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6章
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夜叉と岸田のことを観察できる隣の車両に乗り込んだ一同は、彼らに背を向けつつ時々振り向いて観察した。
座れる席がなかったのか2人は吊革につかまって談笑していた。時々会話が途切れるようだが、2人の間に気まずそうな空気が流れることはない。
女子の中で高身長の方の夜叉だが、高校生男子にしてはかなり長身の岸田と身長差がいい感じだ。彼女は岸田と話している間はわずかに見上げている。時々目を細めたり見開いたりする様子は可愛らしい。
「やーちゃんの女の顔をする瞬間ってあんまり見れないよね」
「家だと相田光守の動画を見てる時くらいかな…」
交代で振り向き、彼らが一体何を話しているのかを想像した。
「瑞恵は彼氏いたことあるでしょ?」
「うん。まぁ学校がどうとかそんなんばっかだったかな…」
「やーちゃんたちは学校が違うしそういう話はめっちゃ盛り上がりそうだね」
女子3人は憧れの視線を向ける。他の高校生よりも大人っぽい見た目と雰囲気をもつ夜叉と岸田はお似合いで。何をしても画になる様子はドラマを見ているようだ。
「皆は彼氏いたことあるの?」
「私はあるけど…」
「彦瀬はりゅうちゃんかな」
「それペットじゃん…。そういう和馬は?」
「ないよ」
「ていうか和馬はやーちゃんがいるからめっさ美人彼女がいるって誤解されてきたでしょ。いつも一緒に登校してるもんね」
「ん~…なくはないかな────おわっと!」
次の駅に近づいてきたのかブレーキがかかり、電車が減速し始めた。その拍子に和馬がつんのめりそうになりやまめに両手で押し返される。
「ごめんね…」
「大丈夫。和馬とラッキーハプニングがあっても嬉しくないから」
「お、おう…」
「あっちはラッキーハプニングになってるみたいだよ」
「なんだって!?」
減速している車内では降りる準備をし始める乗客もいた。しかしまだ降りる予定のない夜叉と岸田は抱き合っていた。正確には和馬と同じようにつんのめった夜叉が岸田に抱き寄せられていた。
「…ッ!」
「あーちゃん、顔怖いよ」
「…はっ、すみません」
「あーちゃんはやっぱりやーちゃんガチ勢なんだなぁ…。てかあぁいう電車の中でのネタもいいね! 岸田君におっぱい当たっちゃって…これがラッキースケベ?」
「何言ってんの」
隣の車両の2人は"大丈夫?""ありがとう"というような会話をしているようだ。頬を染めて照れ顔の夜叉はその場に居づらくなったのか顔をそらしている。軽やかに笑う岸田は慣れた様子で彼女の背中をポンポンと叩く。コートを着た背中に広がる紅赤の髪を一房すくうと優しく微笑んだ。
「うわ~…」
つい見惚れてしまった阿修羅以外の4人は、再び電車が動き出した勢いで揃ってひっくり返りそうになった。
岸田と夜叉が連れ立って降りたのは、和馬にとって馴染みの深い土地だった。
「富橋駅久しぶりに来たな~」
「和馬は元々富橋の中学出身で、やまめちゃんは高城住みだもんね」
「そうそう。彦ちゃんとみーちゃんは富川だっけ?」
「うん。いつも富橋で乗り換えてるよ」
改札を出てすぐに綺麗な広場に出た。壁側には花が植わったプランターが置かれていたり、富橋の名物を紹介するパネルが置かれている。その隣には大きな液晶が設置され、富橋駅周辺の地図が映し出されていた。
広場にいくつかある大きな柱のそばでは待ち合わせをしているらしい人たちが、スマホを片手に改札から出てくる群れを眺めている。別の場所ではツアー客らしき大きな荷物を持った人たちが、ツアー会社の名前が入った旗を持った添乗員の元に集まっていた。
「あ、やーちゃんと岸田君が行っちゃうよ」
ゴツいサングラスをつけたり頭の上に乗せている5人の集団は、改札の外の券売機前を通過していく夜叉たちの後を追う。
「わぁ、駅ビルがあるよ!」
「知ってる! でも今はやーちゃんが先!」
ガラス越しに見えるシュークリーム屋やタピオカ屋に目を引かれた彦瀬のことを、やまめが力強く引っ張って連れていく。
先に進むにつれて通行人が少なくなったり隠れられる物陰が無くなっていくので5人は焦りながら距離をとる。
夜叉たちは駅の外に出てペデストリアンデッキを横に見ながら、階段を下りてまっすぐ歩いていく。下にある市電のりばをやまめは珍しそうに眺めていた。
「ここって二階だったんだ~…。あ、市電きた。あれ乗ってみたい!」
「後でね。尾行が終わったらね」
