37 / 43
8章
2
しおりを挟む
「さくら、晩御飯何がいい?」
「ん~…たまg」
「たまかけご飯はダメ。三日前に食べたばかりでしょ」
朝の登校中。さくらと和馬はいつものように連れ立って歩いていた。朝から晩御飯のメニューを話題にして。
「いやいや。究極のじゃなくて普通のでいいんだけど…」
「ダメ! いろんなもの食べないと」
「じゃあ聞くなよバーカ」
「その言い方はなくない?」
次第に言い合いになりかけた所を割り込んだのは、金髪チャラ男子の昴。
「桜木姉弟おっはよー。何々、朝からきょうだいげんか?」
「早瀬君!? お、おはよ…」
「おはよー。そんなんじゃないよ。和馬のアホが頭固いだけ」
「何それディスってるよね? 俺も本気で怒っていい?」
こめかみに血管を浮かべた和馬をよそに、夜叉と昴は並んで先に歩いている。
昴は背中に白のギターケースを背負い、右肩にスクールバッグをかけていた。両手はズボンのポケットに入れている。
「やーちゃんはいつも和馬と一緒に学校行ったり帰ってるの?」
「ううん。帰りはバラバラ。そういう昴ってさ、帰りに駅前で弾き語りしてギターケース開いてるの?」
「路上ライブのこと? 1人じゃなくてバンドメンバーではやるよ。ただ高城駅前ではやらいなぁ。人そんなに集まらないから」
「そうなんだ。確かに高校の数少ないからね…富橋に比べたら。人も少ないよな」
和馬が夜叉の隣へ小走りで追いつき、夜叉は男子2人に挟まれた。
「和馬。ウチの学校にバンドマンいたって知ってた?」
「同じクラスだからそりゃ知ってるよ。でもその前から早瀬君のことは知ってたんだけどね」
「そうなの? ファンなの?」
「いやそうじゃなくて…。入試の時、駅前で会ったの。早瀬君が制服のボタン取れてヤバッてなってる時に」
「そーそー。制服はしっかりしとけって学校でうるさかったから、ヤバイとは思ってたけどどうしようもなくてね。そしたら和馬が声かけてくれて、ちっちゃい裁縫道具持ってるって言うからボタンつけてもらった」
ねー、と昴は和馬に笑いかけた。和馬はたじたじとして苦笑い気味だったが。
和馬がソーイングセットを常に持ち歩いているのは夜叉も知っている。なかなか女子力が高い。
「和馬のおかげで俺は藍栄に入れたかな!」
「それは大げさだよ…」
3人で笑いながら歩いていると、周りの女子が色めきたっていた。さすが人気高校生バンド。街行く人が皆振り向く。ここは街ではなく登下校の通路だが。
「今度また富橋で路上ライブやるからさ、よかったら見に来てよ。観客多いからびっくりするかも」
「そうね。観に行きたいって前々から思ってたんだよね」
「俺は行ったことあるよ」
「そうだっけ?」
「そうだよ。言わなかったっけ? 富橋でライブあるからさくらも行かない? って」
「覚えてないわ…」
夜叉は首を振って肩をすくめた。そんなピンポイントで覚えてる会話は数少ない。
「やーちゃん、ライブ中の俺見て好きになっちゃうかもよ」
「はいはいそれはないよ」
「冷たーい。そういうコこそホレやすいんだけどなぁ…。ってことでどうよ和馬。将来のお兄ちゃんが俺ってのは。お姉ちゃんのこと全力で大事にするよ?」
「いけません! 高校生で結婚の話題なんて早いでしょうが!」
「急に親目線…」
和馬は腰に手を当てて頭から湯気を吹き出している。
夜叉は”はいはい…と言いたげな”表情で、ジャケットのポケットからスマホを取り出した。いつの間にか彦瀬から連絡が来ている。なんでも学年末テストの勉強をしばらくのあいだ、授業後に特訓させてほしいとかなんとか。
(ほー…。バイト命の彦瀬にしては珍しいな…。いつもテスト週間でもバイト入れて休憩中に教科書とかワークをチラ見してがんばってるって言ってたのに)
彼女はもちろんOKと返事をしてポケットにしまおうとしたが、すぐに通知が来てまた画面を見た。再び彦瀬からだ。さっそく今日の授業後から計画を立てたいとのこと。
夜叉は帰宅部でバイトもしてないから、授業後はもちろん空いている。
また学校でね、と返してスマホをポケットにしまった。和馬と昴は学年末テストが憂鬱というのを話題にしている。
学校でね、というのはかなわなかった。彦瀬が午前中で早退することになったのだ。
教室に入って彦瀬の姿を探したらなかった。瑞恵だけがいて、彼女に聞くと通学バスの中で突然調子が悪くなったという。顔が青白くなって眠たそうにしていたと。そして保健室へ直行。
連絡があったのはバスに乗っていたであろう時間だ。文面はあんなに元気そうだったのに…。
夜叉は瑞恵と彦瀬のことを心配し、保健室に行こうかと思ったがその度に邪魔が入った。教科担当に提出物を運ぶのを頼まれたり、急きょ授業が体育に変わって着替えることになったり。
「彦瀬大丈夫かな…。帰るくらいってよっぽど具合悪いんだよね」
「うん…。結局様子見に行けなかったな…。まさかインフルエンザ…!?」
「そしたら近くいたみーちゃん…」
「それ言うならやーちゃんもだからね!?」
「いやー!!」
冗談交じりに笑って彦瀬インフル説を唱えていたが、いつも元気で欠席するどころか体調不良になることもない彼女のことが、今日ばかりは心配だった。
「ん~…たまg」
