【完結】紅く染まる夜の静寂に ~吸血鬼はハンターに溺愛される~

綾雅(りょうが)今年は7冊!

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第4章 奪われる恐怖

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 ライアンとリスキアがいなくなった室内で、シリルは陶器のカップを傾ける。飲み干してソーサーの上に置いたカップに、湯気の立つジャスミン茶が注がれた。薫り高いお茶をポットから注いだアイザックは、緑色の柔らかい印象の瞳を和ませる。

「リスキアとうまくいっているのか?」

 突然の問いかけに、アイザックは2~3度瞬いて頷いた。

「ああ」

 言外に「そちらは?」と問いかける眼差しに肯定の視線を送り、シリルは口元を緩める。

 最初にリスキアがアイザックを連れてきた時、ライアンの親しげな様子が気に入らなかった。彼に指摘されるまでもなく、嫉妬という感情が胸を渦巻いていて……。

 今になれば懐かしい想いだ。

 ライアンが俺以外を見る筈がないんだから、嫉妬する必然はないのだと……今は知っている。だから、アイザックと2人でも苛立ちも何も感じなくなっていた。

「アイザック、後ろだ」

 小さく告げる。同じように気配を感じていたのか、アイザックはすでに細長い短剣を右手にしていた。

  ガシャン

 突然のガラス音に、アイザックとシリルは同時に身を起こし、部屋の隅へと飛び退った。

  グシャ、ガラ……

 派手な音でテーブルが引っ繰り返った。身軽に飛び退いたアイザックと、優雅な所作で避けたシリルが顔を見合わせる。と、シリルの口から溜め息が漏れた。

「あのカップは気に入っていたのに」

 呟く内容は緊迫感の欠片もなく、襲われた状況より砕けたカップを惜しむものだった。残念そうな声が室内に響く。

 5人の屈強な男達に囲まれながら、シリルは諦めの溜め息をもうひとつ落とし、すいっと右手を持ち上げて、人差し指で侵入者を指し示す。目の合った男の体がびくりと震えた。

 手に手に刃物を持った男達、だが凶刃はシリルに向かう事はない。体を震わせた男がうつろな眼差しで振り返ると、なたに似た武器を振りかざして味方を襲ったのだ。

「な、何を?!」

「シド、俺達がわからないのか!」

「やめろっ」

 自我を失ってシリルの操り人形と化した男、シドは刃を人間に向ける。背後にいるシリルを仕留めに侵入したハンターでありながら、彼はシリルの蒼い瞳が命じるままに味方であり仲間であった男達に切りかかった。

「なるほど、こんな技があったのか」

「このくらいの芸当ができなくては、身を守ることも儘ならない」

 アイザックの感嘆した呟きに、シリルは冷酷な笑みで答える。シリルにとって、人間は塵芥ちりあくたに近い存在だった。自然を壊し、同族を殺し、平穏な生活を崩そうとする害虫でしかない。駆除するのが当然で、その為の手段を躊躇う必要はなかった。

「……ライアンに合流するか」

 お茶もなくなってしまったし。名残惜しそうにもう一度カップを見つめ、シリルは踵を返す。

 しかし、次の瞬間!

「シリルッ!」

 突き飛ばされ、手を突くことも出来ずに倒れた。
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