半竜の心臓〜私を刺したのはとても優しい人でした〜

織部

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竜の炎

竜の炎(3)

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「これが不死の王リッチか」
『中々、育ってますね』
 ヤタは、詠唱を唱えたまま紙の口で言う。
「準備は出来たのか?」
『後少しです。やはりこの魔法は難しい。司祭や神官の倍かかります』
「大司祭でも1人では行えないだろうが」
『斬れますか?』
「斬るのは問題ないが・・」
 アメノは、柄の先端に差した瓶を外し、新しい物に代える。
 刀身が聖水に濡れる。
「これが最後だ。なるべく早めにな」
『心得ました』
 アメノは、地面を蹴り上げ、不死の王リッチに向かう。
 不死の王リッチは、両腕を高く掲げる。
 10の指先の水のような皮膚が破れ、無数の動く死体アンデッドが鎖のように連なって伸び、アメノを襲う。
 あまりの不気味さに少女は、小さく悲鳴を上げる。
 アメノは、動く死体アンデッドの鎖の海を交わし、斬り裂き、打ち落としながら本体へと迫る。
 その動きはまるで岩山の隙間を潜りながら登る蛇のよう。
 不死の王アンデッドは、アメノの姿を捉えることが出来ないまま接近を許す。
 アメノは、動く死体アンデッドの鎖を蹴り上げ、上宮へと舞い上がると、脳天から刀を叩きつける。
 分厚いビニールの皮を割くような音共に刃が下に滑走する。
 地獄の底から湧くような悲鳴が迸り、裂けた皮膚から血流のように動く死体アンデッドが流れ落ちる。
 一刀両断。
 不死の王リッチの身体が真っ二つに裂け、崩れ、左右に倒れそうになる。
 勝った!
 ロシェは、喜びの声を上げる。
 しかし・・・。
『間に合いませんでしたね』
ヤタの紙の口が舌打ちする。
 アメノは、崩れゆく不死の王リッチに目もくれず刀身を見る。
 刀身の表面は乾き切っていた。
不死の王リッチの崩壊が止まる。
 左右に分かれた断面から動く死体アンデッドが折り重なりあいながら糸のように伸びて互いの手を繋ぎ、引っ張り合って巨体をくっつける。
 不死の王リッチの身体裂いた跡すら残らず、何事もなかったかのように元に戻り、赤黒い目が怪しく輝いてアメノを見据える。
 アメノは、聖水の効果の無くなった刀を構える。
「術はあとどれくらいだ?」
『3分くらいですね』
「腹減るにはいい時間だな」
『持ちますか?』
「問題ない」
 不死の王リッチの胸が大きく蠢き、胸を形成する動くし死体アンデッドが音を立てて砕ける。
 刹那。
 胸の皮が破れ、砕かれた頭蓋が、腕が、足が、内臓が弾丸となってアメノを襲う。
 アメノは、刀を高速で振るって刃の壁として死体の弾丸を防ぎ、弾く。
 刀の壁の隙間を抜けた死体の破片がアメノの身体を打ち、傷つけるもアメノの剣速は弱まらない。
 地面に落ちた死体の破片が蠢き、くっ付きあって不恰好な動く死体アンデッドに変貌してアメノを襲う。
 アメノは、剣の壁を形成したまま動く死体アンデッドを切り裂く、が聖水の効果を失った刀は倒すことは出来ても動きを止めることは出来ない。
 動く死体アンデッド達は切り裂かれた部位を不器用にくっつけ、関節すら曲がらなくなった身体を無理なり動かしてアメノを襲う。
 戦いでは圧倒するも浄化されることのない動く死体アンデッド達は、動きを止めることなく緩慢にアメノを襲う。
 アメノは、舌打ちし、身体を傷つけ、血を流しながらも死体の弾丸を、動く死体アンデッドを撃退していった。

『だから、魔法の剣を持てと言うのに』
 ヤタの紙の口が呆れたように言う。
 ロシェが不安げに目を揺らしてヤタを見る。
「ヤタ様、魔法は?」
『もう少しですよ』
 3分と言ったのに・・。
 ロシェは、着物の胸元を握りしめる。
 アメノの刀の勢いは衰えない。
 しかし、その身体は徐々に傷つき、衣服は破れ、血が滴り落ちて動く死人アンデッドを、不死の王リッチを喜ばせる。
 このままじゃあ・・。
『せめて火があれば・・』
 ヤタの紙の口がぼそりっと言う。
 自分でも言ったことに気づかないのか、詠唱に集中する。
「火・・・」
 ロシェは、ヤタの言葉を反芻する。
 動く死体アンデッドには浄化の奇跡か火を使うしかない。
 しかし、自分に浄化の奇跡なんてもちろん使えないし、炎だって・・。
 ロシェは、アメノを見る。
 もし、ヤタの魔法が間に合わなかったら・・。
 ロシェは、胸がぎゅっと締まるのを感じた。
(何で私はあの人から目を反らすことが出来ないの?)
 出会ったばかりなのに?
 ほとんどあの人のこと知らないのに。
 自分の心臓を刺した人なのに・・。
 あの人に何かあったら・・そう想うだけで胸が痛くなる。張り裂けそうになる。
(なんで・・なんで?)
 その時だ。
 心臓が身体中に響くように大きく高鳴る。

 思い出して・・。

 声が聞こえる。
 女の人の・・優しい声が。
 ロシェは、辺りを見回す。
 しかし、動く死体アンデッド不死の王リッチ、そしてヤタとアメノしかいない。

 貴方の中に流れてるのは偉大なる竜の血。

 再び声が聞こえた。
(お母様?)
 いや、違う。幼い頃に聞いた母の声とこの声の色はまるで違う。

 貴方なら出来る・・貴方は・・私なのだから。

 ロシェの目の前で赤い髪が揺らいだ。
 それはあの時に見た自分ではない誰かの夜の焚き火のような赤い髪。
 胸が熱くなる。
 心臓が激しく鳴り響く。
 ロシェの口から赤い光が小さく溢れ、橙色の鱗粉ようなものが舞う。
 それは小さな火の粉であった。
「えっ?」
 ロシェは、目風に乗って宙を舞う火の粉を目を見開いて追う。

 彼を・・救って。

 その瞬間、ロシェは走り出した。
 誰かに肩を押させるように。
 導かれるように。
 ヤタは、走り出したロシェに驚き・・目を細めた。
「アメノ様!」
 ロシェは、叫ぶ。
 その声は傷つきながらも乱れることなく刀を振るうアメノの耳にもしっかりと届く。
 アメノは、走ってくるロシェを見て驚く。
 ロシェは、胸をバンバン叩いて思い切り息を吸う。
 肺が熱くなる。
 心臓が激しく鳴る。
 ロシェは、大声を上げるように息を吐き出す。
 ロシェの小さな口から火炎が吹き荒れる。
 竜の炎ドラゴン・ブレス
 アメノは襲いくる動く死人アンデッドを颯となって切り裂き、その場を離れる。
 炎の波が動く死体アンデッド不死の王リッチの放つ死体の弾丸を飲み込む。
 水気を失い、腐敗した動く死体アンデッドの身体は枯れ木のように燃え上がり、焼けついたゴムのようにそり返り、他の動く死体アンデッド達にも燃え移っていく。
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