【完結】虚

綾雅(りょうが)今年は7冊!

文字の大きさ
84 / 135
第二章

84.後悔とは真逆の涙

しおりを挟む
 エイシェットが近隣の飛べる魔獣を召集したお陰で、距離のあるドーレク国側と連絡が取れるようになった。ヴラゴのおっさん曰く、フェンリルの護衛により、何ら不自由なく監視を続けているらしい。

 蝙蝠であっても昼間に全員寝るわけではない。以前から洞窟の見張りをする者と入れ替えで行動してきたため、昼夜問わず情報が入る。それを預かった鳥達が運ぶ口伝えを聞いて、オレは考え込んだ。

 ドーレク側の脱出者が少ない。思ったより蔓延するのが早かったか。大量の死者が発生したなら、あの場所は潰してしまった方がいいか。フェンリルや吸血種は病に対して強いので、感染する恐れは少ない。原因を知って治癒するオレがいれば、完治させる自信もあった。だが、見張る必要がないなら封鎖する方が格段に安全だ。

「夜にドーレクを潰すか」

「焼き払う?」

「あのまま屋根を落とすつもりだ」

 多少の生き残りがいても埋めてしまえばいい。脱出して病を広める病原菌役がいないなら、ドーレクを放置する意味がなかった。焼き払えば菌も死滅するが、ドーレクの凄惨さを伝える遺跡が焼失する。それは惜しかった。

 エイシェットは不思議そうにした後、説明を求める。ドラゴンは番との間に隠し事を嫌うらしい。丁寧に話すことで、彼女は納得するのだ。内容が理解できたか、ではない。相手が隠し事をせずに話してくれたという事実が、エイシェットを満足させた。

「屋根落とすなら、私が運ぶ」

 にっこり笑って背に乗せるつもりのドラゴンに、よろしく頼むと口にした。些細なことでも頼られるのが嬉しいと言われたら、出来るだけ期待に沿ってやりたい。

「ふーん」

「アベルが来るから、ここの見張りを頼む予定だ。カインはまだ向こうだな」

 聞かれる前に追加で話したら、にこにこと笑った。幼く見えるがオレより年上だ。可愛いと表現するのは失礼だろうか。

 隣に座って腕を絡める彼女は幸せそうで、のんびりと木漏れ日を見上げた。駆け込んだアベルに後を任せ、日暮れを待ってエイシェットと飛び立つ。ドーレクの都は茶色い土のドームに覆われ、青の都の面影はなかった。脱出者がないことを空から確認し、大地の精霊に告げる。

「もういいよ」

 支えなくていい。お礼の魔力を注いだオレに、大地は淡々と応えた。不自然に盛り上がって空洞を作っていた屋根が落ち、下の建物ごと人間を潰していく。轟音が響き渡り、視界は土埃で覆われた。結界膜でエイシェットごと自分を守り、一度大地に降り立つ。すべての住民を飲み込んだ土に手を当て、改めて礼を告げた。自然の摂理に従い、重力に逆らわなければ、あの大きさの屋根は維持できない。大地の魔法は最大の役目を果たしてくれた。

 ドーレクの惨状は、タイバー国経由でバルトや周辺国へ伝わる。この現状を知るのは魔族のみだが、伝染病は人の噂と同じ速さで、各都市を落としていくだろう。旅人や使者が病を広げるのだ。見えない敵を防ぐ手立てはなく、対処療法もいずれ破綻する。

「どうした? 痛い?」

 心配そうなエイシェットの声に、オレは涙を零したことに気づいた。

「いいや。こんな簡単に終わらせるのが、悔しいだけだ」

 バルトも周辺国も、もっと苦しめてやりたい。オレが感じた絶望を与え、痛みを味わわせ、苦しんで死ね――与える死が病によるものだなんて足りなかった。自分勝手な感情が湧き上がる。この程度じゃ満足できない。膨れ上がる憎悪がオレの涙を生み出した。

「私がいる」

 どんな状態でも一緒にいる。そう告げる彼女に返せる言葉が見つからなくて、ただ無言で頷いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...