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2章
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この前の休日。夜叉と阿修羅と朝来の3人でファミレスに訪れた日のこと。
阿修羅は迷いなく夜叉の隣に座った朝来のことを終始ジト目で睨み、朝来は涼しい表情でその視線を交わして夜叉に話しかけていた。彼女が見やすいようにメニューブックを近づけて。
「君は何食べる? 確か卵かけごはんが好きなんだっけ」
「う、うん」
優しい声で話しかけられて面映ゆい反面、阿修羅の視線が気になってメニューを見つめていても頭に入って来ない。
今日はこのファミレスに直接集合したのだが、朝来が来て早々に今日の格好を褒められた。
以前彼に過去へ連れ去られた時に彼に和服を着せられたことがあるが、洋服もよく似合うと見つめられた。
(調子狂う…こんなに女の子扱いみたいなのされたことないし)
和馬と保育園に通っていた頃、よく彼は同級生の男子にいじめられた。夜叉はその彼を守るべく複数の男子相手に暴れ回っていた。当時の様子を両親に聞くと喧嘩に負けたことがない無双少女だったらしく、しょっちゅう先生を泣かせていたという。我ながらとんでもない子ども時代だったのか…と恥ずかしくなる。
男勝りなところがあったせいか異性にモテるということはなかった。特に夜叉の幼い頃を知っている者からは。
今では美人だなんだともてはやされるようになったが、異性にそういう意味で声をかけられることは無い。最近になって阿修羅に大切な人のように扱われたり、朝来に思わせぶりなことを言われるようになったくらいだ。
これ以上見つめていても迷うだけだと思い、夜叉は阿修羅に話を振った。
「阿修羅は何にする?」
「自分はこの生姜焼き定食にしようかと」
ただ仏頂面をしていただけではなかったらしい。彼は和定食のページを開いてテーブルに置いた。
「やー様もお決まりですか?」
「ううん。2つ迷っているのがあって…」
「どれ?」
「えっと、このオムライスか豚丼生卵つき定食」
朝来が口を挟んで夜叉の前のメニューブックをのぞきこむ。彼女がそれぞれ指し示すと彼は”ふんふん”とうなずき、テーブル上のチャイムを鳴らした。
「朝来は決まってるの?」
「ううん、君が食べたいものを両方頼も。好きなだけ食べなよ。僕も一緒に食べるから」
「え、いいよそんなの! 朝来も好きな物頼んで」
「…実は人間の食べ物を摂らなくても平気な質でね、こういうのには興味がないんだ。だから君が決めてくれると助かる」
店員がこちらのテーブルに近づいてきているのを一瞥すると、朝来は小声になって片目を閉じた。
こういった話を聞くとやはり彼もまた人間ではないのだと思い知らされる。自分もいずれこうなるのではないか…とも。
今は大好きな食べ物でもいつか見向きもしなくなる日が来たらそれはそれで寂しい。夜叉はメニューブックの端を掴んで少しだけ暗い表情になった。
やがてバイトと思しき従業員がやってくると、彼女は制服のポケットからハンディを取り出した。
「お待たせしました~…やーちゃん!? に…あーちゃん!? 超久しぶりじゃん!」
「あ、香取っち」
「ご無沙汰しております」
「君たちの知り合い?」
「うん、クラスは違うけど友だち」
夜叉たちの席にやってきたのは同じ高校の同級生だ。バイトをしているのは知っていたがどこでかは知らなかった。
香取こと神七は神コンビの片割れ。今日は黒髪をネットつきのバレッタでまとめている。他の従業員とおそろいの制服姿ですっかり仕事の顔をしている。
とりあえず忘れない内に注文を…と済ませると、神七はハンディをポケットにしまいながら夜叉の肩をつついた。
「で、誰? 同じ学校の人じゃないよね?」
「まぁそうだけど…」
やはり朝来に食いついた。以前から神七たちに彼氏はいるのかどうなのかとよく聞かれていたので気になるらしい。注文を取っている間も彼女はチラチラと何度も朝来のことを見ていた。
しかしどう説明したらいいものか。かつては響高校の喧嘩屋総長として名を馳せていた…とは言えない。
(私たちの関係もどう説明したらいいんだろ…)
助けを求めるように朝来のことを見ると、彼は口の端を上げて神七のことを見上げた。
「僕は彼女たちの友人の影内朝来。よろしくね」
彼が柔らかい笑みで首をかしげると、神七は仕事のことを忘れて赤面した。
「はわわ…こんな美形の友だちがいるなんてやーちゃんたちもスミに置けないなぁ!」
「いえ…自分は、というかやー様も友人なんかでは…」
阿修羅は心外だと言わんばかりに首を細かく素早く振って頬をひきつらせた。楽しいおもちゃを見つけたように朝来はニヤリと企んだ表情で頬杖をついた。
「君とは特に長い付き合いだよね、あーちゃん?」
「貴様…調子に乗るなよ…」
朝来が阿修羅のニックネームを口にして片目を閉じると、怒りのせいか彼のおさげが浮いてプルプルと震え始める。彼はは同級生たちの前では見せたことのない表情で凄んだが、朝来は涼しい顔で受け流した。
