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6章
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階段を下りてアーケードを進んでいった夜叉と岸田は、この辺りで一番大きな本屋に入っていった。金色の取手がついた重たそうなガラス戸を岸田が開けて夜叉に"どうぞ"とすすめる。その様子に紳士だな…とつい感心してしまう。
「本当に同じ高校生なの? 彦瀬、学校であんなことされたことない」
「彦瀬は女の子扱いされる枠じゃないからね」
「違うよ! ウチの学校に紳士がいないだけだよ!」
「彦瀬さんお静かに。尾行の基本です」
「はい…」
阿修羅の有無を言わせない静かな声に一同は黙る。やっぱり阿修羅は隠密行動に慣れている気がする。
四階建ての大きな本屋は階ごとに新刊、小説、マンガ、文房具や画材などを扱っている。夜叉たちは雑誌がたくさん置かれた一階にいる。特に相田光守が好きな夜叉は彼が載った雑誌の表紙を見つけて目を離せないでいるらしい。
旅行雑誌を読んでいるフリをした5人は、広げた雑誌を顔の高さまで持ち上げて夜叉のことを見つめていた。
「さくらー。なんか買う?」
「ううん。大丈夫」
「その雑誌気になってるんじゃないの?」
「ちょっとね。でも多分また学校の図書室で見れると思うから」
確かに夜叉が雑誌を買って家で読む、というのは見たことがない。いつも発売日近くに図書室のソファで眺めているのが通例だ。
「俺が買おうか?」
「え。なんで。大丈夫だよ」
「相田光守が好きって言ってただろ。こういうの一冊くらいは手元に置いていてもいいんじゃないか」
「いいよ、本当に大丈夫だから。一回読んだら満足しちゃうタイプだから。それに電車代を出してもらってるのに悪いよ」
「気にするな。俺が好きでやってるんだから」
────和馬ー。今日の晩御飯何ー?
────今日は肉じゃがかなー。
────あ…糸こんにゃくと絹さやを抜いて調味料に変えてカレーにして!
────え~またぁ?
────だってカレー食べたいもん。
(あれ猫被ってんのかな…)
岸田の申し出を前に恐縮して遠慮ばかりする夜叉のことを和馬は薄目で見つめていた。
晩御飯はあれがいいとか変えて欲しいとか、食器の片付けは後でやるからとか、夜叉は自宅では遠慮がないところがある。きっと友だちの前でもそうなんだろう。静かに寄ってきた瑞恵が小声でボソリと話した。
「…やーちゃん、傍若無人とまでは行かないけど普段はもっと気楽に自由にしてる」
「まだ素が出せる相手じゃないってこと?」
「さぁ…。もしかしたら岸田君フラれるかもよ。やーちゃん、やっぱなんか違う」
「そうなの? さすが恋愛上級者は目の付け所が違うなぁ」
「そんな上級者とかじゃないけど…。でもやーちゃん、よく見たらあの時と顔が違うよ。修学旅行の時ほど乙女~って感じがしない」
「…あぁ、影内君?」
和馬は修学旅行でいつの間にか夜叉たちのグループに混ざっていた男子高校生のことを思い出した。黒髪で金色の猫目が特徴的だった。
同じ班の瑞恵たちから聞いた話によると小樽のガラス小物屋で偶然会ったらしい。そこから自由時間が終わるまで朝来は夜叉の隣から離れようとしなかった。阿修羅がどれだけ睨みつけようと怯むことなく。
「影内君とは本当に付き合ってなかったんだね。彼ともよくお似合いだと思ってたのに」
「私は今思えばそっちの方が圧倒的にお似合いだと思うけどなぁ…。やーちゃんもなんだかんだ言いながら修学旅行の時はすっごく楽しそうだった」
瑞恵は持っていた雑誌を閉じると元あった場所に戻してため息をついた。
「やーちゃんには選択を間違ってほしくない。私にあんなこと言ってくれたし」
「あんなこと?」
