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第三章
127.召喚に使われなかった魔力
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懐かしい気配がする。イヴリースが、遠方で揺らめく大きな魔力に目を細めた。あれは……カインとアベルか。双子の魔力はほぼ同じ色で、僅かに濃淡が違う。そんな印象だった。同時に混ぜて使用すると、どちらの魔力か区別が付かなくなる。
「フェンリルの双子だよ」
「足元で遊んでいた、あの子らか! なんと、立派に成長したことよ」
新高校生に見える年齢で、その口調はおかしいだろ。それに誰だかバレる。
「イヴリース、口調と名前は直しといた方がいいんじゃねえ?」
「名前は問題ない。ずっと同じ名を使い続けているからな」
代々イヴリースなのか? それでいいのか、中身が同じだから問題ないとした可能性もあるけど。イヴリースの説明では、魔王は生まれながらに魔王であり、先代までの記憶を引き継ぐ者と認識されてきた。実際に同一人物だと知っているのは、各種族でも数えるほどだとか。
「隠したわけではないが」
いつの間にか話が混じって、こういう認識に落ち着いていた。苦笑いする魔王や周囲が、まあいいかと考えた結果だろう。元が創造主である神の一部なら、死なないのも理解できる。
「なあ、女神の魔術なんだけど……法則や制限が多すぎるよな」
「この世界の理は我が創った。組み上げる基礎が、女神と違うのであろう」
あれか。パソコンだ。OSが違えば、アプリの開発も変わってくる。一番下のDOS部分が同じだから機能しているが、無理やり変換したり別のコマンドに置き換えるから、不具合が起きやすい。
「気になってたんだ。オレの召喚方法をリリィが人間に伝授したとして、発動時の魔力はこちら側が供給する。その後の道を開いてオレを呼び寄せ変換する魔力は……オレの家族や友人の生命力を使った」
一瞬だけ痛みが走った気がして、胸を押さえた。深呼吸して、なんでもない顔を作って続ける。
「ならば、どうして日本という国全体を消滅させて魔力にする必要があった? 実際にこの世界で、オレは魔術を使えなかった。あんたと戦うのに使えない魔力だ。持ってきた意味は? 女神の復活にも使ってないんだろ」
手元に残っている魔力の一部が利用された可能性はあるが、ほとんどが使用されていない。消費しない魔力をわざわざ異世界へ持ってきた理由は何だ? オレの疑問に、イヴリースは目を伏せた。
迷うような仕草の後、再び地面に胡座をかく。説明してくれる気はあるみたいだな。正面に胡座をかいたオレの膝に、エイシェットが横向きに座り首に手を回す。顔を上げたイヴリースがふっと笑った。
「緊張感の欠片もないな」
「仕方ない。番だぞ?」
エイシェットが嬉しそうに頬を擦り寄せる。それを抱き寄せながら、異常な軽さの理由に気づいた。体重をかけないよう、少し浮いている。触れるぎりぎりの位置で調整された魔法の見事さに、思わず頬が緩んだ。
「そなたの召喚に使われた魔力は膨大だが、殺された異世界の人間の一割ほどで足りていた。残りは……女神を維持するために消費され続けている」
緩んだ気を引き締めるように、イヴリースの声は冷たかった。
「フェンリルの双子だよ」
「足元で遊んでいた、あの子らか! なんと、立派に成長したことよ」
新高校生に見える年齢で、その口調はおかしいだろ。それに誰だかバレる。
「イヴリース、口調と名前は直しといた方がいいんじゃねえ?」
「名前は問題ない。ずっと同じ名を使い続けているからな」
代々イヴリースなのか? それでいいのか、中身が同じだから問題ないとした可能性もあるけど。イヴリースの説明では、魔王は生まれながらに魔王であり、先代までの記憶を引き継ぐ者と認識されてきた。実際に同一人物だと知っているのは、各種族でも数えるほどだとか。
「隠したわけではないが」
いつの間にか話が混じって、こういう認識に落ち着いていた。苦笑いする魔王や周囲が、まあいいかと考えた結果だろう。元が創造主である神の一部なら、死なないのも理解できる。
「なあ、女神の魔術なんだけど……法則や制限が多すぎるよな」
「この世界の理は我が創った。組み上げる基礎が、女神と違うのであろう」
あれか。パソコンだ。OSが違えば、アプリの開発も変わってくる。一番下のDOS部分が同じだから機能しているが、無理やり変換したり別のコマンドに置き換えるから、不具合が起きやすい。
「気になってたんだ。オレの召喚方法をリリィが人間に伝授したとして、発動時の魔力はこちら側が供給する。その後の道を開いてオレを呼び寄せ変換する魔力は……オレの家族や友人の生命力を使った」
一瞬だけ痛みが走った気がして、胸を押さえた。深呼吸して、なんでもない顔を作って続ける。
「ならば、どうして日本という国全体を消滅させて魔力にする必要があった? 実際にこの世界で、オレは魔術を使えなかった。あんたと戦うのに使えない魔力だ。持ってきた意味は? 女神の復活にも使ってないんだろ」
手元に残っている魔力の一部が利用された可能性はあるが、ほとんどが使用されていない。消費しない魔力をわざわざ異世界へ持ってきた理由は何だ? オレの疑問に、イヴリースは目を伏せた。
迷うような仕草の後、再び地面に胡座をかく。説明してくれる気はあるみたいだな。正面に胡座をかいたオレの膝に、エイシェットが横向きに座り首に手を回す。顔を上げたイヴリースがふっと笑った。
「緊張感の欠片もないな」
「仕方ない。番だぞ?」
エイシェットが嬉しそうに頬を擦り寄せる。それを抱き寄せながら、異常な軽さの理由に気づいた。体重をかけないよう、少し浮いている。触れるぎりぎりの位置で調整された魔法の見事さに、思わず頬が緩んだ。
「そなたの召喚に使われた魔力は膨大だが、殺された異世界の人間の一割ほどで足りていた。残りは……女神を維持するために消費され続けている」
緩んだ気を引き締めるように、イヴリースの声は冷たかった。
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