阿修羅は迷いなく夜叉の隣に座った朝来のことを終始ジト目で睨み、朝来は涼しい表情でその視線を交わして夜叉に話しかけていた。彼女が見やすいようにメニューブックを近づけて。
「君は何食べる? 確か卵かけごはんが好きなんだっけ」
「う、うん」
優しい声で話しかけられて面映ゆい反面、阿修羅の視線が気になってメニューを見つめていても頭に入って来ない。
今日はこのファミレスに直接集合したのだが、朝来が来て早々に今日の格好を褒められた。
以前彼に過去へ連れ去られた時に彼に和服を着せられたことがあるが、洋服もよく似合うと見つめられた。
(調子狂う…こんなに女の子扱いみたいなのされたことないし)
和馬と保育園に通っていた頃、よく彼は同級生の男子にいじめられた。夜叉はその彼を守るべく複数の男子相手に暴れ回っていた。当時の様子を両親に聞くと喧嘩に負けたことがない無双少女だったらしく、しょっちゅう先生を泣かせていたという。我ながらとんでもない子ども時代だったのか…と恥ずかしくなる。
男勝りなところがあったせいか異性にモテるということはなかった。特に夜叉の幼い頃を知っている者からは。
今では美人だなんだともてはやされるようになったが、異性にそういう意味で声をかけられることは無い。最近になって阿修羅に大切な人のように扱われたり、朝来に思わせぶりなことを言われるようになったくらいだ。
これ以上見つめていても迷うだけだと思い、夜叉は阿修羅に話を振った。
「阿修羅は何にする?」
「自分はこの生姜焼き定食にしようかと」
ただ仏頂面をしていただけではなかったらしい。彼は和定食のページを開いてテーブルに置いた。
「やー様もお決まりですか?」
「ううん。2つ迷っているのがあって…」
「どれ?」
「えっと、このオムライスか豚丼生卵つき定食」
朝来が口を挟んで夜叉の前のメニューブックをのぞきこむ。彼女がそれぞれ指し示すと彼は”ふんふん”とうなずき、テーブル上のチャイムを鳴らした。
「朝来は決まってるの?」
「ううん、君が食べたいものを両方頼も。好きなだけ食べなよ。僕も一緒に食べるから」
「え、いいよそんなの! 朝来も好きな物頼んで」
「…実は人間の食べ物を摂らなくても平気な質でね、こういうのには興味がないんだ。だから君が決めてくれると助かる」
店員がこちらのテーブルに近づいてきているのを一瞥すると、朝来は小声になって片目を閉じた。
こういった話を聞くとやはり彼もまた人間ではないのだと思い知らされる。自分もいずれこうなるのではないか…とも。
今は大好きな食べ物でもいつか見向きもしなくなる日が来たらそれはそれで寂しい。夜叉はメニューブックの端を掴んで少しだけ暗い表情になった。
やがてバイトと思しき従業員がやってくると、彼女は制服のポケットからハンディを取り出した。
「お待たせしました~…やーちゃん!? に…あーちゃん!? 超久しぶりじゃん!」
「あ、香取っち」
「ご無沙汰しております」
「君たちの知り合い?」
「うん、クラスは違うけど友だち」
夜叉たちの席にやってきたのは同じ高校の同級生だ。バイトをしているのは知っていたがどこでかは知らなかった。
香取こと神七は神コンビの片割れ。今日は黒髪をネットつきのバレッタでまとめている。他の従業員とおそろいの制服姿ですっかり仕事の顔をしている。
とりあえず忘れない内に注文を…と済ませると、神七はハンディをポケットにしまいながら夜叉の肩をつついた。
「で、誰? 同じ学校の人じゃないよね?」
「まぁそうだけど…」
やはり朝来に食いついた。以前から神七たちに彼氏はいるのかどうなのかとよく聞かれていたので気になるらしい。注文を取っている間も彼女はチラチラと何度も朝来のことを見ていた。
しかしどう説明したらいいものか。かつては響高校の喧嘩屋総長として名を馳せていた…とは言えない。
(私たちの関係もどう説明したらいいんだろ…)
助けを求めるように朝来のことを見ると、彼は口の端を上げて神七のことを見上げた。
「僕は彼女たちの友人の影内朝来。よろしくね」
彼が柔らかい笑みで首をかしげると、神七は仕事のことを忘れて赤面した。
「はわわ…こんな美形の友だちがいるなんてやーちゃんたちもスミに置けないなぁ!」
「いえ…自分は、というかやー様も友人なんかでは…」
阿修羅は心外だと言わんばかりに首を細かく素早く振って頬をひきつらせた。楽しいおもちゃを見つけたように朝来はニヤリと企んだ表情で頬杖をついた。
「君とは特に長い付き合いだよね、あーちゃん?」
「貴様…調子に乗るなよ…」
朝来が阿修羅のニックネームを口にして片目を閉じると、怒りのせいか彼のおさげが浮いてプルプルと震え始める。彼はは同級生たちの前では見せたことのない表情で凄んだが、朝来は涼しい顔で受け流した。
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