てすりに駆け寄ったやまめのことを今度は瑞恵が引っ張っていった。
座れる席がなかったのか2人は吊革につかまって談笑していた。時々会話が途切れるようだが、2人の間に気まずそうな空気が流れることはない。
女子の中で高身長の方の夜叉だが、高校生男子にしてはかなり長身の岸田と身長差がいい感じだ。彼女は岸田と話している間はわずかに見上げている。時々目を細めたり見開いたりする様子は可愛らしい。
「やーちゃんの女の顔をする瞬間ってあんまり見れないよね」
「家だと相田光守の動画を見てる時くらいかな…」
交代で振り向き、彼らが一体何を話しているのかを想像した。
「瑞恵は彼氏いたことあるでしょ?」
「うん。まぁ学校がどうとかそんなんばっかだったかな…」
「やーちゃんたちは学校が違うしそういう話はめっちゃ盛り上がりそうだね」
女子3人は憧れの視線を向ける。他の高校生よりも大人っぽい見た目と雰囲気をもつ夜叉と岸田はお似合いで。何をしても画になる様子はドラマを見ているようだ。
「皆は彼氏いたことあるの?」
「私はあるけど…」
「彦瀬はりゅうちゃんかな」
「それペットじゃん…。そういう和馬は?」
「ないよ」
「ていうか和馬はやーちゃんがいるからめっさ美人彼女がいるって誤解されてきたでしょ。いつも一緒に登校してるもんね」
「ん~…なくはないかな────おわっと!」
次の駅に近づいてきたのかブレーキがかかり、電車が減速し始めた。その拍子に和馬がつんのめりそうになりやまめに両手で押し返される。
「ごめんね…」
「大丈夫。和馬とラッキーハプニングがあっても嬉しくないから」
「お、おう…」
「あっちはラッキーハプニングになってるみたいだよ」
「なんだって!?」
減速している車内では降りる準備をし始める乗客もいた。しかしまだ降りる予定のない夜叉と岸田は抱き合っていた。正確には和馬と同じようにつんのめった夜叉が岸田に抱き寄せられていた。
「…ッ!」
「あーちゃん、顔怖いよ」
「…はっ、すみません」
「あーちゃんはやっぱりやーちゃんガチ勢なんだなぁ…。てかあぁいう電車の中でのネタもいいね! 岸田君におっぱい当たっちゃって…これがラッキースケベ?」
「何言ってんの」
隣の車両の2人は"大丈夫?""ありがとう"というような会話をしているようだ。頬を染めて照れ顔の夜叉はその場に居づらくなったのか顔をそらしている。軽やかに笑う岸田は慣れた様子で彼女の背中をポンポンと叩く。コートを着た背中に広がる紅赤の髪を一房すくうと優しく微笑んだ。
「うわ~…」
つい見惚れてしまった阿修羅以外の4人は、再び電車が動き出した勢いで揃ってひっくり返りそうになった。
岸田と夜叉が連れ立って降りたのは、和馬にとって馴染みの深い土地だった。
「富橋駅久しぶりに来たな~」
「和馬は元々富橋の中学出身で、やまめちゃんは高城住みだもんね」
「そうそう。彦ちゃんとみーちゃんは富川だっけ?」
「うん。いつも富橋で乗り換えてるよ」
改札を出てすぐに綺麗な広場に出た。壁側には花が植わったプランターが置かれていたり、富橋の名物を紹介するパネルが置かれている。その隣には大きな液晶が設置され、富橋駅周辺の地図が映し出されていた。
広場にいくつかある大きな柱のそばでは待ち合わせをしているらしい人たちが、スマホを片手に改札から出てくる群れを眺めている。別の場所ではツアー客らしき大きな荷物を持った人たちが、ツアー会社の名前が入った旗を持った添乗員の元に集まっていた。
「あ、やーちゃんと岸田君が行っちゃうよ」
ゴツいサングラスをつけたり頭の上に乗せている5人の集団は、改札の外の券売機前を通過していく夜叉たちの後を追う。
「わぁ、駅ビルがあるよ!」
「知ってる! でも今はやーちゃんが先!」
ガラス越しに見えるシュークリーム屋やタピオカ屋に目を引かれた彦瀬のことを、やまめが力強く引っ張って連れていく。
先に進むにつれて通行人が少なくなったり隠れられる物陰が無くなっていくので5人は焦りながら距離をとる。
夜叉たちは駅の外に出てペデストリアンデッキを横に見ながら、階段を下りてまっすぐ歩いていく。下にある市電のりばをやまめは珍しそうに眺めていた。
「ここって二階だったんだ~…。あ、市電きた。あれ乗ってみたい!」
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てすりに駆け寄ったやまめのことを今度は瑞恵が引っ張っていった。
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