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第二章
84.後悔とは真逆の涙
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エイシェットが近隣の飛べる魔獣を召集したお陰で、距離のあるドーレク国側と連絡が取れるようになった。ヴラゴのおっさん曰く、フェンリルの護衛により、何ら不自由なく監視を続けているらしい。
蝙蝠であっても昼間に全員寝るわけではない。以前から洞窟の見張りをする者と入れ替えで行動してきたため、昼夜問わず情報が入る。それを預かった鳥達が運ぶ口伝えを聞いて、オレは考え込んだ。
ドーレク側の脱出者が少ない。思ったより蔓延するのが早かったか。大量の死者が発生したなら、あの場所は潰してしまった方がいいか。フェンリルや吸血種は病に対して強いので、感染する恐れは少ない。原因を知って治癒するオレがいれば、完治させる自信もあった。だが、見張る必要がないなら封鎖する方が格段に安全だ。
「夜にドーレクを潰すか」
「焼き払う?」
「あのまま屋根を落とすつもりだ」
多少の生き残りがいても埋めてしまえばいい。脱出して病を広める病原菌役がいないなら、ドーレクを放置する意味がなかった。焼き払えば菌も死滅するが、ドーレクの凄惨さを伝える遺跡が焼失する。それは惜しかった。
エイシェットは不思議そうにした後、説明を求める。ドラゴンは番との間に隠し事を嫌うらしい。丁寧に話すことで、彼女は納得するのだ。内容が理解できたか、ではない。相手が隠し事をせずに話してくれたという事実が、エイシェットを満足させた。
「屋根落とすなら、私が運ぶ」
にっこり笑って背に乗せるつもりのドラゴンに、よろしく頼むと口にした。些細なことでも頼られるのが嬉しいと言われたら、出来るだけ期待に沿ってやりたい。
「ふーん」
「アベルが来るから、ここの見張りを頼む予定だ。カインはまだ向こうだな」
聞かれる前に追加で話したら、にこにこと笑った。幼く見えるがオレより年上だ。可愛いと表現するのは失礼だろうか。
隣に座って腕を絡める彼女は幸せそうで、のんびりと木漏れ日を見上げた。駆け込んだアベルに後を任せ、日暮れを待ってエイシェットと飛び立つ。ドーレクの都は茶色い土のドームに覆われ、青の都の面影はなかった。脱出者がないことを空から確認し、大地の精霊に告げる。
「もういいよ」
支えなくていい。お礼の魔力を注いだオレに、大地は淡々と応えた。不自然に盛り上がって空洞を作っていた屋根が落ち、下の建物ごと人間を潰していく。轟音が響き渡り、視界は土埃で覆われた。結界膜でエイシェットごと自分を守り、一度大地に降り立つ。すべての住民を飲み込んだ土に手を当て、改めて礼を告げた。自然の摂理に従い、重力に逆らわなければ、あの大きさの屋根は維持できない。大地の魔法は最大の役目を果たしてくれた。
ドーレクの惨状は、タイバー国経由でバルトや周辺国へ伝わる。この現状を知るのは魔族のみだが、伝染病は人の噂と同じ速さで、各都市を落としていくだろう。旅人や使者が病を広げるのだ。見えない敵を防ぐ手立てはなく、対処療法もいずれ破綻する。
「どうした? 痛い?」
心配そうなエイシェットの声に、オレは涙を零したことに気づいた。
「いいや。こんな簡単に終わらせるのが、悔しいだけだ」
バルトも周辺国も、もっと苦しめてやりたい。オレが感じた絶望を与え、痛みを味わわせ、苦しんで死ね――与える死が病によるものだなんて足りなかった。自分勝手な感情が湧き上がる。この程度じゃ満足できない。膨れ上がる憎悪がオレの涙を生み出した。
「私がいる」
どんな状態でも一緒にいる。そう告げる彼女に返せる言葉が見つからなくて、ただ無言で頷いた。
蝙蝠であっても昼間に全員寝るわけではない。以前から洞窟の見張りをする者と入れ替えで行動してきたため、昼夜問わず情報が入る。それを預かった鳥達が運ぶ口伝えを聞いて、オレは考え込んだ。
ドーレク側の脱出者が少ない。思ったより蔓延するのが早かったか。大量の死者が発生したなら、あの場所は潰してしまった方がいいか。フェンリルや吸血種は病に対して強いので、感染する恐れは少ない。原因を知って治癒するオレがいれば、完治させる自信もあった。だが、見張る必要がないなら封鎖する方が格段に安全だ。
「夜にドーレクを潰すか」
「焼き払う?」
「あのまま屋根を落とすつもりだ」
多少の生き残りがいても埋めてしまえばいい。脱出して病を広める病原菌役がいないなら、ドーレクを放置する意味がなかった。焼き払えば菌も死滅するが、ドーレクの凄惨さを伝える遺跡が焼失する。それは惜しかった。
エイシェットは不思議そうにした後、説明を求める。ドラゴンは番との間に隠し事を嫌うらしい。丁寧に話すことで、彼女は納得するのだ。内容が理解できたか、ではない。相手が隠し事をせずに話してくれたという事実が、エイシェットを満足させた。
「屋根落とすなら、私が運ぶ」
にっこり笑って背に乗せるつもりのドラゴンに、よろしく頼むと口にした。些細なことでも頼られるのが嬉しいと言われたら、出来るだけ期待に沿ってやりたい。
「ふーん」
「アベルが来るから、ここの見張りを頼む予定だ。カインはまだ向こうだな」
聞かれる前に追加で話したら、にこにこと笑った。幼く見えるがオレより年上だ。可愛いと表現するのは失礼だろうか。
隣に座って腕を絡める彼女は幸せそうで、のんびりと木漏れ日を見上げた。駆け込んだアベルに後を任せ、日暮れを待ってエイシェットと飛び立つ。ドーレクの都は茶色い土のドームに覆われ、青の都の面影はなかった。脱出者がないことを空から確認し、大地の精霊に告げる。
「もういいよ」
支えなくていい。お礼の魔力を注いだオレに、大地は淡々と応えた。不自然に盛り上がって空洞を作っていた屋根が落ち、下の建物ごと人間を潰していく。轟音が響き渡り、視界は土埃で覆われた。結界膜でエイシェットごと自分を守り、一度大地に降り立つ。すべての住民を飲み込んだ土に手を当て、改めて礼を告げた。自然の摂理に従い、重力に逆らわなければ、あの大きさの屋根は維持できない。大地の魔法は最大の役目を果たしてくれた。
ドーレクの惨状は、タイバー国経由でバルトや周辺国へ伝わる。この現状を知るのは魔族のみだが、伝染病は人の噂と同じ速さで、各都市を落としていくだろう。旅人や使者が病を広げるのだ。見えない敵を防ぐ手立てはなく、対処療法もいずれ破綻する。
「どうした? 痛い?」
心配そうなエイシェットの声に、オレは涙を零したことに気づいた。
「いいや。こんな簡単に終わらせるのが、悔しいだけだ」
バルトも周辺国も、もっと苦しめてやりたい。オレが感じた絶望を与え、痛みを味わわせ、苦しんで死ね――与える死が病によるものだなんて足りなかった。自分勝手な感情が湧き上がる。この程度じゃ満足できない。膨れ上がる憎悪がオレの涙を生み出した。
「私がいる」
どんな状態でも一緒にいる。そう告げる彼女に返せる言葉が見つからなくて、ただ無言で頷いた。
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