「ううん。こっちの話。ほら、私たちも出るよ。やーちゃんたちが外に出た」
「え…待って!」
和馬は素早く雑誌を戻すと、先立って歩く阿修羅の後を瑞恵と共に追った。
「本当に同じ高校生なの? 彦瀬、学校であんなことされたことない」
「彦瀬は女の子扱いされる枠じゃないからね」
「違うよ! ウチの学校に紳士がいないだけだよ!」
「彦瀬さんお静かに。尾行の基本です」
「はい…」
阿修羅の有無を言わせない静かな声に一同は黙る。やっぱり阿修羅は隠密行動に慣れている気がする。
四階建ての大きな本屋は階ごとに新刊、小説、マンガ、文房具や画材などを扱っている。夜叉たちは雑誌がたくさん置かれた一階にいる。特に相田光守が好きな夜叉は彼が載った雑誌の表紙を見つけて目を離せないでいるらしい。
旅行雑誌を読んでいるフリをした5人は、広げた雑誌を顔の高さまで持ち上げて夜叉のことを見つめていた。
「さくらー。なんか買う?」
「ううん。大丈夫」
「その雑誌気になってるんじゃないの?」
「ちょっとね。でも多分また学校の図書室で見れると思うから」
確かに夜叉が雑誌を買って家で読む、というのは見たことがない。いつも発売日近くに図書室のソファで眺めているのが通例だ。
「俺が買おうか?」
「え。なんで。大丈夫だよ」
「相田光守が好きって言ってただろ。こういうの一冊くらいは手元に置いていてもいいんじゃないか」
「いいよ、本当に大丈夫だから。一回読んだら満足しちゃうタイプだから。それに電車代を出してもらってるのに悪いよ」
「気にするな。俺が好きでやってるんだから」
────和馬ー。今日の晩御飯何ー?
────今日は肉じゃがかなー。
────あ…糸こんにゃくと絹さやを抜いて調味料に変えてカレーにして!
────え~またぁ?
────だってカレー食べたいもん。
(あれ猫被ってんのかな…)
岸田の申し出を前に恐縮して遠慮ばかりする夜叉のことを和馬は薄目で見つめていた。
晩御飯はあれがいいとか変えて欲しいとか、食器の片付けは後でやるからとか、夜叉は自宅では遠慮がないところがある。きっと友だちの前でもそうなんだろう。静かに寄ってきた瑞恵が小声でボソリと話した。
「…やーちゃん、傍若無人とまでは行かないけど普段はもっと気楽に自由にしてる」
「まだ素が出せる相手じゃないってこと?」
「さぁ…。もしかしたら岸田君フラれるかもよ。やーちゃん、やっぱなんか違う」
「そうなの? さすが恋愛上級者は目の付け所が違うなぁ」
「そんな上級者とかじゃないけど…。でもやーちゃん、よく見たらあの時と顔が違うよ。修学旅行の時ほど乙女~って感じがしない」
「…あぁ、影内君?」
和馬は修学旅行でいつの間にか夜叉たちのグループに混ざっていた男子高校生のことを思い出した。黒髪で金色の猫目が特徴的だった。
同じ班の瑞恵たちから聞いた話によると小樽のガラス小物屋で偶然会ったらしい。そこから自由時間が終わるまで朝来は夜叉の隣から離れようとしなかった。阿修羅がどれだけ睨みつけようと怯むことなく。
「影内君とは本当に付き合ってなかったんだね。彼ともよくお似合いだと思ってたのに」
「私は今思えばそっちの方が圧倒的にお似合いだと思うけどなぁ…。やーちゃんもなんだかんだ言いながら修学旅行の時はすっごく楽しそうだった」
瑞恵は持っていた雑誌を閉じると元あった場所に戻してため息をついた。
「やーちゃんには選択を間違ってほしくない。私にあんなこと言ってくれたし」
「あんなこと?」
「ううん。こっちの話。ほら、私たちも出るよ。やーちゃんたちが外に出た」
「え…待って!」
和馬は素早く雑誌を戻すと、先立って歩く阿修羅の後を瑞恵と共に追った。
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