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第4章 奪われる恐怖
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※流血表現があります。
***************************************
塞がりかけた傷を抉った手のひらは、真っ赤な血の色に染まる。それをアイザックの手の上に重ねて、しっかりと握り締めた。混ざり合う血に何か意味があるのか……問われたら、きっとライアンは言葉に詰まっただろう。
血が薄い為に、より人間に近いアイザックの傷が完治するには、かなりの時間を必要とする。だが、吸血鬼であるリスキアやシリルのように血を飲んでも、その効果をすぐに発揮することは期待できなかった。
アイザックは、愛するシリルを守ってくれた恩人なのだ。
本能なのか、アイザックを助けようと思い浮かべた方法は―――ひどく原始的な手段だった。
血が薄いから傷の治りが遅いのなら、濃くしてしまえばいい。幸いにも純血種だと思われる自分の血がある。これだけ血が濃いなら、きっとアイザックの傷を塞げる筈だ。
すぐに消えてしまった傷だが、かなりの量の血が流れ込んでいた。それを証明するように、アイザックの背や腕に残っていたナイフの傷跡が消えていく。
「助かった」
礼を言うアイザックに微笑んだのを最後に、ライアンは激しい眩暈を感じた。眩暈が吐き気を齎し、蹲って自身の体を抱き締める。震える腕を伸ばした先に、ソファに横たわるシリルの黒髪が見えた。
「……シリル」
唇だけで呼んだ響きは、リスキアにもアイザックにも聞こえない。
「ライアン?!」
「おい、どうした……っ」
そこで声は途切れ、ライアンの意識は闇に吸い込まれていった。
風が心地よい長椅子に体を横たえ、ライアンは長い息をついた。
使えなくなった部屋は、リスキアが一族の者を呼んで片付けてくれたらしい。あの血生臭い時間が信じられなくなるほど、城内は落ち着いた雰囲気を保っていた。
血に塗れた襲撃事件から、3日。こうしていると、すべてが悪夢のようだ。
「ライアン」
誰より愛しい存在が呼んでくれた名に、満面の笑みで振り向く。艶やか黒髪を風に遊ばせるシリルは、蒼く透明な眼差しで手を伸ばした。誘われるように手を握り、自分の側へ引き寄せる。
「シリル」
「リスキアがお茶を用意してくれた。来れそうか?」
ほんのり桜色の肌を確かめるように、頬に手を滑らせる。シリルの微笑に頷いたライアンは、気怠い体を起こした。
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塞がりかけた傷を抉った手のひらは、真っ赤な血の色に染まる。それをアイザックの手の上に重ねて、しっかりと握り締めた。混ざり合う血に何か意味があるのか……問われたら、きっとライアンは言葉に詰まっただろう。
血が薄い為に、より人間に近いアイザックの傷が完治するには、かなりの時間を必要とする。だが、吸血鬼であるリスキアやシリルのように血を飲んでも、その効果をすぐに発揮することは期待できなかった。
アイザックは、愛するシリルを守ってくれた恩人なのだ。
本能なのか、アイザックを助けようと思い浮かべた方法は―――ひどく原始的な手段だった。
血が薄いから傷の治りが遅いのなら、濃くしてしまえばいい。幸いにも純血種だと思われる自分の血がある。これだけ血が濃いなら、きっとアイザックの傷を塞げる筈だ。
すぐに消えてしまった傷だが、かなりの量の血が流れ込んでいた。それを証明するように、アイザックの背や腕に残っていたナイフの傷跡が消えていく。
「助かった」
礼を言うアイザックに微笑んだのを最後に、ライアンは激しい眩暈を感じた。眩暈が吐き気を齎し、蹲って自身の体を抱き締める。震える腕を伸ばした先に、ソファに横たわるシリルの黒髪が見えた。
「……シリル」
唇だけで呼んだ響きは、リスキアにもアイザックにも聞こえない。
「ライアン?!」
「おい、どうした……っ」
そこで声は途切れ、ライアンの意識は闇に吸い込まれていった。
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「ライアン」
誰より愛しい存在が呼んでくれた名に、満面の笑みで振り向く。艶やか黒髪を風に遊ばせるシリルは、蒼く透明な眼差しで手を伸ばした。誘われるように手を握り、自分の側へ引き寄せる。
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