86 / 135
第二章
86.駄々を捏ねるガキだ
しおりを挟む
魔王城でリリィが呼んでいる。知らせを運んだカインの背に飛び乗った。私の背に乗れと文句を言うエイシェットだが、諦めて先に戻ったらしい。羽音が遠ざかっていった。
「いいの? 拗ねるよ」
「たまにはいいだろ。オレとお前達は兄弟同然なんだから」
ぐったりと背中の毛皮に懐く。この感触も久しぶりだ。最近はドラゴンの背で飛んでばかりだったから。エイシェットに不満はないけど、ゆっくり考え事をしたかったので丁度いい。
彼女の背じゃ、早く着きすぎるんだ。混乱した頭を整理しないと、新しい情報を詰め込まれても対応できない。このタイミングで呼び寄せるなら、おそらく今後の対策についてだろうし。
「バルト国を滅ぼして、エイシェットと番って……オレはそれでいいのかな」
ぽつりと呟いた本音に、カインは答えない。隣を走るアベルも無言だった。返事が欲しいわけじゃないから、これでいい。ただ言葉にすることで、気持ちの整理をつける一助にしたかった。
びゅんと風音を切って走るフェンリルの背に抱き着いて、飛んでくる枝や障害物を避ける。躍動する筋肉質の体が、直接振動を伝えてきた。同時に温もりも、だ。
日本にオレを待つ人はいなくて、だから引き戻す力がない日本に帰ることは不可能だと納得した。帰ったって、誰もオレを知らない世界で生きていくのは辛いし、もう孤独や迫害は嫌だ。魔族の中にいれば、魔力のおかげで多少伸びた寿命を満喫して死ねる。エイシェットやリリィ、イヴ、双子達がいて……エルフの婆さんにからかわれ、ラミアにちょっかい出され、時々ヴラゴのおっさんに血を提供しながら。
人間から奪った土地で、友人だった魔王の願い通りに子ども達を育てる。黒い霧がなければ、生まれてくる若い魔族も長生きできるだろう。逆ピラミッドになった魔族の年齢比率も改善されるはずだった。悪くない。なのに……違うと叫ぶ自分がいた。
リリィはかつて裏切られ、汚され、捨てられた。イヴは両親を殺され、自らも仮死状態で助けられた。双子も両親を殺されている。その意味では、エイシェットも状況が似ていた。卵を抱いた母竜は必死に抵抗したが殺され、奪われた我が子を取り戻した父竜も手傷を負って倒れた。どれも人間が行った行動の結果だ。
魔王は状況の改善を求めて、さまざまな交渉を行なったという。エルフの婆さんは、黒い霧で我が子を2人も失っている。安全な土地があれば、それだけで助かった子だ。譲ろうとしなかった人間を恨むのは当然だった。
みんな酷い目に遭わされたのに、人間であるオレに優しい。ヴラゴのおっさんもかつて恋人を人間に殺された過去を持ってるのにさ。どうしてオレを殺さないんだと聞いたら、復讐は当事者に返してこそ意味がある――と。だから無関係の召喚者を殺したら、ただの八つ当たりになると笑った。
彼らの強さの一端が、今のオレを生かしている。だからバルトを滅ぼすことに躊躇いなんてなかった。人間なんて全員滅びればいい。必要ならオレの命も燃やし尽くしたって構わない。
「オレは……結局、ただのガキなんだな」
成長することなく大人のフリをして、中身は思い通りにいかないと駄々を捏ねるガキだ。現在時点で思いつく限りの拷問を施して殺しても、将来はもっとやれたと後悔する。それでも手を下す道しかなかった。
「出来るだけ苦しめる方法を考えるか」
魔王城を守るように張られた魔力の渦に突入する。様々な魔族が少しずつ協力して放出した魔力が交わり、黒い霧を遠ざけていた。その中心である城を包む強大な力……ああ、今日もリリィの魔力は美しい。寒気がするような圧倒的な力を感じながら、オレは身を起こした。
「いいの? 拗ねるよ」
「たまにはいいだろ。オレとお前達は兄弟同然なんだから」
ぐったりと背中の毛皮に懐く。この感触も久しぶりだ。最近はドラゴンの背で飛んでばかりだったから。エイシェットに不満はないけど、ゆっくり考え事をしたかったので丁度いい。
彼女の背じゃ、早く着きすぎるんだ。混乱した頭を整理しないと、新しい情報を詰め込まれても対応できない。このタイミングで呼び寄せるなら、おそらく今後の対策についてだろうし。
「バルト国を滅ぼして、エイシェットと番って……オレはそれでいいのかな」
ぽつりと呟いた本音に、カインは答えない。隣を走るアベルも無言だった。返事が欲しいわけじゃないから、これでいい。ただ言葉にすることで、気持ちの整理をつける一助にしたかった。
びゅんと風音を切って走るフェンリルの背に抱き着いて、飛んでくる枝や障害物を避ける。躍動する筋肉質の体が、直接振動を伝えてきた。同時に温もりも、だ。
日本にオレを待つ人はいなくて、だから引き戻す力がない日本に帰ることは不可能だと納得した。帰ったって、誰もオレを知らない世界で生きていくのは辛いし、もう孤独や迫害は嫌だ。魔族の中にいれば、魔力のおかげで多少伸びた寿命を満喫して死ねる。エイシェットやリリィ、イヴ、双子達がいて……エルフの婆さんにからかわれ、ラミアにちょっかい出され、時々ヴラゴのおっさんに血を提供しながら。
人間から奪った土地で、友人だった魔王の願い通りに子ども達を育てる。黒い霧がなければ、生まれてくる若い魔族も長生きできるだろう。逆ピラミッドになった魔族の年齢比率も改善されるはずだった。悪くない。なのに……違うと叫ぶ自分がいた。
リリィはかつて裏切られ、汚され、捨てられた。イヴは両親を殺され、自らも仮死状態で助けられた。双子も両親を殺されている。その意味では、エイシェットも状況が似ていた。卵を抱いた母竜は必死に抵抗したが殺され、奪われた我が子を取り戻した父竜も手傷を負って倒れた。どれも人間が行った行動の結果だ。
魔王は状況の改善を求めて、さまざまな交渉を行なったという。エルフの婆さんは、黒い霧で我が子を2人も失っている。安全な土地があれば、それだけで助かった子だ。譲ろうとしなかった人間を恨むのは当然だった。
みんな酷い目に遭わされたのに、人間であるオレに優しい。ヴラゴのおっさんもかつて恋人を人間に殺された過去を持ってるのにさ。どうしてオレを殺さないんだと聞いたら、復讐は当事者に返してこそ意味がある――と。だから無関係の召喚者を殺したら、ただの八つ当たりになると笑った。
彼らの強さの一端が、今のオレを生かしている。だからバルトを滅ぼすことに躊躇いなんてなかった。人間なんて全員滅びればいい。必要ならオレの命も燃やし尽くしたって構わない。
「オレは……結局、ただのガキなんだな」
成長することなく大人のフリをして、中身は思い通りにいかないと駄々を捏ねるガキだ。現在時点で思いつく限りの拷問を施して殺しても、将来はもっとやれたと後悔する。それでも手を下す道しかなかった。
「出来るだけ苦しめる方法を考えるか」
魔王城を守るように張られた魔力の渦に突入する。様々な魔族が少しずつ協力して放出した魔力が交わり、黒い霧を遠ざけていた。その中心である城を包む強大な力……ああ、今日もリリィの魔力は美しい。寒気がするような圧倒的な力を感じながら、オレは身を起こした。
11
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる