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1章
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家に訪れた女子高生は愛奈と名乗った。彼女は、中学生の時から付き合っている彼氏がいると話した。
愛奈は二人の大人に見つめられて肩身が狭そうにしていたが、話していく内に表情がゆるんできた。
翼はお菓子も用意し、アヤトは頬杖をつきながらもだまって愛奈の話を聞き続けた。
「長いこと付き合っているけどあまり積極的になってくれなくて……。これって付き合ってる意味あるのかなって冷めちゃいそうなんです」
「ほほう……ちなみに彼氏は同じ高校なの?」
翼がほうじ茶を啜りながら聞くと、愛奈は首を横に振った。
「ある意味遠距離か……。連絡は取り合ってないの?」
「来るには来るんですけど、それだけじゃ物足りないって言うか。本当はもっと会いたいなって思います……」
「うんうん。そのもどかしい感じが青春ぽくていいねぇ~」
「バカ。真面目に聞きなさいよ」
翼はアヤトの脇腹を肘でつつき、眉をしかめた。
子どもの話すことだからと茶化したくはない。空になった愛奈のカップに再びお茶を注ぎ、個包装の和菓子アソートを手に取った。
「彼氏君は照れ屋さんなのかしら……」
「それはあるかもしれないです……。中学生の頃、他の男子の前ではほとんど話しかけてくれなかったから」
「そう……。その調子だと、周りがよくからかっていたんじゃない?」
「はい。私の友だちも私が彼氏と話すとニヤニヤしてました」
自分も中学生の時期があったから、だろうか。簡単に想像できてしまう光景だ。
その頃から付き合うおマセさんは少なからずいたし、翼も友だちからそういった相談を受けることがあった。
愛奈が自信なさげにうつむく様子に、彼女には悪いが”懐かしい”とさえ思ってしまった。
「……もしかしてだけど、あなたから彼氏君に話しかけることも少ないんじゃないかな。そんなことなかったら申し訳ないんだけど……」
「正直言うとそうです。私もからかわれるのが嫌なんで」
やっぱりね、とは声に出さなかった。
しかし、からかいというのは人を抑え込む要素があるとしみじみ感じていた。あの頃も付き合っている二人が一緒にいるだけで周りは冷やかし、デートをしたという話があるとすぐに広まった。
今思えば、周りでやいのやいの言っている連中は単純にうらやましがっていただけな気がする。
「今は周りの目はないでしょ? 愛奈ちゃんから連絡を取ることはあるの?」
しばらくだまっていたアヤトが口を開くと、彼女は首を横に振った。自分だって臆病で行動に移せないのが後ろめたいのだろう。
アヤトと翼は愛奈に気づかれないよう、ひそかに目を合わせてうなずき合った。
その日の夜。二階にある自室で翼はパソコンをさわっていた。
主に本業で使っていたものだが、今では専ら副業で活躍している。
「アヤト、あったよ。これが彼氏君とこの制服」
「ほほーう……男女共通で濃い青のジャケットね……」
「皆ネクタイなのね。そういう私もネクタイだったけどさ」
大きな窓の桟に腰かけていたアヤトは立ち上がり、翼のパソコンの画面をのぞきこんで目を細めた。
「それと彼氏君のアカウントも見つけた。……学生は個人を特定されるのが怖くないのかしら。毎回こんな感じで簡単に見つけられちゃう……」
「どれどれ」
市内にある高校のホームページと、スマホでSNSのアプリを開く。
そこには加工アプリで撮られたのであろう自撮りのアイコン。丸い枠の中で例の彼氏はガッツポーズをしていた。おまけに制服姿。プロフィールには高校二年生、○○中学出身、とご丁寧に書かれている。
「彼らにとっては身近な友だちとネットで繋がったり、好きな芸能人の日常をのぞくためのものだから。赤の他人に見られることなんて気にしてないんじゃない?」
「そういうもんかしら……。私が高校の時はSNSに個人を特定できるようなことは書くな、制服姿の写真を載せるなんてもってのほか、ってよく言われたものだったけど……」
まるで彼らの親や先生のような気分だ。翼は頬に手を当ててため息をついた。
「翼ちゃんは相変わらず真面目だね~。痛い目を見て学ぶことだってあるから気にしない気にしない」
「あんたってたまにものすごく冷酷よね……」
「ん? 俺には悪魔の血が流れているから時に薄情なんだよ」
悪魔。そう名乗ったアヤトは背中から真っ黒な羽を生やした。いつもだったら吸い込まれそうな碧眼は赤黒く変色し、小さな稲妻を宿している。
彼の普段とも、翼とも違う異形の姿。見慣れてしまった彼女は、恐れることなくパソコンから顔を上げた。
「下見に行くの? 今夜は寒くなさそうだけど気を付けて」
「ありがと。翼ちゃんは先に寝てなよ」
恐ろしい姿に変貌してもアヤトの様子は変わらず、翼に向かってウインクをして窓から飛び立った。
愛奈は二人の大人に見つめられて肩身が狭そうにしていたが、話していく内に表情がゆるんできた。
翼はお菓子も用意し、アヤトは頬杖をつきながらもだまって愛奈の話を聞き続けた。
「長いこと付き合っているけどあまり積極的になってくれなくて……。これって付き合ってる意味あるのかなって冷めちゃいそうなんです」
「ほほう……ちなみに彼氏は同じ高校なの?」
翼がほうじ茶を啜りながら聞くと、愛奈は首を横に振った。
「ある意味遠距離か……。連絡は取り合ってないの?」
「来るには来るんですけど、それだけじゃ物足りないって言うか。本当はもっと会いたいなって思います……」
「うんうん。そのもどかしい感じが青春ぽくていいねぇ~」
「バカ。真面目に聞きなさいよ」
翼はアヤトの脇腹を肘でつつき、眉をしかめた。
子どもの話すことだからと茶化したくはない。空になった愛奈のカップに再びお茶を注ぎ、個包装の和菓子アソートを手に取った。
「彼氏君は照れ屋さんなのかしら……」
「それはあるかもしれないです……。中学生の頃、他の男子の前ではほとんど話しかけてくれなかったから」
「そう……。その調子だと、周りがよくからかっていたんじゃない?」
「はい。私の友だちも私が彼氏と話すとニヤニヤしてました」
自分も中学生の時期があったから、だろうか。簡単に想像できてしまう光景だ。
その頃から付き合うおマセさんは少なからずいたし、翼も友だちからそういった相談を受けることがあった。
愛奈が自信なさげにうつむく様子に、彼女には悪いが”懐かしい”とさえ思ってしまった。
「……もしかしてだけど、あなたから彼氏君に話しかけることも少ないんじゃないかな。そんなことなかったら申し訳ないんだけど……」
「正直言うとそうです。私もからかわれるのが嫌なんで」
やっぱりね、とは声に出さなかった。
しかし、からかいというのは人を抑え込む要素があるとしみじみ感じていた。あの頃も付き合っている二人が一緒にいるだけで周りは冷やかし、デートをしたという話があるとすぐに広まった。
今思えば、周りでやいのやいの言っている連中は単純にうらやましがっていただけな気がする。
「今は周りの目はないでしょ? 愛奈ちゃんから連絡を取ることはあるの?」
しばらくだまっていたアヤトが口を開くと、彼女は首を横に振った。自分だって臆病で行動に移せないのが後ろめたいのだろう。
アヤトと翼は愛奈に気づかれないよう、ひそかに目を合わせてうなずき合った。
その日の夜。二階にある自室で翼はパソコンをさわっていた。
主に本業で使っていたものだが、今では専ら副業で活躍している。
「アヤト、あったよ。これが彼氏君とこの制服」
「ほほーう……男女共通で濃い青のジャケットね……」
「皆ネクタイなのね。そういう私もネクタイだったけどさ」
大きな窓の桟に腰かけていたアヤトは立ち上がり、翼のパソコンの画面をのぞきこんで目を細めた。
「それと彼氏君のアカウントも見つけた。……学生は個人を特定されるのが怖くないのかしら。毎回こんな感じで簡単に見つけられちゃう……」
「どれどれ」
市内にある高校のホームページと、スマホでSNSのアプリを開く。
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「そういうもんかしら……。私が高校の時はSNSに個人を特定できるようなことは書くな、制服姿の写真を載せるなんてもってのほか、ってよく言われたものだったけど……」
まるで彼らの親や先生のような気分だ。翼は頬に手を当ててため息をついた。
「翼ちゃんは相変わらず真面目だね~。痛い目を見て学ぶことだってあるから気にしない気にしない」
「あんたってたまにものすごく冷酷よね……」
「ん? 俺には悪魔の血が流れているから時に薄情なんだよ」
悪魔。そう名乗ったアヤトは背中から真っ黒な羽を生やした。いつもだったら吸い込まれそうな碧眼は赤黒く変色し、小さな稲妻を宿している。
彼の普段とも、翼とも違う異形の姿。見慣れてしまった彼女は、恐れることなくパソコンから顔を上げた。
「下見に行くの? 今夜は寒くなさそうだけど気を付けて」
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