たとえこの恋が世界を滅ぼしても5

堂宮ツキ乃

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6章

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 泉と2人になるのは別に初めてじゃない。何回か一緒に下校したことがある仲で他の男子よりは近しい存在だったりして、と自負しているくらいだ。

 だがしかし。それは置いといて、だ。

 いざ告白しようと決意をすると妙なプレッシャーと緊張のせいでまともに会話を続けられない。少しの沈黙だっていつもなら気にならないのに。

 泉が来たかったらしいガラス細工の店の中で、友樹は彼女とアクセサリーが並んだ棚の前に並んで立っていた。

 彼女は楽しそうにそれらを眺めて不意に指をさして友樹に笑いかけた。

「ねぇ、生田君。これ綺麗じゃない?」

「お、おう。確かにいいな────」

 泉に似合いそうで。そう続けたいのに喉の奥に引っ込んでしまった言葉は尻ごみして飛び出そうとしない。

(どうした俺!? 調子悪すぎィ!)

 友樹は彼女に背を向けると頭を抱えてその場にうずくまった。青くなった顔で汗をダラダラと流す彼は、大事な試合前でさえもこんな風にはならないのに…と隠れた自分の弱さを恨んだ。

(泉のこと褒めるのなんていつものことじゃんよ! スマッシュの勢いがよかったとかサーブに回転がかかっていて実戦で使えるな、とか…。いや、待てよ? 今までのとは違うんじゃね?)

 泉の容姿とか仕草のことを言ったことはない気がする。今までも何度も可愛くてたまらんと思ったことはあるがそれを彼女に口に出して言ったことはなかった。

「生田君? 大丈夫?」

「あ…おおう! 大丈夫! 超元気!」

「あ…そう?」

 勢いよく立ち上がった大声の彼に泉は引きつり笑いを浮かべた。

 ドン引きだよな…、今日は挙動不審が過ぎる。友樹は棚の上を再び見るフリをして小さくため息をついた。

 隣の泉は背中側にあるテーブルの上を眺め始めた。色とりどりのガラス玉をコードに通したブレスレットがたくさん置かれている。

「ここに来て本当によかったな…」

 しみじみとつぶやいた泉と同じように友樹もテーブル側を向いて彼女のことを見た。

「泉はキラキラしてるものが好きなの?」

「うん。普段は学校のことばっかで忙しいけど修学旅行の間はそういうのから離れられていいなって。私ね、本当はこういうのが好きなの」

 彼女ははにかみ、ちょっと引いたでしょと自虐的につぶやいた。

「部活も勉強も…学生だからそっちばっか頑張んなきゃならないから、あんまり親の前で言えない」

 寂しそうな横顔。友樹はそれに感化されてか眉を落とした。

 悔しいが彼女の方が頭半分ほど身長が高い。なんなら泉以外の女子にも身長を抜かされがちだ。しかし今の彼女は友樹と同じくらいか小さく見えた。

「俺は…キラキラが好きな泉も、卓球を頑張りながら勉強を怠らない泉も偉いと思う。親の前で言えない分、今日いっぱい話してよ。泉の好きなものとか今まで知らなかったからもっと知りたい────はっ!!」

 恥じらいもせず告白じみたことを言ってしまったことに気づき、友樹は息をのんで勢いよくうずくまった。

(おいぃぃ今かよ俺! さっきまでのはなんだったんだよ!)

 今日は本当に仕草も心も忙しい。コメディな動きばかりしてるせいで泉には今日だけで一生分はドン引かれただろう。

 この修学旅行の間に彼女に想いを伝えようと何度も頭の中でシミュレーションをした。何事も頑張る泉のことが好きで、同じエースとしてお互いに高め合っていきたいと。

 自分の中にあるなけなしの国語力を最大限に活かして告白する時の言葉も考えてきた。

 それなのに、いざ口からこぼれだしたのは素朴でどこかカッコつけたような、君ともっと近くなりたいと願う言葉だった。

 泉は目をパチクリとさせていたが、言われたことを口の中で反芻した後に頬を染めた。
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