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1章
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11月。修学旅行から帰ってきてしばらく経ったある土曜日。夜叉はとある木の様子を見に軽トラに揺られていた。
今日の彼女はダボっとしたピンクのセーターにジーンズを合わせ、上からグレーのコートを羽織っている。
高城市からバイパスに乗って隣の市に入った頃、助手席で頬杖をついていた彼女は不意に姿勢を正して遠くに見え始めた大きな川を指さした。
「もしかしてあれが…」
「そうだね、矢弦川。彼の生まれ故郷だ」
隣で運転するのは水色の髪の男、毘沙門天だ。夜叉がよく見ようと開けた窓から入った風が彼の前髪をあおり、閉ざされた右目がのぞいた。
軽トラの後ろではまるで護送するかのようにぴったりと張り付いて走るバイクが一台。ヘタしたら煽っていると誤解されそうだ。
運転手の表情が見えないフルフェイスヘルメットからは夜叉と同じ髪色のおさげが2本、激しい風に煽られてなびいている。
開けた窓から入ってくるバイクの音に耳を傾けながら夜叉は毘沙門天の横顔を見た。
「阿修羅がバイクの免許持ってたなんて知らなかったです。しかもあのバイク結構ゴツくて大きいですよね」
「あぁ見えて君より長生きだからね。大抵の乗り物は乗りこなせるよ」
彼は笑うとウインカーを出して出口に入ってバイパスを下りた。サイドミラー越しに阿修羅が後をついてくるのが見えた。ライダーが珍しいらしい夜叉に毘沙門天は冗談めかして話しかけた。
「帰りは阿修羅の後ろに乗せてもらう? 一応ヘルメはもう一個あるよ?」
「ううん、大丈夫です! ちょっと怖そうだし…」
夜叉がたじたじと遠慮気味に首をふると毘沙門天はくすっと笑った。
「そうだね。鬼子母神ならともかく阿修羅じゃ人を乗せて走るのは厳しいかもな…」
「あ、鬼子母神さんもバイク乗りなんですね」
「うん。それにあのバイクも彼女のなんだ。愛車を置いてどこに行ったんだろうな、あいつ…」
「本当に…」
鬼子母神はあの日、戯人族の間から消えて以来行方不明。連絡もつかず足取りも掴めていない。彼女の恋人である毘沙門天は絶望的な状況の中、3人でくらしていたマンションで今は阿修羅と暮らしている。
ほほえみながらも哀愁漂う声に夜叉はうつむいた。彼女だって鬼子母神にお世話になっていたし好きだ。今すぐ会いたいし探しに行けるのなら行きたいが青龍に”こっちで任せなさい”と言われていた。夜叉は学校があるし今は朝来のことを支えてやりなさい、とも。
「…どこに行ったか分からなくても、あいつが元気でいたらいい。無事だったらいい…」
小さくも力強い声を放った彼の目は絶望を感じてなんかいない。むしろ必ず見つけ出すという決意に満ちあふれている。
彼のことを目を細めて眩しそうに見つめる夜叉はおもむろに親指を立ててヘタクソなウインクをした。
「そういうのが愛って言うんですね…!」
「かもね」
臆することなく肯定した毘沙門天の姿に、逆に夜叉が顔を真っ赤にしてうつむいた。
今日の彼女はダボっとしたピンクのセーターにジーンズを合わせ、上からグレーのコートを羽織っている。
高城市からバイパスに乗って隣の市に入った頃、助手席で頬杖をついていた彼女は不意に姿勢を正して遠くに見え始めた大きな川を指さした。
「もしかしてあれが…」
「そうだね、矢弦川。彼の生まれ故郷だ」
隣で運転するのは水色の髪の男、毘沙門天だ。夜叉がよく見ようと開けた窓から入った風が彼の前髪をあおり、閉ざされた右目がのぞいた。
軽トラの後ろではまるで護送するかのようにぴったりと張り付いて走るバイクが一台。ヘタしたら煽っていると誤解されそうだ。
運転手の表情が見えないフルフェイスヘルメットからは夜叉と同じ髪色のおさげが2本、激しい風に煽られてなびいている。
開けた窓から入ってくるバイクの音に耳を傾けながら夜叉は毘沙門天の横顔を見た。
「阿修羅がバイクの免許持ってたなんて知らなかったです。しかもあのバイク結構ゴツくて大きいですよね」
「あぁ見えて君より長生きだからね。大抵の乗り物は乗りこなせるよ」
彼は笑うとウインカーを出して出口に入ってバイパスを下りた。サイドミラー越しに阿修羅が後をついてくるのが見えた。ライダーが珍しいらしい夜叉に毘沙門天は冗談めかして話しかけた。
「帰りは阿修羅の後ろに乗せてもらう? 一応ヘルメはもう一個あるよ?」
「ううん、大丈夫です! ちょっと怖そうだし…」
夜叉がたじたじと遠慮気味に首をふると毘沙門天はくすっと笑った。
「そうだね。鬼子母神ならともかく阿修羅じゃ人を乗せて走るのは厳しいかもな…」
「あ、鬼子母神さんもバイク乗りなんですね」
「うん。それにあのバイクも彼女のなんだ。愛車を置いてどこに行ったんだろうな、あいつ…」
「本当に…」
鬼子母神はあの日、戯人族の間から消えて以来行方不明。連絡もつかず足取りも掴めていない。彼女の恋人である毘沙門天は絶望的な状況の中、3人でくらしていたマンションで今は阿修羅と暮らしている。
ほほえみながらも哀愁漂う声に夜叉はうつむいた。彼女だって鬼子母神にお世話になっていたし好きだ。今すぐ会いたいし探しに行けるのなら行きたいが青龍に”こっちで任せなさい”と言われていた。夜叉は学校があるし今は朝来のことを支えてやりなさい、とも。
「…どこに行ったか分からなくても、あいつが元気でいたらいい。無事だったらいい…」
小さくも力強い声を放った彼の目は絶望を感じてなんかいない。むしろ必ず見つけ出すという決意に満ちあふれている。
彼のことを目を細めて眩しそうに見つめる夜叉はおもむろに親指を立ててヘタクソなウインクをした。
「そういうのが愛って言うんですね…!」
「かもね」
臆することなく肯定した毘沙門天の姿に、逆に夜叉が顔を真っ赤にしてうつむいた。
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