たとえこの恋が世界を滅ぼしても6

堂宮ツキ乃

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7章

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 大人数になってしまい、朝来はもう少し静かなところに場所を移そうと提案した。彼が夜叉たちを連れ出したのは、駅前の広小路の沿いにある小さなカフェ。「けい」とだけ書かれた看板を見ながら入ると、キッチンが目の前にカウンター席の他にテーブル席がいくつかあった。

 キッチンには短い茶髪で無愛想な顔をした男が一人。夜叉たちの担任の神崎と同年代に見える。

「いらっしゃいませ!」

 いつの間にか現れた女性店員に笑顔で声をかけられ、朝来と夜叉だけはカウンター席に案内された。和馬たちは二組に分かれてテーブル席に座った。

「なんでさくらと影内君だけあっち?」

「さぁ…?」

 カウンター席に座る2人は何やらキッチンに立つ男に話しかけられているらしい。朝来はまるで知り合いのようににこやかで、夜叉は一瞬だけ驚いた顔をすると懐かしそうな表情になって微笑んだ。

「何話してんだろ…」

「いらっしゃいませ。お先にこちらを失礼します」

 先ほど出迎えた女性店員が人数分のケーキをのせたお盆を持って現れた。

 オレンジの短いポニーテールの彼女は白いワイシャツに黒いベストとスラックスとエプロンを身につけている。慣れた様子でケーキを置いていく。

「あの、僕らまだ何も頼んでないんですけど…」

「店長からのサービスだよ。飲み物も持ってくるけど何がいいかな?」

「彦瀬はオレンジジュースがいいです!」

「…じゃなくて! なんでですか?」

 口調が砕けた店員は最後にカトラリーが入った細長いカゴを置くと、カウンター席の方を見て微笑んだ。

「あそこにいる彼が店長の知り合いでね。せっかくだから君たちにおもてなししたいって」

「たまたま一緒に来ただけなのに…なんかすみません」

「いーのいーの。今日はゆっくりしていってね。じゃあ欲しいドリンクを教えてください!」

 随分若いノリの店員だ。和馬たちが遠慮せずに一斉に言ったドリンクを一発で聞き取ると確認することなく、自信満々に"ちょっと待っててね"と言い残してキッチンの奥へ消えた。



「なんで私もこっち?」

「ちょうどいいから彼に紹介しようかなと思って」

「彼?」

 カウンター席に座ると店主が2人の前に立った。切長の瞳に薄い唇。顔が整っているせいか無表情だと近寄り難い雰囲気がある。夜叉は何も言えず、目も合わせずにいると店主の方から声をかけてきた。

「君が朱雀さんの娘か」

「どうして父の名を…!」

「俺も元は人間ではなくてな。朱雀さんとは何度か会ったことがある」

「もしかしてあなたも戯人族なんですか…?」

「いや。俺はどちらかというとそこの悪鬼側だった」

 彼はそういうと"慶司けいじだ"と名乗って夜叉と握手をした。大きな手は見た目に反してあたたかかった。

「慶司は泣く子はもっと泣く、笑ってる子も泣き出す天下の大魔王様だったのさ」

「魔王?」

 悪鬼や死神のファンタジーチックな存在と違い、どちらかというとゲームっぽい。夜叉がまじまじと見つめていると慶司は朝来のことを睨みつけた。

「バカかよてめー…人聞きの悪いことを言いやがって」

「ごめんごめん。強面魔王様は実は、心の底ではお嫁さんがほしい純情魔王様だったんだ」

「お前の飲み物出がらしのお茶にするぞ」

「あはは、照れるなって」

 見た目は三十代の大人と高校生が対等に、否、高校生の方がおちょくっている様子に夜叉は2人のことを交互に見ているだけ。険悪そうにしているが本当は仲がいいのだろう。どちらも笑っている。

「娘さん、君のことは何て呼んだらいい」

「あ…夜叉です」

「やーちゃんだって。あっちで皆が教えてくれたよ」

 女性店員は慶司の妻だと紹介された。テーブル席にグラスとオレンジジュースが入った大きなピッチャーを運んだ彼女は、ポニーテールを揺らしながら夜叉の肩に手を置いてほほえんだ。

 やはり元魔王の妻なだけあってこちら側・・・・の話は夫からよく聞いているらしい。それだけ信頼し合っているのだろう。

「やーちゃんか、いいなそれ」

「ねぇ、あなたはどんな能力を持っているの? 青龍さんみたいに何か得意武器があるの?」

「私は武器は持ったことないです。その辺を跳ぶくらいで」

「彼女、すごいよ。戯人族に接触する前から跳躍能力が身についてた」

「ほーう。しっかり血を受け継いだんだな…。朱雀さんの能力も継いでるし、────さんにもよく似てる。雰囲気も」

 誰だろう。聞き取れなかった名前に夜叉は首を傾げた。

朱里しゅりだよ。やっぱり妹だから似てるよ」

 戯人族の始祖であり朝来の悪鬼時代の恋人。最近も少し話題にしたことがある人。つい唇に力が入り、夜叉は顔を逸らした。

「あの…妹ってどういうことですか?」

「あれ、君は知らなかったか。朱里さんは朱雀さんの妹だよ。君から見たら叔母だな」
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