだ!? もう志麻ちゃん、俺ん所でバイトする? なんなら俺の所に永久就職する?」
「嫌でーす。おじさん、ウチの親世代なのでダメです」
「毎日寿司食えてもダメ?」
「…いいでしょう」
「チョロいなオイ」
魚好きの志麻に寿司は、絶対に食らいつくエサだった。
「青岩口です」
「お前それ聞いて覚えておくんか!?」
「えぇちょっとメモっときます」
高橋が杉村の言葉に、筆記用具を持って書くフリをした。
料理を皿に盛り付けた後、呑んですでに顔が赤くなった杉村と、ノンアルコールしか口にしてない辻本が、志麻と高橋の元へ来た。
4人とも近くに皿やグラスを置いて談笑中。
「青岩口ってことは市電通勤?」
「そうです。富橋の駅前、安いコインパーキングもあるけど、市電の往復代の方が安いんですよね~」
高橋とは杉村や辻本とよりは歳が近めなのですぐに打ち解けた。
聞けば結婚しており、1歳の娘がいるという。まだ新婚さんらしい。
杉村と辻本は高橋と慶司にとって幼い頃からの近所のおじさん。
「隼人と慶司、おんなじように育ってきたハズなのに…。隼人は人当たりがいいからすぐに結婚できたのに、慶司は悪いヤツじゃないけどひねくれてるからな~。ところで志麻ちゃんは彼氏いるの?」
「話とんでません?」
「杉村おじさん、そういうのも最近はセクハラになるらしいよ」
杉村は驚いた表情になったが、すぐにいつもの調子に戻り、志麻の肩を抱こうとしたが。
「そうなの? 別にいいじゃんね────」
「それはダメです!」
志麻は両腕で杉村を押し退けてさりげなく辻本の後ろに隠れる。
盾にされた辻本は半分振り返った。
「俺の後ろ? 隼人じゃなく?」
「近かったので…」
「志麻ちゃんホントは辻本おじさんがタイプでしょ。さっきからチラチラ見てたし」
「そうなの?」
「高橋さん!?」
瞬間、志麻の顔が赤くなる。
年上が好きなのは昔から。正直、最近はOK年齢が上がっている。
「ん~…。気持ちは嬉しいけど…あ、ウチの子になる?」
「なる。辻本志麻! 」
バッと真顔で手を上げると辻本によしよしと頭をなでられた。
「ま~でも。こんなおじさんのこと気にしないで同年代の男つかまえなよ」
「…やっぱりですか?」
「年上がいいのも分かるけどね。かくいう俺も嫁さんは2つ上だし。志麻ちゃんもがんばりな」
辻本が新しいドリンクを取りに行くと、杉村が志麻の背中をパシンと叩いた。
「志麻ちゃん! 彼氏ができたら報告な! おじさんがおごってやるよ!ところでタイプは?」
「杉村さん恋バナ好きね…。でも強いて言うなら優しいイケメン?」
「あっは! そんなんおらんわ~!」
「えぇーっ!?いましたよ? 前の会社に! …ちょっと怪しい噂耐えなかったけど」
軽いショックを受けると、高橋が苦笑いをした。
正社員時代の恋を思い出してちょっと切なくなった。
が、新入りの志麻には切ない思い出に浸る暇もなく。
高橋の奥さんや会長の奥さんをはじめ、女の人たちに話しかけられたり男の人たちに絡まれたりと忙しい歓迎会だった。
「成人式の写真ってある? 見たいなー」
「いいですよ。でもズームしないで…ズームしないでって言ったでしょ!!」
志麻は、彼女の親世代の40代後半のおじさんに渡したスマホを奪おうとした。
ムキになった志麻の姿に、彼女の周りに集まった人たちが笑う。
「なんでぇ? 可愛いでいいじゃん」
「よくない! 可愛くないからダメですー」
いかにも真面目そうなおじさんが、真っ赤な顔で志麻のことをベタ褒めする。
必死にスマホを取り返そうとした理由…危うくコスプレ写真を見られる所だったから。
「まぁまぁ。僕が確認しますよ」
チューハイを持って戻ってきた高橋がおじさんの手から志麻のスマホを奪い取り、奥さんとじっくり眺めてから志麻に返した。
「志麻ちゃんいいじゃん。大和撫子って感じで」
「いいわぁ。あたしの時なんてメイク失敗して撮り直したかったくらいなのに…。綺麗だわぁ…」
奥さんは腕に抱えた赤子を揺らしながら志麻の着物姿を褒めた。
もう娘がおねむの時間だから、と高橋夫妻はそこで帰った。「またいつでもカフェに来て」と言い残して。
「なんなら慶司が嫌になったら新しいバイト先としておいで」とも言われた。慶司が速攻断っていたが。
「慶司は志麻ちゃんのこと気に入ったんだなー?」
「使えるからな、バイトとして」
「冷たーい…。だからお前、見た目良くてモテても中身残念とか言われるんだよ」
慶司の隣に戻ると、海鮮を扱う居酒屋を営むおじさんに絡まれていた。
「もう何回その話すんだよ…」
慶司がため息をつくと、おじさんは志麻に話を振った。
「はじめましてだな! 俺は広小路で海鮮の居酒屋やってる親父です。歳は杉村と辻本のちょっと上。志麻ちゃんいくつ?」
「25です」
「わっかいわ~。結婚するなら相手はいくつまでいいの?」
「えー…三十代後半?」
「おっ。慶司いけるじゃん。この辺で手ェ打っとけ」
「ちょっと待った。それ何気あたしに失礼じゃないですか!?」
それをほっとき、慶司はおじさんを親指でさしながらこそっと耳打ちした。
「この親父バツイチだから。あわよくば再婚考えてるから。こんなのになるなよ」
「お前志麻ちゃんに何吹き込んでんだ!? もう志麻ちゃん、俺ん所でバイトする? なんなら俺の所に永久就職する?」
「嫌でーす。おじさん、ウチの親世代なのでダメです」
「毎日寿司食えてもダメ?」
「…いいでしょう」
「チョロいなオイ」
魚好きの志麻に寿司は、絶対に食らいつくエサだった。
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