17 / 31
4章
2
しおりを挟む
休日明けの月曜日。この休日も夜叉は出かけていた。“こんな寒い日にスカートを履くヤツの気が知れん"とよくぼやいていた彼女が珍しくスカートを履いて。失くしたら嫌だし、と外に着けていかない青いバラのイヤリングまで身につけて。その代わり耳たぶが痛くなりそうなほどきっちりとネジを巻いていた。それは今年の誕生日に彦瀬と瑞恵から贈られたものだ。
相変わらず和馬は夜叉に例のことを聞けず、力無く見送るだけだった。
浮かない顔で教室に入ると楽器ケースを背負った昴が後ろから現れてそれをそっと下ろした。
「和馬~。土曜日に橋駅で路上ライブやったんだけどやーちゃんいたぜ」
「土曜日!? 橋駅!?」
「うん。冬の私服姿のやーちゃんあんま見たことないけどやっぱおしゃれだよね~。ロングスカートは大人っぽいやーちゃんによく似合ってたよ」
「ねぇ、隣に誰かいなかった?」
「ごめん。近い位置にいる女の子ばっか見てたし、やーちゃんすぐどっかに行っちゃって分かんなかった」
手を合わせて謝る昴に和馬は俯き、ある決心を固めた────。
「実はさ…さくらの彼氏って影内君じゃないかな」
「「「あぁっ!」」」
帰りのホームルームが終わって夜叉がいなくなった彼女の教室に集まったのは、いつの日か集まったのと同じメンバー。今日もまた和馬と昴はお邪魔している。
和馬の上げた候補に一同は豆鉄砲を喰らったハトのように口を開けて固まった。
「そっか! そうだったね! 修学旅行で急に現れたあのイケメン男子────やーちゃんとずっとくっついてたしやっぱりそーゆーこと?」
「黒髪だし三年生って言ってたしやーちゃんもずっと乙女みたいな顔してたしあるんじゃない?」
「でもずっと“違う"って言ってなかった?」
「影内君の方は否定はしてなかったよ?」
女子たちが早くも色めきたったが約一名、女子の格好をした阿修羅は目の下にクマを作って拳を握って体を震わせていた。
「それは許せません…」
「げっ、あーちゃん!」
「あやつだけは絶対に…!」
「あーちゃんも影内君と知り合いみたいだったよね? 実はライバル?」
「ライバルだなんてそんななまやさしいものではありません。あやつは本当に────」
絞り出すような声でそれだけ言うと阿修羅は窓辺でたそがれ始めた。
そんな阿修羅の寂しそうな背中に和馬も俯き、肘を置いて手を組むとそれで額を支えて彼もまた声を押し出して決心した。
「俺…さくらの後をつけることにする!」
「「「え゛っ」」」
苦々しそうな一同の顔。顔を上げた和馬は気にせず鼻息を荒くした。ただ1人、阿修羅だけは賛同するような顔つきで振り向いていた。
「和馬…ストーカーになるの…」
「ストーカーじゃない! 身辺調査だ」
「それ探偵ごっこ?」
「やるったらやる! さくらにふさわしい人かどうか見極めなきゃ」
「あんたはやーちゃんのなんなのよ」
ドン引きしたような瑞恵が頬を引き攣らせながら両隣のやまめと彦瀬の顔を見たが、2人は目を輝かせて親指を立たせた。
「それいい! 面白そう! ネタ集めにもなりそうだし…」
「彦瀬もバイトで休み取る!」
「え? え?」
きっと一緒に反対してくれるだろうと思っていた友人は全く反対のことを考えていた。2人はむしろ和馬に賛成。約一名はバイトをサボるのにいい理由ができた、と考えていそうである。
そして離れた位置にいたもう1名もいつの間にか戻ってきて和馬に手を差し出していた。
「そう言うことでしたら自分も協力します」
「あーちゃん…!」
凛々しく微笑む勇ましい姿は和馬よりもどこか男らしくて頼もしい。和馬は涙目になりながら阿修羅の手を握り返した。嬉しさから力強く握ってしまいそうになったのをこらえてそっと触れたが、ちょっとやそっとでは壊れない力強さを持ち合わせた手のように思えた。
「ん~悪いけど俺は路上ライブもあるし練習もしたいからごめんね。まぁ路上ライブで見かけたら今度こそはちゃんと見とくよ」
相変わらず和馬は夜叉に例のことを聞けず、力無く見送るだけだった。
浮かない顔で教室に入ると楽器ケースを背負った昴が後ろから現れてそれをそっと下ろした。
「和馬~。土曜日に橋駅で路上ライブやったんだけどやーちゃんいたぜ」
「土曜日!? 橋駅!?」
「うん。冬の私服姿のやーちゃんあんま見たことないけどやっぱおしゃれだよね~。ロングスカートは大人っぽいやーちゃんによく似合ってたよ」
「ねぇ、隣に誰かいなかった?」
「ごめん。近い位置にいる女の子ばっか見てたし、やーちゃんすぐどっかに行っちゃって分かんなかった」
