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118.子猫を守る蛇は光を飲み込む

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 運がいい。こんなチャンスは滅多に巡ってこない。ひた隠しにし、諦めかけていた野心に火がついた。燃料を投下し続ける、新たな皇族の出現にグラスを空ける。

「本当に、運がいい」

 この幸運を他の貴族と分かち合う気はない。情報をもつ者が少ないほど利益は大きくなり、同時に情報漏洩の可能性は減るのだから。

 ラスカートン伯爵家は辺境にある。他国との国境を任された辺境伯と違い、何もない山を割り当てられた。領地の半分は鉱脈すらない山脈だ。そこに逃げ込むのは、問題のある者ばかりだった。犯罪を犯した者、借金に追われる者、はたまた彼らを追いかける者。まともな領民は少ない。

 痩せて作物が育たぬ土地は、鉱脈すら発見できなかった。中央に見放された領地であり、貴族なのだ。見た目は伯爵と持ち上げておきながら、実は何もなかった。そんな領地に逃げて庇護を求めた家族、彼らが新たな皇族となれば……。

 くくっと喉を鳴らして笑う。得られる果実は甘くて熟れているだろう。皇族の一人を手に入れれば、我が一族の血を皇族に混ぜることが可能だ。可能なら女を得たかったが、引っかかったのは男だった。仕方ない。妹をあてがい、子を産ませればいい。いや……妹だけでは時間がかかる。

 男なら一族の女をまとめて与えれば、複数の子を一度に産ませることも叶う。複数の皇族を作れたら、我が一族から皇帝を出すことも夢ではなかった。

 うっとりしながら、未来を描く。ルチルと言ったか、光を示す名の通りまさに一族再興の光だ。大切に部屋にしまい、女を孕ませる種馬として扱わねばならん。塔の最上階に部屋を用意させよう。

 脱出できず、奪還もさせない。結界を張り巡らせ、屈強な騎士を配置し、傷ひとつ付けず飼うとしようか。

 豪華な部屋に、体調を気遣った立派な食事、衣服もそれらしく整えてやればいい。夢はどこまでも膨らんだ。幼い皇帝をすげ替え、ラスカートン伯爵家の血を引く子を新たな皇帝に据える。当然後見人が必要だが、母方の一族を統べる俺が相応しい。

 酒を満たしたグラスを持ち上げ、夜空へ祝杯をあげた。







「僕はね、君みたいな愚か者は嫌いじゃないよ。糸を揺らして踊る様を見るのが、本当に楽しいからね」

 黒髪に赤い瞳の青年は、にやりと笑う。宮殿の奥に仕舞われた、1枚の肖像画。初代皇帝アンドレア・ミランダル・アルスターと、その隣に立つ王配ではない青年の絵は、秘匿されてきた。アンドレアと並ぶ黒髪の青年は赤い瞳を細め、不機嫌そうに描かれていた。

 我が親友シェーシャと共に――その絵のタイトルを知るは、当事者のみ。蛇神の名を持つ青年は、仮初に纏った幼女の姿を捨てて力を振るう。すべてを秘密裏に片付け、庇護する無垢な子猫エウリュアレを守るために。
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