たとえこの恋が世界を滅ぼしても6

堂宮ツキ乃

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1章

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「あれ? こんにちは~」

「へっ? こんにちは」

 後ろから聞こえた挨拶に振り向くと、夜叉と同じ髪色の女性が不思議そうな顔をして立っていた。彼女は腰にまで届く長い髪を頭の後ろで縛り、ざっくばらんな前髪で左目を隠している。夜叉はコートを着ているというのに彼女はシンプルなワイシャツにジーンズという肌寒そうないでたちだ。

 しかし彼女は吹いてきた冷たい風など気にも止めない様子で髪を耳にかけた。

「君。この辺のコ?」

「あ、いえ。たまたま通りかかっただけで」

 なんだろうこのデジャブ。夜叉は巫女に話しかけられた時のことを思い出しながら八重桜の方を振り向いた。しかしそこにはもう誰もいない。

 気まぐれそうな巫女だったし階段を下りてどこかへ行ってしまったかもしれない。

 呆気ない別れだったな、と残念に思いつつ新たに現れた女性の方を振り向くと彼女は夜叉のことを指さして首をかしげた。

「ていうか君…もしかして夜叉?」

「はいそうです────ってえ?」

 2人は同じ色をした瞳を丸くしてしばらく見つめ合った後、えぇぇーと周りの田んぼに響きそうなほどよく通る声で叫び合った。



 夜叉と同じ色の髪と瞳を持った彼女は自分も戯人族だと名乗り、神社にあるそれまた小さな社務所に夜叉を案内した。

「私はカルラ。人間界でもこの名前を名乗ってるんよ」

 夜叉と同じような身長のカルラは慣れた様子で社務所に入り、チラシや新聞で少し散らかった床を片付けながら奥へと進んでいった。

 こじんまりとした社務所にはカルラの私物らしきリュックが転がっており、窓辺には長年の日焼けで黒ずんだらしい文机がある。その上に筆やすずり、大きな印章がのっているのでここで御朱印を授与しているのだろう。

「君のおとんには世話になった者だからね、こうして会えて嬉しいよ。今日はこんなとこで何しとったの?」

「実は学校に出た侍の幽霊の思い出の木を毘沙門天さんに移植してもらったので様子を見に来たんです」

 毘沙門天という名にはやはり聞き覚えがあるらしい。カルラは耳をピクッと動かして“そうなんだ”とたわいもない返事をした。

「最近はそっちの人たちと連絡を取ってないから知らんけど元気? テンさんは相変わらずキシさんと仲良いのかな」

「鬼子母神さんは…今どこにいるか分からないんです」

 夜叉の暗い声にカルラの顔も曇った。リュックの中をまさぐっていた彼女は動きを止めた後にゆっくりと手を出してその場に正座をした。

「そっかぁ…それはテンさんも寂しいだろうね」

「本人は私たちの前ではあんまりそういう顔はしないですけどもしかしたら…阿修羅と住んでるし少しはいいかもしれません」

「恋人と仲間は別だよ。そこんところはまだまだお子ちゃまやんね」

 カルラは眉を下げると夜叉の頭をポンポンと2回なでて立ち上がり、文机の前の窓を細く開けた。

「恋人は本人に頑張ってもらうとして、侍の幽霊ってのは?」

 暗くなった雰囲気を変えるかのようにカルラは明るく振る舞い、話題を変えた。

 彼女とは同じ朱雀族で夜叉と見た目も似ているが、阿修羅ほどではない。彼女の成長が止まったのはおそらく二十代中盤。身長は同じくらいだが醸し出す雰囲気が違う。

(恋人がどうのって語れるくらいだし…やっぱり大人なんだなぁ)

 夜叉は心の中で彼女のことを観察しながら、矢作のことを話そうと口を開いた。
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