手を合わせて謝る昴に和馬は俯き、ある決心を固めた────。
「実はさ…さくらの彼氏って影内君じゃないかな」
「「「あぁっ!」」」
帰りのホームルームが終わって夜叉がいなくなった彼女の教室に集まったのは、いつの日か集まったのと同じメンバー。今日もまた和馬と昴はお邪魔している。
和馬の上げた候補に一同は豆鉄砲を喰らったハトのように口を開けて固まった。
「そっか! そうだったね! 修学旅行で急に現れたあのイケメン男子────やーちゃんとずっとくっついてたしやっぱりそーゆーこと?」
「黒髪だし三年生って言ってたしやーちゃんもずっと乙女みたいな顔してたしあるんじゃない?」
「でもずっと“違う"って言ってなかった?」
「影内君の方は否定はしてなかったよ?」
女子たちが早くも色めきたったが約一名、女子の格好をした阿修羅は目の下にクマを作って拳を握って体を震わせていた。
「それは許せません…」
「げっ、あーちゃん!」
「あやつだけは絶対に…!」
「あーちゃんも影内君と知り合いみたいだったよね? 実はライバル?」
「ライバルだなんてそんななまやさしいものではありません。あやつは本当に────」
絞り出すような声でそれだけ言うと阿修羅は窓辺でたそがれ始めた。
そんな阿修羅の寂しそうな背中に和馬も俯き、肘を置いて手を組むとそれで額を支えて彼もまた声を押し出して決心した。
「俺…さくらの後をつけることにする!」
「「「え゛っ」」」
苦々しそうな一同の顔。顔を上げた和馬は気にせず鼻息を荒くした。ただ1人、阿修羅だけは賛同するような顔つきで振り向いていた。
「和馬…ストーカーになるの…」
「ストーカーじゃない! 身辺調査だ」
「それ探偵ごっこ?」
「やるったらやる! さくらにふさわしい人かどうか見極めなきゃ」
「あんたはやーちゃんのなんなのよ」
ドン引きしたような瑞恵が頬を引き攣らせながら両隣のやまめと彦瀬の顔を見たが、2人は目を輝かせて親指を立たせた。
「それいい! 面白そう! ネタ集めにもなりそうだし…」
「彦瀬もバイトで休み取る!」
「え? え?」
きっと一緒に反対してくれるだろうと思っていた友人は全く反対のことを考えていた。2人はむしろ和馬に賛成。約一名はバイトをサボるのにいい理由ができた、と考えていそうである。
そして離れた位置にいたもう1名もいつの間にか戻ってきて和馬に手を差し出していた。
「そう言うことでしたら自分も協力します」
「あーちゃん…!」
凛々しく微笑む勇ましい姿は和馬よりもどこか男らしくて頼もしい。和馬は涙目になりながら阿修羅の手を握り返した。嬉しさから力強く握ってしまいそうになったのをこらえてそっと触れたが、ちょっとやそっとでは壊れない力強さを持ち合わせた手のように思えた。
「ん~悪いけど俺は路上ライブもあるし練習もしたいからごめんね。まぁ路上ライブで見かけたら今度こそはちゃんと見とくよ」
0
あなたにおすすめの小説
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
結婚する事に決めたから
KONAN
恋愛
私は既婚者です。
新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。
まずは、離婚してから行動を起こします。
主な登場人物
東條なお
似ている芸能人
○原隼人さん
32歳既婚。
中学、高校はテニス部
電気工事の資格と実務経験あり。
車、バイク、船の免許を持っている。
現在、新聞販売店所長代理。
趣味はイカ釣り。
竹田みさき
似ている芸能人
○野芽衣さん
32歳未婚、シングルマザー
医療事務
息子1人
親分(大島)
似ている芸能人
○田新太さん
70代
施設の送迎運転手
板金屋(大倉)
似ている芸能人
○藤大樹さん
23歳
介護助手
理学療法士になる為、勉強中
よっしー課長
似ている芸能人
○倉涼子さん
施設医療事務課長
登山が趣味
o谷事務長
○重豊さん
施設医療事務事務長
腰痛持ち
池さん
似ている芸能人
○田あき子さん
居宅部門管理者
看護師
下山さん(ともさん)
似ている芸能人
○地真央さん
医療事務
息子と娘はテニス選手
t助
似ている芸能人
○ツオくん(アニメ)
施設医療事務事務長
o谷事務長異動後の事務長
ゆういちろう
似ている芸能人
○鹿央士さん
弟の同級生
中学テニス部
高校陸上部
大学帰宅部
髪の赤い看護師
似ている芸能人
○田來未さん
准看護師
ヤンキー
怖い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる