咲かない桜

御伽 白

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1章

Part 28 『その仕事は魔法のようで』

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 包まれた鉄は熱され、叩かれるうちに細長く棒状に変わっていく。その様子は魔法を見ているようだった。

 水で濡らされた台が赤くなるまで熱された鉄に当たって蒸気をあげる。

 基本的に俺は、炉に鉄を入れた時にウチガネさんへ水を持っていくだけの作業をしていた。

 それ自体は、面白くはないが、こうして、刀鍛冶が一本の刀を仕上げる様は、興味深かった。鋼と金槌がぶつかる高い耳の奥に響くような金属音も、一つの物を作るためだけに生まれたこのピリピリとした緊張感も、今までの生活では得られない経験だ。

 ここまで、全力を注げるものが俺にはあっただろうか? そんな事を彼らを見ながら考えていた。

 ただ一つの作業にここまで向き合う事が俺に出来ただろうか?

 そんな全てをかけてもいいと思えるものに彼らは出会えたのだ。その事が少し羨ましく思えた。

 これは妖怪だからとか人間だからとかそういった次元の話ではないのだと思う。彼らは、人や妖怪である以前に刀鍛冶なのだ。刀を打つことに魅入られ、刀を打つこと自体が生きることなのだ。

 しばらくすると、先程まで30cm程度の鉄が、叩き伸ばされて今では、90cmほどに伸ばされていた。

 そうやって、眺めているとコンがこちらの方に戻ってくる。

 「休憩?」

 「いえ、今日は、造り込みと素延べ素延すのべが終わったんで師匠が歪みの修正をしたら終わりっすね。もう、時間も時間っすし」

 「本当だ。もう、だいぶ暗くなってきてる・・・」

 外を見てみると太陽は沈んで辺りは暗くなり始めていた。全く気づかなかった。

 「外に注意がいかないぐらい見ててくれたんっすね。もしかして、興味あったりするっすか?」

 「まあ、俺も男だからな。刀のワードに心動かない訳はないよな・・・」

 「ああ、わかるっすね~。俺もそんな感じでここに来て刀を打つのを無理言って見せてもらって修行させてもらうことになったんすよ。」

 「そうなのか?」

 「はいっす。不純な動機っすね~。だけど、きっかけなんてなんだって良いんっすよ。それがどんなものかなんてやってみないと分かんないんっすから・・・」

 「お前らいつまで駄弁ってやがる。今日はこれで終わりだ。さっさと風呂行くぞ。」

 呆れたような声を上げるウチガネさんもかなり疲れた様子だった。あれだけ高温の炉の近くにいてあれだけ金槌を振るって入れば疲れもするだろう。

 「ありがとうございました。師匠」

 「お疲れ様です。ウチガネさん」

 俺が声をかけるとウチガネさんは「どうだった? 大した手伝いはさせてやれなかったが・・・」と俺に尋ねてくる。

 「すごかったです。なんか・・・魔法を見てるみたいで・・・」

 「魔法か・・・そりゃあ、良い。今時、刀を打つところなんて見る機会ないだろうからな。ちょっとでも刺激になったんなら御の字だ。」

 「ちょっとなんてもんじゃないですよ・・・」

 そういうとウチガネさんは大きく笑い「なんだ。分かってんじゃねぇか。こりゃあ、コーヒー牛乳でも奢ってやるか! とりあえず、風呂だ。風呂! 汗と炭の匂いが染み付いちまってる。」と工房を出て行った。

 「風呂ってどこの?」

 「ここすっごい田舎なんすけど、温泉があるんっすよ。なんで仕事終わりはいっつもそこに行くんっすよ!」

 「へぇ、温泉かぁ・・・良いな。」

 自分もずいぶん汗だくになっているし、ここで大きなお風呂に入って体を洗うのは、気持ち良さそうだ。俺とコンもすぐにウチガネさんの後に続いた。
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