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4章
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友人や弟が夜叉について探ろうと作戦を立てていることを本人は全く知らず、戯人族の間に訪れていた。
「見て、舞花。この前橋駅にできた新しいたまごカフェに行ってきた」
「可愛らしい店内でありんすね」
「でしょ?」
夜叉はスマホの画面をスライドさせながら母親に何枚も写真を見せた。クリーム色を基調とした壁には割れてギザギザになった殻から流れ落ちるような卵の絵がたくさん描かれている。床に近い場所には鶏とひよこの絵もある。店内のテーブルにも似たような絵が描かれ、椅子の背もたれの部分は鶏やひよこを象ったものになっている。
スライドして次に出てきた写真は彼女が食べたのであろう食事。白い茶碗に白米が美しく盛られ、横の器には卵が1つ。シンプルなデザインの醤油差しもある。おかずには漬物や魚、だし巻き卵という和食セットだ。
「すっごく美味しかった! 究極の卵かけご飯もいいけどここのは白米が格別に美味しかった…」
食べている時のことを思い出したのか彼女はうっとりとした顔で口を半開きにしていた。油断するとよだれがこぼれそうだ。
母親────舞花は着物の袖元で口を隠して微かに笑った。娘の食、特に卵かけご飯に対しての情熱は健在らしい。
そんな彼女の今日の装いは紺碧の下地に笹が描かれた着物に山吹色の帯を合わせている。着物は夫である朱雀のものだが帯は新しく仕立ててもらったものだ。
他に見せる写真はあるだろうかとスマホをさわっている夜叉はオレンジのセーターに黒のニットパンツを合わせている。
舞花は写真をもっとよく見ようと娘の手元を覗き込み、たまごカフェ以外にも食べ物の写真があることに気づいて“あら"と小さく声を上げた。
「誰と行きんした? 向かい側にも食事がありんすね」
「────あ、これはその…」
急に夜叉は口ごもって顔を赤らめた。その様子に舞花は柔らかく微笑んでそっと頭を撫でた。
「主もそういう歳になりんしたか…。楽しかったようで何より」
「うん…」
珍しく恥ずかしそうにそれ以上は話したがらない彼女に詮索することはせず、舞花はスッと立ち上がって着物のシワを直した。
「お茶を淹れてきんす。少し待ちなんし」
「うん、ありがと」
「今朝作っておいたさつまいもの茶巾絞りも持ってきんしょう」
「わーい!」
食べ物につられると途端に色っぽい話のことなど忘れて子どものように喜ぶ。17になったというのに────と舞花は呆れつつも嬉しさを抑えきれずに早く持ってこようと障子を開けた。
朱雀の────今は舞花の部屋で1人、夜叉は座布団の上で足を伸ばしてくつろいでいた。他の頭領の前ではこうもいかないが1人の時や舞花や阿修羅の前ではここでも気を抜ける。
彼女は後ろ手をつきながら障子を眺めた。ここは常に夜なので障子の向こうにある縁側や庭の行燈や石灯籠の灯りが頼りだ。それらは火を絶やさないように朱雀族の見た目が少年少女の者たちが定期的に油を注して回っている。今もその時間らしく障子越しに小柄な少女が通って行くのが見えた。
(また美百合が出て来そう)
夜叉は美百合と初めて会った時のことを思い出して微笑んだ。画面越しに見る彼女は神秘的で綺麗で文字通り手の届かない存在に見えた。しかし実際に会ってみるとどこか外れていて変なあだ名をつけてみたりとお茶目な一面がある。
ぼうっと眺めていたら障子越しにまた誰かが通りかかった。今度は大柄な人影だ。髪が長いのだろうか、後ろでまとめた髪を頭のてっぺんに沿わせてちょんまげのように固定している。大柄なだけあって足音が座っている夜叉の元まで振動として伝わってくる。
誰だろう、見たことない気がする。夜叉は首を傾げて動く人影を眺めていた。ここでは成人の姿をしている者は数少ない。夜叉が会ったことある中では青龍くらいだ。しかし彼はどちらかと言うと線が細い方だ。
彼女は部屋の中から大柄な人物が通り過ぎていくのを眺めていたが突然立ち止まり、こちらに振り向いた。
「えっ。誰…」
夜叉が慌てて部屋の隅へサササッと移動していると障子が勢いよく開く音がした。
「朱雀ー! 失礼するぞ!」
「はえ…?」
「見て、舞花。この前橋駅にできた新しいたまごカフェに行ってきた」
「可愛らしい店内でありんすね」
「でしょ?」
夜叉はスマホの画面をスライドさせながら母親に何枚も写真を見せた。クリーム色を基調とした壁には割れてギザギザになった殻から流れ落ちるような卵の絵がたくさん描かれている。床に近い場所には鶏とひよこの絵もある。店内のテーブルにも似たような絵が描かれ、椅子の背もたれの部分は鶏やひよこを象ったものになっている。
スライドして次に出てきた写真は彼女が食べたのであろう食事。白い茶碗に白米が美しく盛られ、横の器には卵が1つ。シンプルなデザインの醤油差しもある。おかずには漬物や魚、だし巻き卵という和食セットだ。
「すっごく美味しかった! 究極の卵かけご飯もいいけどここのは白米が格別に美味しかった…」
食べている時のことを思い出したのか彼女はうっとりとした顔で口を半開きにしていた。油断するとよだれがこぼれそうだ。
母親────舞花は着物の袖元で口を隠して微かに笑った。娘の食、特に卵かけご飯に対しての情熱は健在らしい。
そんな彼女の今日の装いは紺碧の下地に笹が描かれた着物に山吹色の帯を合わせている。着物は夫である朱雀のものだが帯は新しく仕立ててもらったものだ。
他に見せる写真はあるだろうかとスマホをさわっている夜叉はオレンジのセーターに黒のニットパンツを合わせている。
舞花は写真をもっとよく見ようと娘の手元を覗き込み、たまごカフェ以外にも食べ物の写真があることに気づいて“あら"と小さく声を上げた。
「誰と行きんした? 向かい側にも食事がありんすね」
「────あ、これはその…」
急に夜叉は口ごもって顔を赤らめた。その様子に舞花は柔らかく微笑んでそっと頭を撫でた。
「主もそういう歳になりんしたか…。楽しかったようで何より」
「うん…」
珍しく恥ずかしそうにそれ以上は話したがらない彼女に詮索することはせず、舞花はスッと立ち上がって着物のシワを直した。
「お茶を淹れてきんす。少し待ちなんし」
「うん、ありがと」
「今朝作っておいたさつまいもの茶巾絞りも持ってきんしょう」
「わーい!」
食べ物につられると途端に色っぽい話のことなど忘れて子どものように喜ぶ。17になったというのに────と舞花は呆れつつも嬉しさを抑えきれずに早く持ってこようと障子を開けた。
朱雀の────今は舞花の部屋で1人、夜叉は座布団の上で足を伸ばしてくつろいでいた。他の頭領の前ではこうもいかないが1人の時や舞花や阿修羅の前ではここでも気を抜ける。
彼女は後ろ手をつきながら障子を眺めた。ここは常に夜なので障子の向こうにある縁側や庭の行燈や石灯籠の灯りが頼りだ。それらは火を絶やさないように朱雀族の見た目が少年少女の者たちが定期的に油を注して回っている。今もその時間らしく障子越しに小柄な少女が通って行くのが見えた。
(また美百合が出て来そう)
夜叉は美百合と初めて会った時のことを思い出して微笑んだ。画面越しに見る彼女は神秘的で綺麗で文字通り手の届かない存在に見えた。しかし実際に会ってみるとどこか外れていて変なあだ名をつけてみたりとお茶目な一面がある。
ぼうっと眺めていたら障子越しにまた誰かが通りかかった。今度は大柄な人影だ。髪が長いのだろうか、後ろでまとめた髪を頭のてっぺんに沿わせてちょんまげのように固定している。大柄なだけあって足音が座っている夜叉の元まで振動として伝わってくる。
誰だろう、見たことない気がする。夜叉は首を傾げて動く人影を眺めていた。ここでは成人の姿をしている者は数少ない。夜叉が会ったことある中では青龍くらいだ。しかし彼はどちらかと言うと線が細い方だ。
彼女は部屋の中から大柄な人物が通り過ぎていくのを眺めていたが突然立ち止まり、こちらに振り向いた。
「えっ。誰…」
夜叉が慌てて部屋の隅へサササッと移動していると障子が勢いよく開く音がした。
「朱雀ー! 失礼するぞ!」
「はえ…?」
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