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79.お勉強前に触ってもいいの?
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お部屋に戻って、パパはアガレスに渡された書類を書き始める。僕は用意された小さな机と椅子に目を輝かせた。
「これ、僕の?!」
「そうですよ。ここでしっかりお勉強してください」
マルバスはもうお仕事終わって帰ったから、この部屋は4人だけ。机と椅子を皆に見せたいけど、明日にしよう。
僕が座ると、プルソンは用意されたクッションの上に座った。高さがぴったりだ。僕とプルソンの目が同じ高さだった。にっこり笑ったプルソンは、片方だけ眼鏡をしてる。鎖が出ていて、耳に掛かってるのかな。気になった。
「カリス様……カリス様?」
じっと見ていた僕は、何度も呼ばれたみたい。慌てて返事をする。
「何か気になるなら先にどうぞ」
促されて、初めて見た片方の眼鏡が気になること。それからプルソンのツノや蹄も触りたいと口にした。ダメならそう言ってくれると思う。ドキドキしながら待つ僕に、全部いいとプルソンは笑った。
「全部いいの?」
「ええ。どれを先にしますか」
「お手手がいい」
プルソンが手を机の上に置いて、蹄にしてくれた。掛けてある魔法を解くと、この姿になるみたい。さっきと同じように優しく包んで触る。両手で撫でて包んで、先が二つに割れてるのだと知った。
今度はツノを見せてもらう。木の枝みたいな色と形だけど、これは鹿という動物のツノと同じだって。今は硬いけど、少ししたら抜けて生え変わると聞いた。その時は丸くて小さいツノがぽこっと頭に残るから、また触らせてもらう約束をした。抜けたツノは売るとお金になるんだよ。
最後は眼鏡だった。僕の机の上にカタンと音をさせて置いた眼鏡を、優しく持ち上げる。落とさないようにしながら縦にする。覗いたら、向こう側が歪んでいた。
「歪んでるよ」
「そうですね。私はその歪みがあるから綺麗に見えます」
よく分からなかったけど、プルソンはちゃんと説明してくれた。僕は目がいいから真っ直ぐ見ている。でもプルソンは目が悪くて、物が歪んで見えちゃう。だから先に歪んだ眼鏡をすることで、真っ直ぐに見える仕組みなんだよ。詳しくはもっとお勉強したら教えてもらう。
覚えることがたくさんだけど、僕はちゃんと頑張れるよ。パパのお手伝いができるようになりたい。そうしたら、ずっと隣にいられるでしょう?
「賢いですね、その通りです」
プルソンがそれでいいと言った。だから僕はお勉強用の黒い板を机に乗せる。プルソンと一緒に数えるお勉強を始めた。片方の手は5まで。それを両手にしたら数え方が変わる。
「ろく、なな、はち、きゅう、じゅう……指を折りながら数えてみましょう」
5の後は6、それから8? 7が先? 何度も声に出して練習して、やっと覚えた。10は5が2つ。前に銀1つと茶色5が2つを交換したけど、あれは茶色10だったんだ。数字はもっとたくさんあるけど、書くのは1から0までだった。プルソンが書いてくれた見本を見ながら、僕は白い棒でがりがりと数字を書く。
「いま、部屋に何人いますか?」
パパ、僕、アガレス、プルソン……4つ! 4の数字を大きく書いたら、プルソンの手が撫でてくれた。お仕事やお勉強の時は僕達と同じ手の形をしてる。魔法を使いながらお勉強も教えるなんて、プルソンは凄い悪魔なんだね。
「パパも凄いぞ」
「うん! パパもアガレスも凄いよ」
褒めたら、喜んだ後で難しい顔をしてた。パパだけ褒めた方がよかったの? でもアガレスが可哀想だから、全員順番に褒めた。アガレスやプルソンも嬉しそうに笑ってくれて、僕も幸せだ。
「これ、僕の?!」
「そうですよ。ここでしっかりお勉強してください」
マルバスはもうお仕事終わって帰ったから、この部屋は4人だけ。机と椅子を皆に見せたいけど、明日にしよう。
僕が座ると、プルソンは用意されたクッションの上に座った。高さがぴったりだ。僕とプルソンの目が同じ高さだった。にっこり笑ったプルソンは、片方だけ眼鏡をしてる。鎖が出ていて、耳に掛かってるのかな。気になった。
「カリス様……カリス様?」
じっと見ていた僕は、何度も呼ばれたみたい。慌てて返事をする。
「何か気になるなら先にどうぞ」
促されて、初めて見た片方の眼鏡が気になること。それからプルソンのツノや蹄も触りたいと口にした。ダメならそう言ってくれると思う。ドキドキしながら待つ僕に、全部いいとプルソンは笑った。
「全部いいの?」
「ええ。どれを先にしますか」
「お手手がいい」
プルソンが手を机の上に置いて、蹄にしてくれた。掛けてある魔法を解くと、この姿になるみたい。さっきと同じように優しく包んで触る。両手で撫でて包んで、先が二つに割れてるのだと知った。
今度はツノを見せてもらう。木の枝みたいな色と形だけど、これは鹿という動物のツノと同じだって。今は硬いけど、少ししたら抜けて生え変わると聞いた。その時は丸くて小さいツノがぽこっと頭に残るから、また触らせてもらう約束をした。抜けたツノは売るとお金になるんだよ。
最後は眼鏡だった。僕の机の上にカタンと音をさせて置いた眼鏡を、優しく持ち上げる。落とさないようにしながら縦にする。覗いたら、向こう側が歪んでいた。
「歪んでるよ」
「そうですね。私はその歪みがあるから綺麗に見えます」
よく分からなかったけど、プルソンはちゃんと説明してくれた。僕は目がいいから真っ直ぐ見ている。でもプルソンは目が悪くて、物が歪んで見えちゃう。だから先に歪んだ眼鏡をすることで、真っ直ぐに見える仕組みなんだよ。詳しくはもっとお勉強したら教えてもらう。
覚えることがたくさんだけど、僕はちゃんと頑張れるよ。パパのお手伝いができるようになりたい。そうしたら、ずっと隣にいられるでしょう?
「賢いですね、その通りです」
プルソンがそれでいいと言った。だから僕はお勉強用の黒い板を机に乗せる。プルソンと一緒に数えるお勉強を始めた。片方の手は5まで。それを両手にしたら数え方が変わる。
「ろく、なな、はち、きゅう、じゅう……指を折りながら数えてみましょう」
5の後は6、それから8? 7が先? 何度も声に出して練習して、やっと覚えた。10は5が2つ。前に銀1つと茶色5が2つを交換したけど、あれは茶色10だったんだ。数字はもっとたくさんあるけど、書くのは1から0までだった。プルソンが書いてくれた見本を見ながら、僕は白い棒でがりがりと数字を書く。
「いま、部屋に何人いますか?」
パパ、僕、アガレス、プルソン……4つ! 4の数字を大きく書いたら、プルソンの手が撫でてくれた。お仕事やお勉強の時は僕達と同じ手の形をしてる。魔法を使いながらお勉強も教えるなんて、プルソンは凄い悪魔なんだね。
「パパも凄いぞ」
「うん! パパもアガレスも凄いよ」
褒めたら、喜んだ後で難しい顔をしてた。パパだけ褒めた方がよかったの? でもアガレスが可哀想だから、全員順番に褒めた。アガレスやプルソンも嬉しそうに笑ってくれて、僕も幸せだ。
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