半竜の心臓〜私を刺したのはとても優しい人でした〜

織部

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竜の炎

竜の炎(4)

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 アメノは、燃え上がる動く死体アンデッドの四肢を裂き、首を落とす。
 動く死体アンデッド達は、そのまま地面に崩れ落ち、黒い炭と化した。
 ロシェは、身体の中が燃え上がるように熱くなり、呼吸すら苦しくなり、左胸を押さえる。
 動く死体アンデッド達は、仲間を燃やし尽くした相手であることにも考えが及ばないままにロシェを襲おうとする。
 一閃が走る。
「大丈夫か?」
 いつの間にかアメノがロシェの横にいた。
 迫り来る動く死体アンデッドを捌きながら声を掛けてくる。
「火・・吹けたのか?」
「いえ・・私も驚いてます」
 ロシェは、息をするのも苦しいと言わんばかりに脂汗を浮かべ、短く息をさながら答える。
 アメノは、猛禽類のような目を細める。
「苦しいとこ悪いがもう一吹き出来るか?」
 アメノは、ロシェの前に刀身を持っていく。
「こいつを燃やしてくれ。溶けて2度と使えなくなっても構わん」
 その間も襲いくる動く死体アンデッドを鞘を抜いて殴りつけ、蹴り付ける。
 ロシェは、胸をギュッと押さえながら刀身を睨む。
 正直、苦しい。
 もう一度でも吐けるかも分からない。
 でも・・。
「分かりました」
 ロシェは、胸をバンバン叩く。
 肺が、心臓が熱くなる。
 ロシェの小さな口か炎が吐かれ、アメノ刀の刀身を熱く燃やす。
 アメノは、刀身が燃え上がったのを確認すると動く死体アンデッドを一瞬で切り裂く。
 動く死体アンデッドは、切り裂かれると同時に一瞬で燃え尽きる。
 ロシェは、その場に膝を付き、苦しげに短く息を吐く。
 それでもアメノを見上げ、微笑む。
「ご武運を」
 アメノは、猛禽類のような目を細めて頷く。
 アメノの姿が消える。
 一瞬の内に動く死体アンデッドの群れの中に飛び込み、縦横無尽に切り裂いていく。
 頭蓋を、胸を、腹を、四肢を斬る。
 斬られた動く死体アンデッドから黒い煙が上がり、一瞬で炎が膨れ上がり。消炭と化す。
 不死の王リッチの赤黒い目がアメノを捉える。
 胸の膜が破れて砕けた頭蓋、内臓、四肢の弾丸が飛び、両手の指先から動く死体アンデッドの鎖が蠢き、襲いかかる。
 炎が走る。
 アメノは、襲いかかる吐き気を催す攻撃を全て切り裂く。
 弾丸を砕き、燃やし、動く死体アンデッドの鎖を走り。襲いくる敵を斬り、燃やしながら頭部を目指す。
 猛禽類のような目と赤黒い目が交差する。
 不死の王リッチの目の下に亀裂が走り、大きく開く。
 顎だ。
 しかし、そこから現れたのは歯でも舌でもなく、無数の骸骨達。
 骸骨達は雪崩のように吐き出され、アメノに襲いかかる。
 アメノは、逃げない。
 燃えたぎる刀を正中に構え、骸骨の嘔吐に向かって跳躍する。
 骸骨達が死骸に群がる蟻のように白い腕を伸ばしてアメノに掴み掛かり、着物が千切れ、皮膚が裂ける。
 しかし、アメノは臆することなく燃え上がる刀を振るい、骸骨の嘔吐の中を突き進む。
 骸骨達は、砕け、千切れ、斬られ、燃え上がる。
 炎に包まれた骸骨の嘔吐の中から血まみれのアメノが飛び出す。
 不死の王リッチの感情がないはずの赤黒い目が震え、裂けた口から断末魔のような悲鳴が上がる。
 アメノは、燃え上がる刀を振り上げる。
「成仏しろ」
 アメノの刀が不死の王リッチの首に滑り込み、一気に斬り裂く。
 不死の王リッチの首が音を立てずに落ちる。
 炎が落ちた首に、残された胴体に広がり燃え上がる。
 身体を構成する動く死体アンデッド達の叫び声が響き渡る。
 アメノが地面に降り立つ。
 刀から炎が消え去り、刃が飴細工のように溶けて地面に落ちる。
 不死の王リッチの身体が燃え尽き、消失する。
「アメノ様!」
 胸を押さえて座り込むロシェの口から歓喜の声が上がる。
 アメノは、火傷し、柄に張り付き、煙を上げる自分の右手を見る。
 瘴気が弱まり、全ての動く死体アンデッドを始末したかとように思えた。
 刹那。
 崖の下から再び瘴気が立ち昇る。
 たくさんの腐った手が崖から這いあがり、醜い姿を見せる。
 ロシェの表情が青ざめる。
 もうら竜の炎ドラゴン・ブレスを吐くことなんて出来ない。
 アメノも刀を失った。
 しかし、アメノには狼狽えた様子は見えない。
 冷徹に猛禽類のような目を崖の動く死体アンデッドに向けるだけだった。
 ロシェとアメノの背後から太陽のような光が舞い上がる。
「遅せえ」
 アメノは、ぼそりっと呟く。
「お待たせしましたね」
 ヤタが本来の口で話す。
 ヤタの両手に抱かれるように白く輝く大きな球体が握られている。
 白く輝く球体は、ゆっくりと上空に昇り、沈みかけた太陽と重なる。
清浄クリア
 ヤタが呟いた瞬間、白く輝く球体が風船のように弾ける。
 光が広がり、ロシェを、アメノを、崖の全体を包み込む。
 眩い光の中、肉の焼ける音ともに黒い煙のようなものが揺らめくのが見える。黒い澱みが荒波のように波打ち、蒸発していく。
 光が消える。
 崖から溢れんばかりだった黒い澱みと瘴気が消え去り、心地よい風と空気が鼻腔に入り込む。
 動く死体アンデッドも跡形もなく消える。
 元々、存在すらしていなかったかのように。
「皆さん」
 ヤタがゆっくりとした足取りで近寄ってくる。
「お疲れ様でした」
 ヤタは、にっこりと微笑んだ。
 ヤタの笑顔と、崖の向こうに傾き出した陽光を見て、ロシェはようやく終わったのだと悟った。
 左胸の心臓がほっとしたように小さく鳴った。 
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