たとえこの恋が世界を滅ぼしても6

堂宮ツキ乃

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4章

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 休日明けの月曜日。この休日も夜叉は出かけていた。“こんな寒い日にスカートを履くヤツの気が知れん"とよくぼやいていた彼女が珍しくスカートを履いて。失くしたら嫌だし、と外に着けていかない青いバラのイヤリングまで身につけて。その代わり耳たぶが痛くなりそうなほどきっちりとネジを巻いていた。それは今年の誕生日に彦瀬と瑞恵から贈られたものだ。

 相変わらず和馬は夜叉に例のことを聞けず、力無く見送るだけだった。

 浮かない顔で教室に入ると楽器ケースを背負った昴が後ろから現れてそれをそっと下ろした。

「和馬~。土曜日に橋駅で路上ライブやったんだけどやーちゃんいたぜ」

「土曜日!? 橋駅!?」

「うん。冬の私服姿のやーちゃんあんま見たことないけどやっぱおしゃれだよね~。ロングスカートは大人っぽいやーちゃんによく似合ってたよ」

「ねぇ、隣に誰かいなかった?」

「ごめん。近い位置にいる女の子ばっか見てたし、やーちゃんすぐどっかに行っちゃって分かんなかった」

 手を合わせて謝る昴に和馬は俯き、ある決心を固めた────。




「実はさ…さくらの彼氏って影内君じゃないかな」

「「「あぁっ!」」」

 帰りのホームルームが終わって夜叉がいなくなった彼女の教室に集まったのは、いつの日か集まったのと同じメンバー。今日もまた和馬と昴はお邪魔している。

 和馬の上げた候補に一同は豆鉄砲を喰らったハトのように口を開けて固まった。

「そっか! そうだったね! 修学旅行で急に現れたあのイケメン男子────やーちゃんとずっとくっついてたしやっぱりそーゆーこと?」

「黒髪だし三年生って言ってたしやーちゃんもずっと乙女みたいな顔してたしあるんじゃない?」

「でもずっと“違う"って言ってなかった?」

「影内君の方は否定はしてなかったよ?」

 女子たちが早くも色めきたったが約一名、女子の格好をした阿修羅は目の下にクマを作って拳を握って体を震わせていた。

「それは許せません…」

「げっ、あーちゃん!」

「あやつだけは絶対に…!」

「あーちゃんも影内君と知り合いみたいだったよね? 実はライバル?」

「ライバルだなんてそんななまやさしいものではありません。あやつは本当に────」

 絞り出すような声でそれだけ言うと阿修羅は窓辺でたそがれ始めた。

 そんな阿修羅の寂しそうな背中に和馬も俯き、肘を置いて手を組むとそれで額を支えて彼もまた声を押し出して決心した。

「俺…さくらの後をつけることにする!」

「「「え゛っ」」」

 苦々しそうな一同の顔。顔を上げた和馬は気にせず鼻息を荒くした。ただ1人、阿修羅だけは賛同するような顔つきで振り向いていた。

「和馬…ストーカーになるの…」

「ストーカーじゃない! 身辺調査だ」

「それ探偵ごっこ?」

「やるったらやる! さくらにふさわしい人かどうか見極めなきゃ」

「あんたはやーちゃんのなんなのよ」

 ドン引きしたような瑞恵が頬を引き攣らせながら両隣のやまめと彦瀬の顔を見たが、2人は目を輝かせて親指を立たせた。

「それいい! 面白そう! ネタ集めにもなりそうだし…」

「彦瀬もバイトで休み取る!」

「え? え?」

 きっと一緒に反対してくれるだろうと思っていた友人は全く反対のことを考えていた。2人はむしろ和馬に賛成。約一名はバイトをサボるのにいい理由ができた、と考えていそうである。

 そして離れた位置にいたもう1名もいつの間にか戻ってきて和馬に手を差し出していた。

「そう言うことでしたら自分も協力します」

「あーちゃん…!」

 凛々しく微笑む勇ましい姿は和馬よりもどこか男らしくて頼もしい。和馬は涙目になりながら阿修羅の手を握り返した。嬉しさから力強く握ってしまいそうになったのをこらえてそっと触れたが、ちょっとやそっとでは壊れない力強さを持ち合わせた手のように思えた。

「ん~悪いけど俺は路上ライブもあるし練習もしたいからごめんね。まぁ路上ライブで見かけたら今度こそはちゃんと見とくよ」
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