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第二章
86.駄々を捏ねるガキだ
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魔王城でリリィが呼んでいる。知らせを運んだカインの背に飛び乗った。私の背に乗れと文句を言うエイシェットだが、諦めて先に戻ったらしい。羽音が遠ざかっていった。
「いいの? 拗ねるよ」
「たまにはいいだろ。オレとお前達は兄弟同然なんだから」
ぐったりと背中の毛皮に懐く。この感触も久しぶりだ。最近はドラゴンの背で飛んでばかりだったから。エイシェットに不満はないけど、ゆっくり考え事をしたかったので丁度いい。
彼女の背じゃ、早く着きすぎるんだ。混乱した頭を整理しないと、新しい情報を詰め込まれても対応できない。このタイミングで呼び寄せるなら、おそらく今後の対策についてだろうし。
「バルト国を滅ぼして、エイシェットと番って……オレはそれでいいのかな」
ぽつりと呟いた本音に、カインは答えない。隣を走るアベルも無言だった。返事が欲しいわけじゃないから、これでいい。ただ言葉にすることで、気持ちの整理をつける一助にしたかった。
びゅんと風音を切って走るフェンリルの背に抱き着いて、飛んでくる枝や障害物を避ける。躍動する筋肉質の体が、直接振動を伝えてきた。同時に温もりも、だ。
日本にオレを待つ人はいなくて、だから引き戻す力がない日本に帰ることは不可能だと納得した。帰ったって、誰もオレを知らない世界で生きていくのは辛いし、もう孤独や迫害は嫌だ。魔族の中にいれば、魔力のおかげで多少伸びた寿命を満喫して死ねる。エイシェットやリリィ、イヴ、双子達がいて……エルフの婆さんにからかわれ、ラミアにちょっかい出され、時々ヴラゴのおっさんに血を提供しながら。
人間から奪った土地で、友人だった魔王の願い通りに子ども達を育てる。黒い霧がなければ、生まれてくる若い魔族も長生きできるだろう。逆ピラミッドになった魔族の年齢比率も改善されるはずだった。悪くない。なのに……違うと叫ぶ自分がいた。
リリィはかつて裏切られ、汚され、捨てられた。イヴは両親を殺され、自らも仮死状態で助けられた。双子も両親を殺されている。その意味では、エイシェットも状況が似ていた。卵を抱いた母竜は必死に抵抗したが殺され、奪われた我が子を取り戻した父竜も手傷を負って倒れた。どれも人間が行った行動の結果だ。
魔王は状況の改善を求めて、さまざまな交渉を行なったという。エルフの婆さんは、黒い霧で我が子を2人も失っている。安全な土地があれば、それだけで助かった子だ。譲ろうとしなかった人間を恨むのは当然だった。
みんな酷い目に遭わされたのに、人間であるオレに優しい。ヴラゴのおっさんもかつて恋人を人間に殺された過去を持ってるのにさ。どうしてオレを殺さないんだと聞いたら、復讐は当事者に返してこそ意味がある――と。だから無関係の召喚者を殺したら、ただの八つ当たりになると笑った。
彼らの強さの一端が、今のオレを生かしている。だからバルトを滅ぼすことに躊躇いなんてなかった。人間なんて全員滅びればいい。必要ならオレの命も燃やし尽くしたって構わない。
「オレは……結局、ただのガキなんだな」
成長することなく大人のフリをして、中身は思い通りにいかないと駄々を捏ねるガキだ。現在時点で思いつく限りの拷問を施して殺しても、将来はもっとやれたと後悔する。それでも手を下す道しかなかった。
「出来るだけ苦しめる方法を考えるか」
魔王城を守るように張られた魔力の渦に突入する。様々な魔族が少しずつ協力して放出した魔力が交わり、黒い霧を遠ざけていた。その中心である城を包む強大な力……ああ、今日もリリィの魔力は美しい。寒気がするような圧倒的な力を感じながら、オレは身を起こした。
「いいの? 拗ねるよ」
「たまにはいいだろ。オレとお前達は兄弟同然なんだから」
ぐったりと背中の毛皮に懐く。この感触も久しぶりだ。最近はドラゴンの背で飛んでばかりだったから。エイシェットに不満はないけど、ゆっくり考え事をしたかったので丁度いい。
彼女の背じゃ、早く着きすぎるんだ。混乱した頭を整理しないと、新しい情報を詰め込まれても対応できない。このタイミングで呼び寄せるなら、おそらく今後の対策についてだろうし。
「バルト国を滅ぼして、エイシェットと番って……オレはそれでいいのかな」
ぽつりと呟いた本音に、カインは答えない。隣を走るアベルも無言だった。返事が欲しいわけじゃないから、これでいい。ただ言葉にすることで、気持ちの整理をつける一助にしたかった。
びゅんと風音を切って走るフェンリルの背に抱き着いて、飛んでくる枝や障害物を避ける。躍動する筋肉質の体が、直接振動を伝えてきた。同時に温もりも、だ。
日本にオレを待つ人はいなくて、だから引き戻す力がない日本に帰ることは不可能だと納得した。帰ったって、誰もオレを知らない世界で生きていくのは辛いし、もう孤独や迫害は嫌だ。魔族の中にいれば、魔力のおかげで多少伸びた寿命を満喫して死ねる。エイシェットやリリィ、イヴ、双子達がいて……エルフの婆さんにからかわれ、ラミアにちょっかい出され、時々ヴラゴのおっさんに血を提供しながら。
人間から奪った土地で、友人だった魔王の願い通りに子ども達を育てる。黒い霧がなければ、生まれてくる若い魔族も長生きできるだろう。逆ピラミッドになった魔族の年齢比率も改善されるはずだった。悪くない。なのに……違うと叫ぶ自分がいた。
リリィはかつて裏切られ、汚され、捨てられた。イヴは両親を殺され、自らも仮死状態で助けられた。双子も両親を殺されている。その意味では、エイシェットも状況が似ていた。卵を抱いた母竜は必死に抵抗したが殺され、奪われた我が子を取り戻した父竜も手傷を負って倒れた。どれも人間が行った行動の結果だ。
魔王は状況の改善を求めて、さまざまな交渉を行なったという。エルフの婆さんは、黒い霧で我が子を2人も失っている。安全な土地があれば、それだけで助かった子だ。譲ろうとしなかった人間を恨むのは当然だった。
みんな酷い目に遭わされたのに、人間であるオレに優しい。ヴラゴのおっさんもかつて恋人を人間に殺された過去を持ってるのにさ。どうしてオレを殺さないんだと聞いたら、復讐は当事者に返してこそ意味がある――と。だから無関係の召喚者を殺したら、ただの八つ当たりになると笑った。
彼らの強さの一端が、今のオレを生かしている。だからバルトを滅ぼすことに躊躇いなんてなかった。人間なんて全員滅びればいい。必要ならオレの命も燃やし尽くしたって構わない。
「オレは……結局、ただのガキなんだな」
成長することなく大人のフリをして、中身は思い通りにいかないと駄々を捏ねるガキだ。現在時点で思いつく限りの拷問を施して殺しても、将来はもっとやれたと後悔する。それでも手を下す道しかなかった。
「出来るだけ苦しめる方法を考えるか」
魔王城を守るように張られた魔力の渦に突入する。様々な魔族が少しずつ協力して放出した魔力が交わり、黒い霧を遠ざけていた。その中心である城を包む強大な力……ああ、今日もリリィの魔力は美しい。寒気がするような圧倒的な力を感じながら、オレは身を起こした。
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