上 下
30 / 92
第4章 奪われる恐怖

30

しおりを挟む
※流血表現があります。
***************************************







 叫んだアイザックの声の直後、肩に鋭い痛みを感じて膝を付いた。庇おうとしたアイザックの長身が覆い被さり、膝を付いたシリルの体を包み込む。

「……アイザックっ?」

 痛いほど抱き締められた腕の中で、シリルはズキズキと痛む肩を庇いながら、顔だけで振り向いた。額に汗を滲ませたアイザックの苦しそうな顔と、彼と自分を貫いている槍のような物の存在に、目を見開く。

 アイザックの背中から胸にかけて貫かれた槍は、そのままシリルの肩を突き抜ける寸前で止まっていた。

 このまま引き抜けば、一気に血が流れ出すのは明白で、シリルは動けずに唇を噛む。

 ―――油断した。

 不死の民の血を体内に宿していても、アイザックは純血種ではなく、元人間なのだ。このままでは彼の命も危険だった。もちろん、血を流し切ると滅びてしまうシリルも。

「……っ、ィア……ン」

 守護者の名を呼ぶ。普段と違う声色で、吸血鬼としての力を込めた呼びかけは、距離や時間に関係なく言霊の力で届く筈だ。

「神祖を捕らえたぞ!」

 叫んだ男が、次に口にしたのは絶叫だった。断末魔の叫びが部屋に乱反射する。どうやらシリルがとりこにしたシドが、槍の持ち主である男を殺したらしい。

 後顧こうこうれいを絶つ為に、シドに自殺を命じ……シリルは床に崩れ落ちた。

「……ッ!」

 角度の変わった槍の先が、シリルの肩を惨く抉る。激痛による悲鳴を噛み殺したシリルの上に、温かい血が滴り続ける。自分に力を与える血なのに、アイザックの体から流れている事実に恐怖を覚えた。

 失ってしまう。

 心地よい空間を作り出す総てが、手の中を零れ落ちる気がした。リスキアがプライドより優先して手に入れたアイザックも、やっと素直になれそうな自分も……このままでは消えてしまう。

「……ラ、ィ……ア……っ……んッ……」

 一生、俺を守ると誓ったのだろう?

 愛していると囁いた筈だ。

 ずっと一緒にいてやると偉そうに告げた癖に!

 だったら、今すぐここに来て抱き締めろ。




 ふと、呼ばれた気がした。

 間違いなくシリルの声で、切羽詰せっぱつまった響きだったと思う。オレの名を呼んでいたけれど、掠れていて……切実な。

「シリルっ?!」

 振り返った瞬間、右二の腕を焼けるような痛みが走った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,117pt お気に入り:3,807

憧れのテイマーになれたけど、何で神獣ばっかりなの⁉

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:440pt お気に入り:134

不死王はスローライフを希望します

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:34,869pt お気に入り:17,428

セカンドライフは魔皇の花嫁

BL / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:2,519

冒険旅行でハッピーライフ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:363pt お気に入り:17

偽聖女はもふもふちびっこ獣人を守るママ聖女となる

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,165pt お気に入り:4,031

ある公爵令嬢の生涯

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:4,987pt お気に入り:16,125

処理中です...