【完結】虚

綾雅(りょうが)今年は7冊!

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第二章

85.戻れる場所なんてない

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 自分勝手な怒りで混乱した日から5日、発症者が出たらしい。救援を求める使者が要塞都市を出た後、人の出入りを制限するようになった。慌ただしい動きを見ながら、オレは次の案を考える。

「エイシェット、聞かなくていいから聞いててくれ」

 首を傾げる彼女の傍で、アベルは慣れた様子で寝そべった。顔を合わせないよう背中合わせで座り、互いに寄りかかる。この状態は落ち着くし、考え事が捗るんだよな。適度に感じる他者の体温も心地よかった。

「ヴラゴのおっさん達は引き上げた。現時点で潰したのは、アーベルライン国、城塞都市ラウガ、ヴァンク、ドーレク……取り掛かったのはタイバーの貿易拠点となる要塞都市だ」

 聞かなくていいの意味としては、相槌以上の話し掛けは不要という意味だ。なんとなく察したらしく、エイシェットは無言で頷いた。揺れが伝わって、状況を察する。

「今から目の前の都市とタイバー国を落としたら、オレの復讐相手って……バルトだけだよな」

「周辺は?」

「ああ、そうだな。今回広めた病か、あとは地震で沈めてもいい。どっちにしろ周辺国は強国バルトに逆らえなくて、手出ししなかった。そこまで憎い対象じゃないんだ」

 エイシェットがぐるると喉を鳴らす。不満そうな響きに、彼女の方が過激だと笑う。そんなに気になるなら、周辺国は彼女にくれてもいい。潰すなり、焼き払うなり気が済むようにしたらいい。そう提案したら、途端に機嫌が良くなった。

「バルトを……どうしてやろうか」

 病にくれてやる気はない。だが、許す気はさらさらない。ただ殺して地面に飲み込ませても満足できなかった。じゃあ、ドーレク国同様の奴隷にしたら満足できるかと問われたら、それも違う。

 もっと他にないのか? 残酷に心を抉り、血で血を洗う地獄を作り出す方法が。ヒントがあれば……と自分がたどった足跡を追い始めた。

「この世界に召喚されて、言葉も通じなかった。得体の知れない連中の中に放り出されて1人、怖かったな。徐々に言葉を覚えて、オレの知る言語との共通点を見つけてさ。意思疎通が出来るようになったら戦いの方法を叩き込まれた」

 死にかけるほどの訓練を経ても、大した能力は身に付かない。大量の魔力があるのに魔術が発動しなかった。役立たずを召喚したと罵られたこともあったっけ。

「後でリリィから聞いて理解したんだけど、魔術はこの世界にある理を利用している。だから異世界から来たオレは対象外なんだと。連中はそんなことも知らず、オレを召喚したんだ。身近な、オレの親や友人を対価に使って……」

 全部失くしてしまった。家族も友人も、下手すれば学校や街自体が消失したんじゃないか? 身近な人ほど大きな力に変換できると聞いた。顔を知ってる程度でも含まれるとしたら、街ごと変換された可能性もある。もう戻れる場所なんてない。

「こっちの奴らを全員殺しても、その魔力をかき集めたって、死んだ友人や家族は生き返らない」

 だから復讐をやめる? その選択肢だけはなかった。どれだけ残酷に殺すか、オレがこの世界で受けた仕打ちをどこまで返せるか。悩む時間はもう長くない。早くしなくては奴らが自滅する。

「……復讐方法、ね。何か思いつけばいいんだけど」

 生きてる連中を永遠に苦しめる、地獄みたいな場所があれば放り込んでやるのに。殺してくれと懇願する拷問を思いつけないことが悔しかった。
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