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11.あれもこれも気になって仕方ない

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 異世界転移の小説は詳しくないけど、前に数冊読んだことがある。その時に、転移したばかりで周囲の安全が把握できてないのに、お腹空くシーンがあった。バカじゃないの? 命が懸かってるのよ。現実感がないわ。そう呟いたあの日の私、作者さんに土下座すべき。

 命の危機かどうかは横に置いといて、お腹は空いた。しかもこういう欲求は我慢できない。幼女だから余計かも。我慢に耐性が足りてない気がする。

 ぴかぴかに磨かれた客間の窓は、美人でグラマラスな奥様に抱っこされた幼女が映っていた。手を動かすと窓に反射する幼女も動くから、私で間違いないみたい。部屋のお風呂場があれば、鏡が見られるだろうか。

 幼くなったせいか、興味があちこちに分散して、こう……集中力が持続しないのよね。お腹が空いてたのに、鏡が見たい。もぞもぞ動く私に奥様が首を傾げ、アランさんも覗き込んだ。

「鏡ですか?」

 契約すると心がある程度読める話をしてたけど、本当みたい。アランさんが微笑んで手鏡を取り出した。空中から……。

「すごい!」

 今度は興味がそっちへ移動する。手鏡を出し入れしてもらい、満足してから鏡を見た。銀髪で青い目の少女がいる。お人形みたいで可愛いけど、現実感がなかった。頬に触れると、鏡の中の銀髪人形も頬を撫でる。うわっ、シンクロしてる。

「サラちゃんって面白いわね」

「鏡でここまで楽しめる人も少ないですから、幸せなのでは?」

 アランさん、遠回しにバカだと言ってない? ふと気づくと熊さんがいない。えっと、名前がエベレストさん? 山の名前だったよね。

「「ぶっ」」

 同時に吹き出した二人は思う存分笑った後、エルネストと訂正してくれた。なるほど、ちょっと違う。いや、少しだけなら許して欲しいな。

「食事が出来たよ」

 熊さんは食事の手配をしていた。なのに悪いことをしちゃった。名前を間違えるのは失礼だ。それがたとえ一文字であっても、致命的な場合は忘れたのと同罪かも。今回は二文字だったし。しょんぼりした私を奥様が慰めてくれた。

「気にしなくていいわ。初めて聞いた名前だもの。エルって呼んであげたら喜ぶわよ」

「うん」

 エルが開けた扉の先から、侍女がずらずらと入ってくる。熊じゃなく、人の姿だった。領主が実は熊で神獣なんて、重大な秘密だと思う。ぐぅと再び鳴るお腹を撫でながら、お料理の湯気に目を輝かせた。

 美味しそう。いい匂い、湯気が出てて温かいやつ。あのスープと柔らかそうなお肉の塊は外せないな。

 ポタージュに似た色のスープと、白いソースが掛かった肉の塊、パイ包みのお魚、パン。サラダはミニトマトも載っていた。用意された食事は円卓に並べられ、奥様とアランさんが席に着く。私は当然、奥様のお膝だった。

「お肉とスープだったわね」

 すっかり心を読まれています。頷くとアランさんがスープをよそってくれた。大きな器で届けられた料理を、小皿や器に取り分けるシステムみたい。これは中華の円卓に近いな。回るテーブルはないけど。

「テーブルが回るの? 目の前のお料理が人のところへ行ったら事件よ」

 奥様が首を傾げる。

「そうじゃなくて、えっとテーブルが二重で、こう」

 短い手を使ってジェスチャーで説明するが、奥様やアランさん、エルさんは頭を覗いたらしい。

「この形なら、王宮で見たぞ」

「便利そうね」

 エルさんと奥様の会話に頷き、思い浮かべたら通じる便利さに少しだけ恐怖を感じた。もしかして、二度と口を開かなくても生きていけるんじゃないだろうか。

「それはいけません。聖獣以外に意思を伝えるには、言葉が必要です。何より可愛いお声が聞きたいので話してください」

 アランさん、幼女相手に色気ある口説き文句をありがとうございます。
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