「たまかけご飯はダメ。三日前に食べたばかりでしょ」
朝の登校中。さくらと和馬はいつものように連れ立って歩いていた。朝から晩御飯のメニューを話題にして。
「いやいや。究極のじゃなくて普通のでいいんだけど…」
「ダメ! いろんなもの食べないと」
「じゃあ聞くなよバーカ」
「その言い方はなくない?」
次第に言い合いになりかけた所を割り込んだのは、金髪チャラ男子の昴。
「桜木姉弟おっはよー。何々、朝からきょうだいげんか?」
「早瀬君!? お、おはよ…」
「おはよー。そんなんじゃないよ。和馬のアホが頭固いだけ」
「何それディスってるよね? 俺も本気で怒っていい?」
こめかみに血管を浮かべた和馬をよそに、夜叉と昴は並んで先に歩いている。
昴は背中に白のギターケースを背負い、右肩にスクールバッグをかけていた。両手はズボンのポケットに入れている。
「やーちゃんはいつも和馬と一緒に学校行ったり帰ってるの?」
「ううん。帰りはバラバラ。そういう昴ってさ、帰りに駅前で弾き語りしてギターケース開いてるの?」
「路上ライブのこと? 1人じゃなくてバンドメンバーではやるよ。ただ高城駅前ではやらいなぁ。人そんなに集まらないから」
「そうなんだ。確かに高校の数少ないからね…富橋に比べたら。人も少ないよな」
和馬が夜叉の隣へ小走りで追いつき、夜叉は男子2人に挟まれた。
「和馬。ウチの学校にバンドマンいたって知ってた?」
「同じクラスだからそりゃ知ってるよ。でもその前から早瀬君のことは知ってたんだけどね」
「そうなの? ファンなの?」
「いやそうじゃなくて…。入試の時、駅前で会ったの。早瀬君が制服のボタン取れてヤバッてなってる時に」
「そーそー。制服はしっかりしとけって学校でうるさかったから、ヤバイとは思ってたけどどうしようもなくてね。そしたら和馬が声かけてくれて、ちっちゃい裁縫道具持ってるって言うからボタンつけてもらった」
ねー、と昴は和馬に笑いかけた。和馬はたじたじとして苦笑い気味だったが。
和馬がソーイングセットを常に持ち歩いているのは夜叉も知っている。なかなか女子力が高い。
「和馬のおかげで俺は藍栄に入れたかな!」
「それは大げさだよ…」
3人で笑いながら歩いていると、周りの女子が色めきたっていた。さすが人気高校生バンド。街行く人が皆振り向く。ここは街ではなく登下校の通路だが。
「今度また富橋で路上ライブやるからさ、よかったら見に来てよ。観客多いからびっくりするかも」
「そうね。観に行きたいって前々から思ってたんだよね」
「俺は行ったことあるよ」
「そうだっけ?」
「そうだよ。言わなかったっけ? 富橋でライブあるからさくらも行かない? って」
「覚えてないわ…」
夜叉は首を振って肩をすくめた。そんなピンポイントで覚えてる会話は数少ない。
「やーちゃん、ライブ中の俺見て好きになっちゃうかもよ」
「はいはいそれはないよ」
「冷たーい。そういうコこそホレやすいんだけどなぁ…。ってことでどうよ和馬。将来のお兄ちゃんが俺ってのは。お姉ちゃんのこと全力で大事にするよ?」
「いけません! 高校生で結婚の話題なんて早いでしょうが!」
「急に親目線…」
和馬は腰に手を当てて頭から湯気を吹き出している。
夜叉は”はいはい…と言いたげな”表情で、ジャケットのポケットからスマホを取り出した。いつの間にか彦瀬から連絡が来ている。なんでも学年末テストの勉強をしばらくのあいだ、授業後に特訓させてほしいとかなんとか。
(ほー…。バイト命の彦瀬にしては珍しいな…。いつもテスト週間でもバイト入れて休憩中に教科書とかワークをチラ見してがんばってるって言ってたのに)
彼女はもちろんOKと返事をしてポケットにしまおうとしたが、すぐに通知が来てまた画面を見た。再び彦瀬からだ。さっそく今日の授業後から計画を立てたいとのこと。
夜叉は帰宅部でバイトもしてないから、授業後はもちろん空いている。
また学校でね、と返してスマホをポケットにしまった。和馬と昴は学年末テストが憂鬱というのを話題にしている。
学校でね、というのはかなわなかった。彦瀬が午前中で早退することになったのだ。
教室に入って彦瀬の姿を探したらなかった。瑞恵だけがいて、彼女に聞くと通学バスの中で突然調子が悪くなったという。顔が青白くなって眠たそうにしていたと。そして保健室へ直行。
連絡があったのはバスに乗っていたであろう時間だ。文面はあんなに元気そうだったのに…。
夜叉は瑞恵と彦瀬のことを心配し、保健室に行こうかと思ったがその度に邪魔が入った。教科担当に提出物を運ぶのを頼まれたり、急きょ授業が体育に変わって着替えることになったり。
「彦瀬大丈夫かな…。帰るくらいってよっぽど具合悪いんだよね」
「うん…。結局様子見に行けなかったな…。まさかインフルエンザ…!?」
「そしたら近くいたみーちゃん…」
「それ言うならやーちゃんもだからね!?」
「いやー!!」
冗談交じりに笑って彦瀬インフル説を唱えていたが、いつも元気で欠席するどころか体調不良になることもない彼女のことが、今日ばかりは心配だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる