211 / 214
サポーター特典
【サポーター特典SS】※2022/6/7公開
しおりを挟む
月がすごく綺麗。パパと並んで空を見上げる。少し視線を横に動かすと、近い位置にあるパパの横顔に嬉しくなった。
「どうした、カリス」
「うん。僕が大きくなって、パパと並んでるのが嬉しい」
皆は僕は体だけ大きくなって、中身はそのままと言うけど、ちゃんと中身も大きくなったよ。パパが読んで処理していた書類も、ちゃんと理解できるようになった。最近は仕事のお手伝いもしている。
「まだまだ子どもでいいぞ」
「ミカエル達も同じこと言うよね」
僕は早く大きくなりたかった。パパと肩を並べて、一緒に仕事をしたり難しい話をして、お酒を飲みたいんだよ。
「酒か。以前にお菓子を作ってくれた時、舐めて酔っ払ったことがあったな」
くすくす笑うパパの言葉に、僕は知らないフリをする。本当は覚えてるけど、恥ずかしいんだよ。すごく子どもだった気がするから。
「知らない」
「そうか? 俺は嬉しかったぞ」
話しながらパパが取り出したのは、お酒が入った瓶。青い色の瓶は、猫の形をしていた。
「ニィみたい」
「ああ、そういえば猫の形だ」
パパがにやりと笑う。僕が断らないように、猫の形の瓶を探したんじゃないかな。僕はパパと一緒なら、お酒を断らないのに。
「飲むか」
「うん。コップはこれでいい?」
僕だって出来るよ。収納の魔法を覚えた僕の手に、するりとグラスが二つ。触れ合ってカチンと音を立てた。
「明日の予定は何か入ってたか」
「えっと、アガレスとアモンの出産祝いかな。3人目だったよ」
アガレスとアモンは、ずっと仲のいい夫婦でいる。マルバスも結婚したけど、子どもはまだだった。魔族の出産率は徐々に改善していて、アガレス達みたいに3人目を産むとお祝いを持っていく。僕やパパの新しい仕事となっていた。
「なら、二日酔いにならぬ程度にしよう」
ぽんっと軽い音で栓が飛んでいく。コルクは後で土に戻るから拾わなくてもいいけど、テラスの下にゴミを落としたらダメだよ。くすくす笑ったパパが魔法で回収した。
僕の手にあるグラスは長細い。半分ほど注がれたお酒は、透き通った薄い緑に見えた。グラスの向こうの木々が反射してるのかも。
グラスを傾けて挨拶を交わし、そっと口をつけた。するりと流れ込んだお酒は、過去に僕が飲んだお酒と違う。もっとさっぱりしていて、甘くなかった。でもレモンっぽい味で飲みやすい。喉を通過したお酒が、お腹の中でじわっと沁みる感じがした。
「初めてだったな」
「うん。最初はパパと飲むからって話すと、皆、無理に勧めなかったから」
ミカエルやガブリエルがお酒を持ってきたこともあるし、マルバスにグラスを渡されたこともある。でも、どうしてもパパと飲みたかった。
「そうか。俺もカリスが初めて酒を飲む場に立ち会えて、幸せだ」
っ、胸が詰まる。お酒のせい? それともパパの言葉かな。目が潤んだ。僕が欲しい言葉を、いつもパパは口にする。僕を一番に置いて、大切にしてくれた。きっとこれから、どれだけ長い時間が経っても……僕の一番はパパのままだ。
「大好きだよ、パパ」
「俺もカリスを愛してるぞ。こんなに素晴らしい息子は、お前だけだ」
グラスを傾けて、残りを流し込む。瓶に残ったお酒をまたグラスに注ぎ、しっかり飲み干した。
翌朝、軽い頭痛に顔を顰める僕に「治療だ」とパパが頬にキスをくれた。それが嬉しくて、今晩もお酒を飲もうと頭の片隅で考える。アガレスとアモンの家に行くために準備をしていたパパが「ん?」と振り返ったけど、僕は笑顔で誤魔化した。
贈り物を届けに行こう、パパ。僕はずっとバエルの息子で、パパの隣にいる。マルバスやセーレとすれ違い、魔族の皆に手を振って。
見上げた空は明るい日差しが降り注ぎ、手を差し伸べて繋ぐ。パパが僕を見つけてくれたあの日から、ずっと――離さないでくれてありがとう。これからもよろしくね。
*********************
カクヨムのサポーター特典です。1ヵ月以上経過したので掲載します。
『現在連載中』
魔王様、今度も過保護すぎです!
世界を滅ぼす僕だけど、愛されてもいいですか
要らない悪役令嬢、我が国で引き取りますわ ~優秀なご令嬢方を追放だなんて愚かな真似、国を滅ぼしましてよ?~
古代竜の生贄姫 ~虐待から溺愛に逆転した世界で幸せを知りました~
「どうした、カリス」
「うん。僕が大きくなって、パパと並んでるのが嬉しい」
皆は僕は体だけ大きくなって、中身はそのままと言うけど、ちゃんと中身も大きくなったよ。パパが読んで処理していた書類も、ちゃんと理解できるようになった。最近は仕事のお手伝いもしている。
「まだまだ子どもでいいぞ」
「ミカエル達も同じこと言うよね」
僕は早く大きくなりたかった。パパと肩を並べて、一緒に仕事をしたり難しい話をして、お酒を飲みたいんだよ。
「酒か。以前にお菓子を作ってくれた時、舐めて酔っ払ったことがあったな」
くすくす笑うパパの言葉に、僕は知らないフリをする。本当は覚えてるけど、恥ずかしいんだよ。すごく子どもだった気がするから。
「知らない」
「そうか? 俺は嬉しかったぞ」
話しながらパパが取り出したのは、お酒が入った瓶。青い色の瓶は、猫の形をしていた。
「ニィみたい」
「ああ、そういえば猫の形だ」
パパがにやりと笑う。僕が断らないように、猫の形の瓶を探したんじゃないかな。僕はパパと一緒なら、お酒を断らないのに。
「飲むか」
「うん。コップはこれでいい?」
僕だって出来るよ。収納の魔法を覚えた僕の手に、するりとグラスが二つ。触れ合ってカチンと音を立てた。
「明日の予定は何か入ってたか」
「えっと、アガレスとアモンの出産祝いかな。3人目だったよ」
アガレスとアモンは、ずっと仲のいい夫婦でいる。マルバスも結婚したけど、子どもはまだだった。魔族の出産率は徐々に改善していて、アガレス達みたいに3人目を産むとお祝いを持っていく。僕やパパの新しい仕事となっていた。
「なら、二日酔いにならぬ程度にしよう」
ぽんっと軽い音で栓が飛んでいく。コルクは後で土に戻るから拾わなくてもいいけど、テラスの下にゴミを落としたらダメだよ。くすくす笑ったパパが魔法で回収した。
僕の手にあるグラスは長細い。半分ほど注がれたお酒は、透き通った薄い緑に見えた。グラスの向こうの木々が反射してるのかも。
グラスを傾けて挨拶を交わし、そっと口をつけた。するりと流れ込んだお酒は、過去に僕が飲んだお酒と違う。もっとさっぱりしていて、甘くなかった。でもレモンっぽい味で飲みやすい。喉を通過したお酒が、お腹の中でじわっと沁みる感じがした。
「初めてだったな」
「うん。最初はパパと飲むからって話すと、皆、無理に勧めなかったから」
ミカエルやガブリエルがお酒を持ってきたこともあるし、マルバスにグラスを渡されたこともある。でも、どうしてもパパと飲みたかった。
「そうか。俺もカリスが初めて酒を飲む場に立ち会えて、幸せだ」
っ、胸が詰まる。お酒のせい? それともパパの言葉かな。目が潤んだ。僕が欲しい言葉を、いつもパパは口にする。僕を一番に置いて、大切にしてくれた。きっとこれから、どれだけ長い時間が経っても……僕の一番はパパのままだ。
「大好きだよ、パパ」
「俺もカリスを愛してるぞ。こんなに素晴らしい息子は、お前だけだ」
グラスを傾けて、残りを流し込む。瓶に残ったお酒をまたグラスに注ぎ、しっかり飲み干した。
翌朝、軽い頭痛に顔を顰める僕に「治療だ」とパパが頬にキスをくれた。それが嬉しくて、今晩もお酒を飲もうと頭の片隅で考える。アガレスとアモンの家に行くために準備をしていたパパが「ん?」と振り返ったけど、僕は笑顔で誤魔化した。
贈り物を届けに行こう、パパ。僕はずっとバエルの息子で、パパの隣にいる。マルバスやセーレとすれ違い、魔族の皆に手を振って。
見上げた空は明るい日差しが降り注ぎ、手を差し伸べて繋ぐ。パパが僕を見つけてくれたあの日から、ずっと――離さないでくれてありがとう。これからもよろしくね。
*********************
カクヨムのサポーター特典です。1ヵ月以上経過したので掲載します。
『現在連載中』
魔王様、今度も過保護すぎです!
世界を滅ぼす僕だけど、愛されてもいいですか
要らない悪役令嬢、我が国で引き取りますわ ~優秀なご令嬢方を追放だなんて愚かな真似、国を滅ぼしましてよ?~
古代竜の生贄姫 ~虐待から溺愛に逆転した世界で幸せを知りました~
69
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる