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38.聖獣が政を行う理由が判明しました

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 皇帝、皇后、大公主、自治領トップ……一応、皇女。入場する面々の名が読み上げられる。長い名前が終わる前に、先頭を切ってアゼスが歩き出した。腕を絡めたリディと微笑み合う姿は、理想の夫婦だ。ゴツい大男と妖艶美女、これぞ美女と野獣そのものだった。

 まあ、アゼスは顔も精悍でカッコいいけどね。野獣呼ばわりは可哀想かも。

 続くアランに抱っこされた私を見て、ひそひそと噂話が始まった。これは良くあるラノベ展開的な「お前なんか皇族じゃない」や「突然湧いて出た得体の知れない子」扱いが待ってるのかな?

 不謹慎だけど、ドキドキしちゃう。誰が最初に話しかけてくるんだろう。あのお嬢さんかな、それともあちらの紳士? きょろきょろする私に、アランがそっと耳打ちした。

「サラのご期待に添えない展開だと思いますよ」

 意味を捉えかねた私が口に出す前に、アゼスの挨拶が始まった。バリトン系の惚れ惚れする声だ。

「我らが皇女サラの祝いの席を設けた。この国の繁栄と我ら聖獣が主人を得た僥倖に、乾杯!」

「「「乾杯」」」

 口々に声とグラスを上げた貴族は、当然のように一気飲みする。口を付けて置くのが普通かと思ったら、帝国では一気飲みが主流みたい。お酒が弱い人は参加しづらくない?

 お酒じゃなくてもいいんですよ、こそっと心の中でアランが教えてくれた。普段は読まれてばかりの私だけど、こういう秘密のお話が出来るのは便利だね。都合のいいカンニングペーパーみたいじゃない?

 アゼスとリディもグラスを空け、アランやエルは口をつけただけ。これは帝国の貴族かどうかで違うのかも。私は小さな手にグラスを渡された。持ちづらいので、両手で掴む。中身はちょっとで、透明だけど甘い匂いがした。傾けて一気に飲み干す。

 味はカルピスっぽい。濁ってないのに、ヨーグルト系の味なのは不思議。飲み終えて返したグラスは、すぐに侍女が片づけた。溢さなくてよかったと安心しながら顔を上げると、貴族達が私を凝視している。まさか、挨拶するとか?

「挨拶の時間だ」

 エルがぼそっと呟いたので、慌てて頭の中で考え始める。まずは名乗って、これから皇女になりますって言う? それと「よろしくお願いします」は皇族っぽくないかも。何か……えっと「頼む」は偉そうだし。

「お初にお目にかかります。アントワーヌ公爵家の……」

「皇女殿下にお目にかかれたこと、光栄に存じます。エマール侯爵家の……」

 大量に名前とご挨拶が降ってくる。その度に、大きな箱や高そうな小箱のプレゼントが積み重ねられた。私はといえば、アランのお膝に乗ったまま。全員で壇上の長椅子で寛いでいる。この世界って、聖獣が人間を支配してるの?

「少し違いますね。聖獣でない者が上に立つと、公平性を欠く政を行い破綻します。それを数十回見守った結果、我らが統治した方が安泰だと気づいてしまったのです」

 苦笑いするアランの説明に、なるほどと納得した。目先の利益で踊る王族や皇族では、周囲が大変なんだ。媚を売ってくる者や賄賂を持ってくる者だけ優遇したら、過去の日本の政治みたいに一貫性がなくなる。

「サラの世界も大変だったんだね」

 日本の未熟な政治体制を嘆いていたら、エルに同情されちゃった。
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