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09.あなた、誰よ

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 風呂を出て、保湿オイルを肌に塗り込んでもらう。侍女が運んでくれた軽食はスコーンと、海老が乗ったサラダ、紅茶にスープだった。それを有り難く頂き、部屋着でベッドに潜り込む。

 わかってるわ、これは太るわよね。でも今日だけ許して欲しい。昨夜の夜会に出てから、ようやく自室に戻ってこられたの。それに夜会は入場するなり婚約解消を言い渡されたせいで、飲み物しか口にしてないわ。

 王宮もバタバタしていて、起きたら昼前。そのまま話をして謁見だったので、何も口にしてなかった。これだけ飢えた状態で寝られないもの。不満を呟く腹の虫を黙らせた私は、少し痛むコブを撫でてから寝返りを打って横を向く――!!

「きゃああぁぁぁあああああ!! げほっ、けふ」

 絹を裂くような甲高い御令嬢の悲鳴は、とても喉に悪い。しかも満腹の時は吐き気を催すのね。役に立たないかも知れないけど、次回の参考にしますわ。

 身を起こして、ベッドの端まで逃げる。私が寝返りを打ったベッドの上に、ふわふわと浮いていたのはイケメンだった。真っ赤な髪に青い瞳、小麦色に焼けたヤンチャそうな顔で、彼はにっこり笑った。

「何があった、セラ……っ、貴様、どこから入った!」

「あなたこそ、どこから来たのよ」

 思わず突っ込んでしまった。だって、お兄様が来たと思ったら、魔王陛下なんですもの。淑女の寝室に、異性が2人も! そこへ出遅れたお兄様が……あ、入り口で魔王陛下の魔法に阻まれてますわ。

「魔王陛下、まずは結界を解いてください」

「いやだ」

「……明日のお約束、私も嫌だと申しましょうか?」

「すまなかった」

 あら、意外と素直な方ですね。傲慢に振る舞うのに、恋人に甘い男は好印象です。まあ、別作品よそのヒロインのお相手ですが。

 さり気なく私の姿から目を逸らして、不審者を睨みつける辺りも、さすが陛下と呼ばれる肩書きをお持ちの方ですね。

「なんで魔王がいるのさ」

 美形の不審者が不満を漏らしますが、ここ、私の部屋ですのよ? あなたの部屋ではありません。


「無事か、よかった」

 お兄様が私を抱き締めた途端、なんだか肌寒くなりました。見回すと魔王陛下が凄い形相で睨みつけています。実の兄相手に嫉妬しないでください。

「ごめんなさい、状況がよくわからないの」

 困ったと顔に大きく書いて、不審者に意識を向けさせる。魔王陛下は何か言いたげですが、不審者と向き合ってくれました。赤毛の宙に浮く青年は、私より2歳ほど年上に見えます。

「ごめんね、竜帝シュガールが動いたから見に来たんだけど、まさか竜の乙女が精霊姫だったなんてね」

 知らない肩書きがまた増えたようです。シュガールの名は覚えがあります。ラノベ『竜が舞う空の下で』の竜帝テュフォンの息子、つまり次世代がゲームの世界観ということ。混乱してきました。

 状況を整理すると、私がいる乙女ゲームはヒロインの断罪を悪役令嬢がすり抜けて終了。第二王子ルートで、攻略失敗でした。バッドエンドというやつです。

 別ラノベの魔王陛下が乱入し、そこへ待ったを掛けたのがラノベ派生の見知らぬ乙女ゲームの竜帝陛下と、新キャラの赤毛……。纏めても理解不能な状況に、私は淑女の仮面を放り出した。

「あなた、誰よ」
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