17 / 46
5章
1
しおりを挟む
「ミタちゃんお疲れおかえりなさーい。古城君とのデートはいかがでした?」
「いやデートって。真面目な仕事してきました!」
「ホントに~? ドライブデート楽しんできたとかじゃなく?」
「ンなワケないですよ~。クソ重たいモンいっぱい運びました。それをドライブデートとは何事!?」
「やだ急にブチギレないでミタちゃん」
先に事務所に戻ってきた志麻は、事務のおばちゃん────信濃に出迎えられた。古城はトラックを別の場所に停めてくるらしい。志麻のことだけ先に会社の前で下ろしていった。
「ちゃっかり女の子扱い受けてんじゃないですか。お昼はどうしたの?」
「シャレオツなキャフェに行ってきました」
「ほらやっぱりデートじゃん。何仕事中に青春してんの~」
「えー?」
「おいおい古城は乗り換えしたんか?」
「は…?」
おばちゃんと志麻の会話を聞いていた、配達から帰ってきたおじさん────関口が加わって話はあらぬ方向へ行く。
おじさんは明らかに固まった志麻を事務所の外に連れ出し、小さな声で続けた。
「お前知らんかった? 古城が彼女いるってこと」
「マジでか!? 知らんかったと…」
「なんで博多弁もどき?」
「ちょっとびっくりしただけですよ…」
「あ、そゆこと。…あ! もしかしてミタちゃん、古城のこと────」
「ないない! それはないから!」
「俺まだ何も言ってねーし。必死に否定するトコが余計怪しいわ~」
おじさんがニヤケ面で口元を抑える。正直図星の志麻は、おじさんの腕を小突く。
「ないですから! 会社で出会い求めない方がいいよ、って西野さんが言ってました」
「アイツは何を根拠にそんなこと教えてんだ」
西野は飲み会で志麻とハイタッチしたがったおじさん。
こうしているとウチの会社ってホントにおじさんとおばちゃんが多いな、と場違いなことを考えてしまう。
「別にいーじゃん、会社で出会い求めても。案外タイプの人が入ってきたりしてー。もしかしたら運命の人に会えるかもしれんに」
「ホンマ!?」
「…今度は関西弁か。まぁ古城はやめときん。アイツある女とちょっとした関係あるで」
「ある女って? ちょっとした関係って?」
「有栖川。男女の関係」
「有栖川さん!? …おっほん。いいのかこんなこと聞いちゃって…」
「皆知っとるわ。お前も知っとるモンだと思ったけど…まだ社内事情には疎いな」
「へーへー。わだすはまだ新人の三田園ですよーだ。てかなんでこの前、古城さんには彼女いないって言ったんですか?」
「ん~ま~それは一応? 古城が凍りついてもいかんだろ。アイツもサラッと嘘ついたし」
「そういえば…。なんだよホントのこと言ってくれたら良かったのに」
わざとらしく頬をふくらませてみせると"ぶりっ子か"と笑われた。
"調子に乗ってみました"とおどけてみせ、それにしてもと続ける。
「古城さんは年上が好きなんですね~。ちょっと意外?」
「あぁ。アイツ弟じゃなくて妹が欲しいってたまに言うもんな。特にミタちゃんが来てからは」
「ホントです? ちょっと照れますわ~」
「別にお前を妹に欲しいってワケじゃねーぞ」
「分かっとるわ! ちょっとボケてみただけですわ! てかこんなんボケにもならんわな!」
志麻の自虐を絡めた一人芝居に関口はケラケラと笑い、彼女の背中をバシバシと叩いた。
「ま、他で男見つけりん。配送に男は他におるで」
「男はおるでって…ワケありばっかじゃん! それと既婚者!」
「いーじゃんよ別に。不倫じゃなければ」
「あたし初婚同士がいいです」
「ホントわがまま娘だな~。バツイチと恋愛でもいーじゃん。そしたら古城とおそろい────」
「は!? 有栖川さんバツイチ!? 未婚のお姉さんじゃないんか!?」
また志麻の叫びが炸裂。今日の関口との会話で何回驚愕したんだろう。
対する関口も、今日何回目だろうという驚きの顔。
「それも知らんかった? 皆知っとるけど…お前いろいろ知ってそうで実は知らなかったんだな…」
「知らんかったと! てかできたら知りたくなかったわ…」
公の秘密を知ってしまったような。
バツイチと年下男子の恋って夜ドラにありそうなネタだな、とちょっとだけ萌えた。
サクッと心が痛くなったことに、やっぱり古城のことが好きだったんだと密かに傷ついたことは志麻だけの秘密。
「ま。ミタちゃんもがんばれ。結婚して寿退職」
「あ~…いや。あたしまだそーゆーのいいんで…」
「何ー? 寂しくないのか? 1人で」
「別に寂しくないですー。恋してなくても楽しいもん。変なおじさんと話好きなおばちゃんがいっぱいいて」
「変な、っつったな?」
関口に首をしめられそうになり、志麻は慌てて跳び退って手を降る。
「いやいやいや! おもしろくて楽しいおじさんって言ったの! おじさん耳遠くなった?」
「てかおじさんって呼ぶことが罪だわ」
「いやだってあたしから見たらそりゃさ~…」
「言いたい放題言いやがって! 今度の飲み会は全部お前持ちにするぞ!」
「いやー勘弁! あたしがそんなお金持ってるように見えます!?」
「俺老眼だから分かんなーい」
「老眼関係ないし! てかおじさんなの何気認めてんじゃん!」
うわーと逃げる志麻と、それを追いかける関口の姿に、すれ違う人たちは何してるんだと呆れつつ笑った。
「いやデートって。真面目な仕事してきました!」
「ホントに~? ドライブデート楽しんできたとかじゃなく?」
「ンなワケないですよ~。クソ重たいモンいっぱい運びました。それをドライブデートとは何事!?」
「やだ急にブチギレないでミタちゃん」
先に事務所に戻ってきた志麻は、事務のおばちゃん────信濃に出迎えられた。古城はトラックを別の場所に停めてくるらしい。志麻のことだけ先に会社の前で下ろしていった。
「ちゃっかり女の子扱い受けてんじゃないですか。お昼はどうしたの?」
「シャレオツなキャフェに行ってきました」
「ほらやっぱりデートじゃん。何仕事中に青春してんの~」
「えー?」
「おいおい古城は乗り換えしたんか?」
「は…?」
おばちゃんと志麻の会話を聞いていた、配達から帰ってきたおじさん────関口が加わって話はあらぬ方向へ行く。
おじさんは明らかに固まった志麻を事務所の外に連れ出し、小さな声で続けた。
「お前知らんかった? 古城が彼女いるってこと」
「マジでか!? 知らんかったと…」
「なんで博多弁もどき?」
「ちょっとびっくりしただけですよ…」
「あ、そゆこと。…あ! もしかしてミタちゃん、古城のこと────」
「ないない! それはないから!」
「俺まだ何も言ってねーし。必死に否定するトコが余計怪しいわ~」
おじさんがニヤケ面で口元を抑える。正直図星の志麻は、おじさんの腕を小突く。
「ないですから! 会社で出会い求めない方がいいよ、って西野さんが言ってました」
「アイツは何を根拠にそんなこと教えてんだ」
西野は飲み会で志麻とハイタッチしたがったおじさん。
こうしているとウチの会社ってホントにおじさんとおばちゃんが多いな、と場違いなことを考えてしまう。
「別にいーじゃん、会社で出会い求めても。案外タイプの人が入ってきたりしてー。もしかしたら運命の人に会えるかもしれんに」
「ホンマ!?」
「…今度は関西弁か。まぁ古城はやめときん。アイツある女とちょっとした関係あるで」
「ある女って? ちょっとした関係って?」
「有栖川。男女の関係」
「有栖川さん!? …おっほん。いいのかこんなこと聞いちゃって…」
「皆知っとるわ。お前も知っとるモンだと思ったけど…まだ社内事情には疎いな」
「へーへー。わだすはまだ新人の三田園ですよーだ。てかなんでこの前、古城さんには彼女いないって言ったんですか?」
「ん~ま~それは一応? 古城が凍りついてもいかんだろ。アイツもサラッと嘘ついたし」
「そういえば…。なんだよホントのこと言ってくれたら良かったのに」
わざとらしく頬をふくらませてみせると"ぶりっ子か"と笑われた。
"調子に乗ってみました"とおどけてみせ、それにしてもと続ける。
「古城さんは年上が好きなんですね~。ちょっと意外?」
「あぁ。アイツ弟じゃなくて妹が欲しいってたまに言うもんな。特にミタちゃんが来てからは」
「ホントです? ちょっと照れますわ~」
「別にお前を妹に欲しいってワケじゃねーぞ」
「分かっとるわ! ちょっとボケてみただけですわ! てかこんなんボケにもならんわな!」
志麻の自虐を絡めた一人芝居に関口はケラケラと笑い、彼女の背中をバシバシと叩いた。
「ま、他で男見つけりん。配送に男は他におるで」
「男はおるでって…ワケありばっかじゃん! それと既婚者!」
「いーじゃんよ別に。不倫じゃなければ」
「あたし初婚同士がいいです」
「ホントわがまま娘だな~。バツイチと恋愛でもいーじゃん。そしたら古城とおそろい────」
「は!? 有栖川さんバツイチ!? 未婚のお姉さんじゃないんか!?」
また志麻の叫びが炸裂。今日の関口との会話で何回驚愕したんだろう。
対する関口も、今日何回目だろうという驚きの顔。
「それも知らんかった? 皆知っとるけど…お前いろいろ知ってそうで実は知らなかったんだな…」
「知らんかったと! てかできたら知りたくなかったわ…」
公の秘密を知ってしまったような。
バツイチと年下男子の恋って夜ドラにありそうなネタだな、とちょっとだけ萌えた。
サクッと心が痛くなったことに、やっぱり古城のことが好きだったんだと密かに傷ついたことは志麻だけの秘密。
「ま。ミタちゃんもがんばれ。結婚して寿退職」
「あ~…いや。あたしまだそーゆーのいいんで…」
「何ー? 寂しくないのか? 1人で」
「別に寂しくないですー。恋してなくても楽しいもん。変なおじさんと話好きなおばちゃんがいっぱいいて」
「変な、っつったな?」
関口に首をしめられそうになり、志麻は慌てて跳び退って手を降る。
「いやいやいや! おもしろくて楽しいおじさんって言ったの! おじさん耳遠くなった?」
「てかおじさんって呼ぶことが罪だわ」
「いやだってあたしから見たらそりゃさ~…」
「言いたい放題言いやがって! 今度の飲み会は全部お前持ちにするぞ!」
「いやー勘弁! あたしがそんなお金持ってるように見えます!?」
「俺老眼だから分かんなーい」
「老眼関係ないし! てかおじさんなの何気認めてんじゃん!」
うわーと逃げる志麻と、それを追いかける関口の姿に、すれ違う人たちは何してるんだと呆れつつ笑った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる