16 / 31
4章
1
しおりを挟む
彦瀬たちが阿修羅に夜叉の疑惑について話している間、和馬は夜叉の授業後を知っていそうな人物に会うべく再び教室を移動した。
その人物とは他の女子とはまるで出立ちの違う生徒。ジャケットの代わりに黒い長ラン風のヒダがいくつか入った上着、寒くなってきたにも関わらずホットパンツを履き、ハイカットのシューズで堂々と廊下の真ん中を歩いている。
手にはフィンガーカットの黒いグローブをはめ、耳にはシルバーのピアスとイヤーカフ。何より目立つのは彼女の頭の左側の一房の金髪。聞けばそれは染めたものではなく地毛らしい。
「あの~…織原さん」
「ん? …あぁ、やーさんの弟の」
和馬に気づいたらしい彼女は横目で見上げると向き合い、腕を組んだ。
藍栄の守護神であり三大美人でもある彼女は意外にも身長は低く、男子の中で長身である和馬と並ぶと頭2つ分は差がある。
「急にごめんね。もしかしたらだけど────最近さくらと他校に乗り込んだりしてない?」
恐る恐る聞くと彼女はムッとした表情になって“心外だ"と言わんばかりに口を尖らせた。
「失礼なことを言うな。やーさんと乗り込んだのはアレが最初で最後だ────多分」
「あはは~…ですよね…」
いつの日か、と言うよりちょうど一年くらい前に彼女たちは近隣の響高校に目をつけられてケンカを買って乗り込んだことがある。その時の2人は何十人もの荒くれ男子生徒たちを相手に無双状態だったらしい。
三大美人の結城が絡んでいると言うこともあり2人は停学処分にならずに済んだ。
和馬の失礼な質問にムッとしつつも結城は夜叉の授業後の動きについて考えてくれてはいるらしい。彼女は腕を組んで俯いたが“そういえば…"と切り出した。
「そういえば最近、やーさんが校門で一年生をシメていたらしい。なんでも他校の男子生徒に絡んでいたとかで」
「他校の…」
「あぁ────喧嘩とは縁の無さそうな穏やかそうな男子だったってぼやいていた」
「え…それちょっと好反応じゃん!」
「なのか? やーさんのそういうのはよくわからん」
夜叉の彼氏候補見つけたかも────! 和馬はこめかみに一筋の汗を流し拳を握りしめた。彦瀬たちに共有すればもしかしたらその男子生徒を特定できるかもしれない。
和馬があまりにも男子生徒の話に食いつくので不審に思った結城にわけを話すと、結城は不本意そうに眉間に皺を寄せて重々しく口を開いた。
「こんなことは考えたくないしあってほしくはないが…やーさんが授業後に会う約束をしているとすれば影内朝来じゃないのか?」
「影内君…!」
完全に見落としていた。和馬も彼のことは知っている。修学旅行で他校の生徒にも関わらず夜叉の班に紛れて行動していたらしいし、やまめが言うには合流してからはずっと夜叉の隣にいたらしい。当然別の班である和馬は四六時中2人のことを見ていたわけではないが、2人の間には誰にも邪魔できない否、邪魔させないとオーラが取り巻いているような気さえした。
「最近はこの辺りでアイツを見ることはないがな。私としてはやーさんが心穏やかな男子とくっつくことを祈る」
最後に結城から夜叉を託すようなことを言われ、和馬は迷ったが軽く頷いて“ありがとう、じゃあね"と去った。
その人物とは他の女子とはまるで出立ちの違う生徒。ジャケットの代わりに黒い長ラン風のヒダがいくつか入った上着、寒くなってきたにも関わらずホットパンツを履き、ハイカットのシューズで堂々と廊下の真ん中を歩いている。
手にはフィンガーカットの黒いグローブをはめ、耳にはシルバーのピアスとイヤーカフ。何より目立つのは彼女の頭の左側の一房の金髪。聞けばそれは染めたものではなく地毛らしい。
「あの~…織原さん」
「ん? …あぁ、やーさんの弟の」
和馬に気づいたらしい彼女は横目で見上げると向き合い、腕を組んだ。
藍栄の守護神であり三大美人でもある彼女は意外にも身長は低く、男子の中で長身である和馬と並ぶと頭2つ分は差がある。
「急にごめんね。もしかしたらだけど────最近さくらと他校に乗り込んだりしてない?」
恐る恐る聞くと彼女はムッとした表情になって“心外だ"と言わんばかりに口を尖らせた。
「失礼なことを言うな。やーさんと乗り込んだのはアレが最初で最後だ────多分」
「あはは~…ですよね…」
いつの日か、と言うよりちょうど一年くらい前に彼女たちは近隣の響高校に目をつけられてケンカを買って乗り込んだことがある。その時の2人は何十人もの荒くれ男子生徒たちを相手に無双状態だったらしい。
三大美人の結城が絡んでいると言うこともあり2人は停学処分にならずに済んだ。
和馬の失礼な質問にムッとしつつも結城は夜叉の授業後の動きについて考えてくれてはいるらしい。彼女は腕を組んで俯いたが“そういえば…"と切り出した。
「そういえば最近、やーさんが校門で一年生をシメていたらしい。なんでも他校の男子生徒に絡んでいたとかで」
「他校の…」
「あぁ────喧嘩とは縁の無さそうな穏やかそうな男子だったってぼやいていた」
「え…それちょっと好反応じゃん!」
「なのか? やーさんのそういうのはよくわからん」
夜叉の彼氏候補見つけたかも────! 和馬はこめかみに一筋の汗を流し拳を握りしめた。彦瀬たちに共有すればもしかしたらその男子生徒を特定できるかもしれない。
和馬があまりにも男子生徒の話に食いつくので不審に思った結城にわけを話すと、結城は不本意そうに眉間に皺を寄せて重々しく口を開いた。
「こんなことは考えたくないしあってほしくはないが…やーさんが授業後に会う約束をしているとすれば影内朝来じゃないのか?」
「影内君…!」
完全に見落としていた。和馬も彼のことは知っている。修学旅行で他校の生徒にも関わらず夜叉の班に紛れて行動していたらしいし、やまめが言うには合流してからはずっと夜叉の隣にいたらしい。当然別の班である和馬は四六時中2人のことを見ていたわけではないが、2人の間には誰にも邪魔できない否、邪魔させないとオーラが取り巻いているような気さえした。
「最近はこの辺りでアイツを見ることはないがな。私としてはやーさんが心穏やかな男子とくっつくことを祈る」
最後に結城から夜叉を託すようなことを言われ、和馬は迷ったが軽く頷いて“ありがとう、じゃあね"と去った。
0
あなたにおすすめの小説
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
ふしあわせに、殿下
古酒らずり
恋愛
帝国に祖国を滅ぼされた王女アウローラには、恋人以上で夫未満の不埒な相手がいる。
最強騎士にして魔性の美丈夫である、帝国皇子ヴァルフリード。
どう考えても女泣かせの男は、なぜかアウローラを強く正妻に迎えたがっている。だが、将来の皇太子妃なんて迷惑である。
そんな折、帝国から奇妙な挑戦状が届く。
──推理ゲームに勝てば、滅ぼされた祖国が返還される。
ついでに、ヴァルフリード皇子を皇太子の座から引きずり下ろせるらしい。皇太子妃をやめるなら、まず皇太子からやめさせる、ということだろうか?
ならば話は簡単。
くたばれ皇子。ゲームに勝利いたしましょう。
※カクヨムにも掲載しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる