10 / 16
第一章 開幕の襲来
神剣研究所にて
しおりを挟む
三時間後。
レイルは保管庫で資料を手に入れリンクに渡した後、神剣研究所で昨日の出来事を同僚の研究者達に話していた。
「神剣が喋った――ネェ」
メガネをくい、と上げて。白衣姿のひょろ長い男は言う。
「ほーん。興味深いっすね」気怠そうに茶髪パーマは毛先を弄りながらまるで興味なしのような態度で答える。
「やっぱり、誰かのイタズラなんですかね」
「マァ、そう考えるのが妥当だろう――ケド、決めつけるのはナンセンスだ」
メガネは独特の口調で語る。
「神剣は我々より上位の存在、世界を知る神がもたらした力。突然ふざけた喋りでレイルクンに接触を図ってもおかしくはナイ」
「……」
「しかしマァ、この剣が喋る機能、あるいは魔法を自発的に発動できるのであれバ。もっと早くに使って欲しかったものだがネ」
「ですよねぇ~……。あれ以来話しかけても、うんともすんとも言わないんです……」
「一先ず――。
この件は保留ダ。先ずは研究所内のメンバーとコンタクトを取り、入出記録もチェック。イタズラではないかを証明していこうじゃナイか」
「はい……!」
「あ、ちなみに。僕はそんなかったるいことしませんッスからねえ。 レイルさんがハードワーカーのやべぇ奴ってことには同意しますけど。直すのなら面と向かっていいますよ」
「私もだ。これに懲りたら少しは休息を取るのだゾ」
「あ、あはは……ソア達にも言われました。気を付けます」
「しかし、興味深い脅し文句を選んだものダ」
「というと?」
「使われていた闇の獣というワード。
……神話の時代、その圧倒的な力で大陸の七割を支配し、人々に恐怖の烙印を刻印して幾多の人々を生贄に捧げた邪神の遣い。創造神がこの世に降臨し、一人の勇者に神剣を授けるキッカケとなった存在で。
神剣使いと幾度に渡って激戦を繰り広げたという」
メガネはレイルに視線を向け、続ける。
「憶測だが、これ以上神剣に関わり続ければ君は神剣と完全に繋がった存在になってしまうと警告したかったのかもシレナイ。」
「完全に繋がる、ですか?」
「君は過去の事件で暴走中の神剣に接触したにも関わらず無事で済み、更には力を得た。これからも関わっていけば伝説の英雄神剣使いとして過酷な道を歩むことになるやもしれん」
レイルは自分の手に視線を落とし、ただ見つめる。
過去の事件、レイルがまだ幼い頃に起きた不慮の事故――。
「ちょっとぉメガネさん。レイル君に嫌な事思い出させないであげてくださいよ~」
「ム、すまないレイルクン。私は決してそういうわけでは……」
「んぇ? いえいえ全然、大丈夫ですよ!」
にこり、と作り笑いを浮かべる。
その脳裏である出来事がフラッシュバックされる。
もう何年前のことなのだろうか、十年が経過した頃だろうか?
それ程の年月が経過していても、こうして思い出すと胸をえぐられる気持ちになる。
今とあまり変わらない神剣研究所で幼い自分が見てしまったモノが鮮明に蘇る――。
物心つく前にレイルは母親を亡くした、父親から聞いた話では村を襲った魔物の仕業だという。それからレイルは父親と共に過ごし、男手ひとつで育てられたレイルの中で父親という存在はとても大きく偉大なものになっていた。
父は優秀な研究者だった。
当時失われていたとされていた神剣が発掘され、此処ルフスで神剣の研究が開始された時、父は神剣研究所の初期メンバーとして活動していた。
レイルはそれがとても誇らしかった。大人になったら父のような人になろうと本気で思っていた。
しかしある日、実験中に神剣が暴走。
父はその暴走に巻き込まれ命を落とした――。
諸事情で実験に参加していたレイルは目の前でソレを見てしまった。
神剣の光に包まれて苦しみもがく父の姿を。
当時の記憶は今でも鮮明に頭にこびり付いていた。
「兎に角」
メガネの声でレイルの意識が現実に引き戻される。
いつの間にか茶髪パーマの手がレイルの左肩に置かれていた。
「今日はもう帰りたまエ」
「えっ、でもまだ昼「い~からいいから。構いませんよ一日二日あなたが居なくたって僕らだけで何とか出来ますんで。それとも僕らを信用してないんですかぁ~?」
「なっ、そういう訳じゃないけど……!」
あの事件以来、神剣は暴走状態を保ったままとなり、あの日最初に神剣に触れたレイル以外誰も神剣に触れることができなくなってしまった。
何故自分にしか触れることができないのか、その理由はまだ解明できていない。だからこそ何かあった時の為に自分は常に神剣の傍にいるべきなのだとレイルは考えていた。
「心配ゴ無用、何かあったら私の転移魔法で呼びにいきますのデ」
「この人。転移魔法の才能だけはピカイチっすからね~」
「だけとは何だだけとは。君こそ怠けるくらいの才能しかないのではないか?」
「ほほ~ん。言いますねえ」
(あと、この二人だけにすると何が起こるか判らないからってのもあるんだけど……あ、あははは……)
メガネと茶髪パーマのいがみ合いを苦笑いしつつ眺めながらレイルはふぅ、と小さく息を吐いた。
「それじゃあ、お言葉に甘えても……」
「ム。そうしたまえ」
「へいへい~。そんじゃお疲れさまッス! レイルさん」
こうしてレイルは昼間の内から自由の身となるのであった。
レイルは保管庫で資料を手に入れリンクに渡した後、神剣研究所で昨日の出来事を同僚の研究者達に話していた。
「神剣が喋った――ネェ」
メガネをくい、と上げて。白衣姿のひょろ長い男は言う。
「ほーん。興味深いっすね」気怠そうに茶髪パーマは毛先を弄りながらまるで興味なしのような態度で答える。
「やっぱり、誰かのイタズラなんですかね」
「マァ、そう考えるのが妥当だろう――ケド、決めつけるのはナンセンスだ」
メガネは独特の口調で語る。
「神剣は我々より上位の存在、世界を知る神がもたらした力。突然ふざけた喋りでレイルクンに接触を図ってもおかしくはナイ」
「……」
「しかしマァ、この剣が喋る機能、あるいは魔法を自発的に発動できるのであれバ。もっと早くに使って欲しかったものだがネ」
「ですよねぇ~……。あれ以来話しかけても、うんともすんとも言わないんです……」
「一先ず――。
この件は保留ダ。先ずは研究所内のメンバーとコンタクトを取り、入出記録もチェック。イタズラではないかを証明していこうじゃナイか」
「はい……!」
「あ、ちなみに。僕はそんなかったるいことしませんッスからねえ。 レイルさんがハードワーカーのやべぇ奴ってことには同意しますけど。直すのなら面と向かっていいますよ」
「私もだ。これに懲りたら少しは休息を取るのだゾ」
「あ、あはは……ソア達にも言われました。気を付けます」
「しかし、興味深い脅し文句を選んだものダ」
「というと?」
「使われていた闇の獣というワード。
……神話の時代、その圧倒的な力で大陸の七割を支配し、人々に恐怖の烙印を刻印して幾多の人々を生贄に捧げた邪神の遣い。創造神がこの世に降臨し、一人の勇者に神剣を授けるキッカケとなった存在で。
神剣使いと幾度に渡って激戦を繰り広げたという」
メガネはレイルに視線を向け、続ける。
「憶測だが、これ以上神剣に関わり続ければ君は神剣と完全に繋がった存在になってしまうと警告したかったのかもシレナイ。」
「完全に繋がる、ですか?」
「君は過去の事件で暴走中の神剣に接触したにも関わらず無事で済み、更には力を得た。これからも関わっていけば伝説の英雄神剣使いとして過酷な道を歩むことになるやもしれん」
レイルは自分の手に視線を落とし、ただ見つめる。
過去の事件、レイルがまだ幼い頃に起きた不慮の事故――。
「ちょっとぉメガネさん。レイル君に嫌な事思い出させないであげてくださいよ~」
「ム、すまないレイルクン。私は決してそういうわけでは……」
「んぇ? いえいえ全然、大丈夫ですよ!」
にこり、と作り笑いを浮かべる。
その脳裏である出来事がフラッシュバックされる。
もう何年前のことなのだろうか、十年が経過した頃だろうか?
それ程の年月が経過していても、こうして思い出すと胸をえぐられる気持ちになる。
今とあまり変わらない神剣研究所で幼い自分が見てしまったモノが鮮明に蘇る――。
物心つく前にレイルは母親を亡くした、父親から聞いた話では村を襲った魔物の仕業だという。それからレイルは父親と共に過ごし、男手ひとつで育てられたレイルの中で父親という存在はとても大きく偉大なものになっていた。
父は優秀な研究者だった。
当時失われていたとされていた神剣が発掘され、此処ルフスで神剣の研究が開始された時、父は神剣研究所の初期メンバーとして活動していた。
レイルはそれがとても誇らしかった。大人になったら父のような人になろうと本気で思っていた。
しかしある日、実験中に神剣が暴走。
父はその暴走に巻き込まれ命を落とした――。
諸事情で実験に参加していたレイルは目の前でソレを見てしまった。
神剣の光に包まれて苦しみもがく父の姿を。
当時の記憶は今でも鮮明に頭にこびり付いていた。
「兎に角」
メガネの声でレイルの意識が現実に引き戻される。
いつの間にか茶髪パーマの手がレイルの左肩に置かれていた。
「今日はもう帰りたまエ」
「えっ、でもまだ昼「い~からいいから。構いませんよ一日二日あなたが居なくたって僕らだけで何とか出来ますんで。それとも僕らを信用してないんですかぁ~?」
「なっ、そういう訳じゃないけど……!」
あの事件以来、神剣は暴走状態を保ったままとなり、あの日最初に神剣に触れたレイル以外誰も神剣に触れることができなくなってしまった。
何故自分にしか触れることができないのか、その理由はまだ解明できていない。だからこそ何かあった時の為に自分は常に神剣の傍にいるべきなのだとレイルは考えていた。
「心配ゴ無用、何かあったら私の転移魔法で呼びにいきますのデ」
「この人。転移魔法の才能だけはピカイチっすからね~」
「だけとは何だだけとは。君こそ怠けるくらいの才能しかないのではないか?」
「ほほ~ん。言いますねえ」
(あと、この二人だけにすると何が起こるか判らないからってのもあるんだけど……あ、あははは……)
メガネと茶髪パーマのいがみ合いを苦笑いしつつ眺めながらレイルはふぅ、と小さく息を吐いた。
「それじゃあ、お言葉に甘えても……」
「ム。そうしたまえ」
「へいへい~。そんじゃお疲れさまッス! レイルさん」
こうしてレイルは昼間の内から自由の身となるのであった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる