OLと女子高生と悪魔の副業【アルファポリス版】

堂宮ツキ乃

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3章

12

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 この日も夕方に相談者が現れた。

 今日も雨が降ったが、時間が経つにつれて雨が止み雲がちぎれ、今は綺麗な夕暮れの空が広がっている。家の中にオレンジの光が射しこんできた。

 この日の相談者はいつものような高校生ではなく、翼より年上のOLだった。

 黒髪を後ろでぴっちりとまとめ、黒いジャケットにパンツ、ブラウスを合わせている。

 彼女は丸椅子の上で一礼した。

「妹から不思議な相談屋さんがいると聞きまして。突然お邪魔してすみません」

「いえ、いつもこのような感じですから」

 翼は彼女の前に温かいほうじ茶を差し出し、首を振った。

 相談屋さん。可愛らしい呼び名にまんざらでもない気持ちになる。それにこそばゆい。

 だが、OLの憂い気な表情に頬を引き締めた。

「私は葉月はづきといいます。職場のことで相談したくて」

「ほぉ……今の私ではあまりお力になれないかもしれませんが……」

「い、いえ! そんなことはないと思います! 私の悩みは仕事内容ではないんです。職場恋愛のことでして……」

「あ、どーもどーも遅れまして」

 緊張感なくリビングに現れたのは、パートナーの悪魔。彼は大胆にワイシャツのボタンを外し、ジャケットを肩にかけている。翼は無駄に色気を振りまく彼をぴしゃりと怒鳴りつけた。

「こーら前!」

「あ、ごめんごめん」

 ヘラヘラと笑っているアヤトはボタンを留め、翼の隣に座った。

 初っ端からゆるんだ登場に第一印象が最悪になってないだろうか……と、誠実さをアピールするために翼は背筋を伸ばした。

「実は私────職場の人と不倫しているんです」

「……おっと」

「はい?」

「あ……すみません。続けてどーぞ」

「はぁ……」

 腰を浮かせて話の腰を折ったアヤトだが、すぐになんでもないフリをして続きを促した。





 その日の夜。翼はスマホ片手に、自室の窓辺でくつろいでいた。

 あぐらをかき、時々体を揺らしながらスマホの画面を注視した。

(不倫かー……)

 スマホの画面には不倫の体験が綴られたまとめサイト。どれも生々しい描写ばかりで、もう不倫なんて二度としないという誓いで締められていたり、あの背徳感は他では味わないから今度はバレるまで粘りたいとか。後悔する者もいれば、味をしめて懲りずに何度も繰り返す者もいた。

(そもそも常識で考えたらマズいって分かるでしょうに……。本当に人間っていろいろいるのね)

 今まで仕事で出会って来た人間、ここにきてから出会った相談者たち。

 思えばいろんな種類の人間がいた。世間から外れた人がいたっておかしくないのだ。

────奥さんも子どももいるって分かってるけど、私にはその人しかいないんです。その人とあったかいお家で笑い合える時間があるなら、この人が外にいる間は私に分けてほしいんです。

 葉月が悪びれることなく言った言葉。ずっとそれが頭の中でぐるぐると駆け巡る。まるで催眠状態に入ったのか、自分に不倫の罪悪感が生まれて来た。そんな経験はないのに。

(うぅ……頭痛くなってきた……。こんなサイト見るのやめよう……)

 翼はしかめ面で頭を押さえた。負というか陰の気というか。不倫の体験談を読んでいても気持ちよくはならない。

 彼女は眉間のシワをつまむと、今日は寝てしまおうと立ち上がった。
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