たとえこの恋が世界を滅ぼしても6

堂宮ツキ乃

文字の大きさ
18 / 31
4章

しおりを挟む
 友人や弟が夜叉について探ろうと作戦を立てていることを本人は全く知らず、戯人族のに訪れていた。

「見て、舞花まいか。この前橋駅にできた新しいたまごカフェに行ってきた」

「可愛らしい店内でありんすね」

「でしょ?」

 夜叉はスマホの画面をスライドさせながら母親に何枚も写真を見せた。クリーム色を基調とした壁には割れてギザギザになった殻から流れ落ちるような卵の絵がたくさん描かれている。床に近い場所には鶏とひよこの絵もある。店内のテーブルにも似たような絵が描かれ、椅子の背もたれの部分は鶏やひよこを象ったものになっている。

 スライドして次に出てきた写真は彼女が食べたのであろう食事。白い茶碗に白米が美しく盛られ、横の器には卵が1つ。シンプルなデザインの醤油差しもある。おかずには漬物や魚、だし巻き卵という和食セットだ。

「すっごく美味しかった! 究極の卵かけご飯もいいけどここのは白米が格別に美味しかった…」

 食べている時のことを思い出したのか彼女はうっとりとした顔で口を半開きにしていた。油断するとよだれがこぼれそうだ。

 母親────舞花は着物の袖元で口を隠して微かに笑った。娘の食、特に卵かけご飯に対しての情熱は健在らしい。

 そんな彼女の今日の装いは紺碧の下地に笹が描かれた着物に山吹色の帯を合わせている。着物は夫である朱雀すざくのものだが帯は新しく仕立ててもらったものだ。

 他に見せる写真はあるだろうかとスマホをさわっている夜叉はオレンジのセーターに黒のニットパンツを合わせている。

 舞花は写真をもっとよく見ようと娘の手元を覗き込み、たまごカフェ以外にも食べ物の写真があることに気づいて“あら"と小さく声を上げた。

「誰と行きんした? 向かい側にも食事がありんすね」

「────あ、これはその…」

 急に夜叉は口ごもって顔を赤らめた。その様子に舞花は柔らかく微笑んでそっと頭を撫でた。

「主もそういう歳になりんしたか…。楽しかったようで何より」

「うん…」

 珍しく恥ずかしそうにそれ以上は話したがらない彼女に詮索することはせず、舞花はスッと立ち上がって着物のシワを直した。

「お茶を淹れてきんす。少し待ちなんし」

「うん、ありがと」

「今朝作っておいたさつまいもの茶巾絞りも持ってきんしょう」

「わーい!」

 食べ物につられると途端に色っぽい話のことなど忘れて子どものように喜ぶ。17になったというのに────と舞花は呆れつつも嬉しさを抑えきれずに早く持ってこようと障子を開けた。




 朱雀の────今は舞花の部屋で1人、夜叉は座布団の上で足を伸ばしてくつろいでいた。他の頭領の前ではこうもいかないが1人の時や舞花や阿修羅の前ではここでも気を抜ける。

 彼女は後ろ手をつきながら障子を眺めた。ここは常に夜なので障子の向こうにある縁側や庭の行燈や石灯籠の灯りが頼りだ。それらは火を絶やさないように朱雀族の見た目が少年少女の者たちが定期的に油を注して回っている。今もその時間らしく障子越しに小柄な少女が通って行くのが見えた。

(また美百合が出て来そう)

 夜叉は美百合と初めて会った時のことを思い出して微笑んだ。画面越しに見る彼女は神秘的で綺麗で文字通り手の届かない存在に見えた。しかし実際に会ってみるとどこか外れていて変なあだ名をつけてみたりとお茶目な一面がある。

 ぼうっと眺めていたら障子越しにまた誰かが通りかかった。今度は大柄な人影だ。髪が長いのだろうか、後ろでまとめた髪を頭のてっぺんに沿わせてちょんまげのように固定している。大柄なだけあって足音が座っている夜叉の元まで振動として伝わってくる。

 誰だろう、見たことない気がする。夜叉は首を傾げて動く人影を眺めていた。ここでは成人の姿をしている者は数少ない。夜叉が会ったことある中では青龍くらいだ。しかし彼はどちらかと言うと線が細い方だ。

 彼女は部屋の中から大柄な人物が通り過ぎていくのを眺めていたが突然立ち止まり、こちらに振り向いた。

「えっ。誰…」

 夜叉が慌てて部屋の隅へサササッと移動していると障子が勢いよく開く音がした。

「朱雀ー! 失礼するぞ!」

「はえ…?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

処理中です...