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第3章 守護者の見極めと嫉妬
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シリルの指示通りにお茶を用意し、ライアンは恋人の隣に腰を下ろした。いつものように肩を抱けば、軽く頭を預けて寄りかかってくる。気位の高いシリルがここまで甘えるのは珍しいので、ライアンは上機嫌だった。
「リスキア、訪問は事前に知らせろ。……ライアンに殺されるぞ」
「確かに『死神』の噂以上の腕前だった」
死神と呼ばれたハンター時代のことを持ち出され、以前にシリルに言われた「夜の世界でも有名だ」を思い出す。
「へぇ、知ってるんだ」
「知らないものの方が少ない。人間だったおれも知っていたくらいだ」
穏やかなアイザックの声は、なぜか説得力があって頷いてしまう。
シリルと違う過激な性格のリスキアが、どうしてアイザックを選んだのか――なんとなく分かった。自分にない物を求める、それは人間でも吸血鬼でも同じようだ。
「光栄だね。で、リスキアはどうしてオレに殺気を向けた?」
城に戻る前、転寝していたライアンが感じ取ったのは『殺気』だった。敏感に反応したのは、生存本能の賜物でもある。離れていても目の前にいるみたいに感じた殺気は、肌をビリビリ痺れさせる程だ。
「シリルが側に置く存在がくだらない奴なら、この手で殺そうと思っただけだ」
意味を捉えかねて眉を顰めたライアンは、白磁のポットから紅茶を注ごうとしているシリルに気づいて、その幼い手からポットを取り上げた。そっとカップに注いでやり、目の前で空になっているリスキアとアイザックのカップにも別のお茶を淹れた。
シリルの指示で用意したお茶は、匂いも味もシリルの紅茶と異なっている。中国茶というらしい。
小さな声で響いた礼は、どうやら礼儀に煩いリスキアのようだ。
「リスキアは昔から過保護だからな」
「一族最後の純血種だ。死なせる訳にはいかない」
使命感があるようなリスキアのセリフに、ライアンはアイザックに目を向けた。同じように意味を掴みかねているアイザックに安心し、問いかけを放つ。
「なぁ、意味がわからないんだけど……リスキアって純血種じゃないのか? それになんでオレが狙われるわけ??」
愛用のカップをソーサーに戻したシリルが、小さく笑った。
「リスキアは、純血種と不死の民の両方の血を引いている。眠りに付くまでは俺の守護をしてくれていたが……目覚めてからはライアンがいるからな。彼を呼ばなかったんだ」
「目覚めた気配がするのに呼ばれない。そうしているうちに、お前が伴侶を見つけたと聞かされた長老達の心境を考えろ」
やっと事情がつかめたライアンは、溜め息をついてカップの紅茶を飲み下す。
「つまり……オレって公的には『シリルの愛人』みたいな感じなのか?」
「リスキア、訪問は事前に知らせろ。……ライアンに殺されるぞ」
「確かに『死神』の噂以上の腕前だった」
死神と呼ばれたハンター時代のことを持ち出され、以前にシリルに言われた「夜の世界でも有名だ」を思い出す。
「へぇ、知ってるんだ」
「知らないものの方が少ない。人間だったおれも知っていたくらいだ」
穏やかなアイザックの声は、なぜか説得力があって頷いてしまう。
シリルと違う過激な性格のリスキアが、どうしてアイザックを選んだのか――なんとなく分かった。自分にない物を求める、それは人間でも吸血鬼でも同じようだ。
「光栄だね。で、リスキアはどうしてオレに殺気を向けた?」
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意味を捉えかねて眉を顰めたライアンは、白磁のポットから紅茶を注ごうとしているシリルに気づいて、その幼い手からポットを取り上げた。そっとカップに注いでやり、目の前で空になっているリスキアとアイザックのカップにも別のお茶を淹れた。
シリルの指示で用意したお茶は、匂いも味もシリルの紅茶と異なっている。中国茶というらしい。
小さな声で響いた礼は、どうやら礼儀に煩いリスキアのようだ。
「リスキアは昔から過保護だからな」
「一族最後の純血種だ。死なせる訳にはいかない」
使命感があるようなリスキアのセリフに、ライアンはアイザックに目を向けた。同じように意味を掴みかねているアイザックに安心し、問いかけを放つ。
「なぁ、意味がわからないんだけど……リスキアって純血種じゃないのか? それになんでオレが狙われるわけ??」
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「リスキアは、純血種と不死の民の両方の血を引いている。眠りに付くまでは俺の守護をしてくれていたが……目覚めてからはライアンがいるからな。彼を呼ばなかったんだ」
「目覚めた気配がするのに呼ばれない。そうしているうちに、お前が伴侶を見つけたと聞かされた長老達の心境を考えろ」
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「つまり……オレって公的には『シリルの愛人』みたいな感じなのか?」
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