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62.聖女様な皇女殿下の毒殺未遂事件?
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アゼスの命令で、宴会場はしんと静まり返った。調査が終わるまで、侍女や侍従を含め誰も帰れない。貴族は青ざめて、心配そうに新たな皇女殿下を見守った。
銀髪の愛らしい皇女誕生に、サルビア聖獣帝国は喜びに包まれた。聖獣である皇帝夫妻が選んだ聖女となれば、その歓喜は大きくなる。国もこれで安泰だと誰もが胸を撫で下ろした。
皇女殿下が聖女様となれば、二重の祝いだ。普段以上に羽目を外して騒いでいる彼らの熱気は、一気に冷や水を浴びせられた形となった。愛らしい幼女が、ぐったりと眠りに落ちる姿は痛々しい。
「誰が毒を」
「そもそも毒の持ち込みなど出来ぬはず」
「他国から送られた刺客か」
ざわざわと憶測が飛び交う中、エルは毒の分析を始めた。さきほどサラの体内から抽出した毒を、ぺろりと舐める。顔を顰めた。
「何の毒だ」
「毒……って言えば、毒かな。うーん」
みょうに歯切れが悪い。悩む様子を見せた後、残った毒を3人に味見させた。アランはがくりと崩れ落ち、アゼスは苦笑いする。怒ったままのリディが声を張り上げた。
「誰よ! サラのグラスにお酒なんて入れたのは! 名乗り出なさい」
痺れるような苦味は、透明の酒ソーマ特有の味だ。サラのグラスに注がれたカルピス味のジュースに、酒が入っていた。間違っての混入か、故意に酔わせようとしたのかで罪の重さは変わる。
ふさふさの尻尾を揺らしながら腰に手を当てて怒る美女は、早く名乗り出ろと脅しをかけた。ぴりぴりと空気が緊張しているのは、彼女が雷を放っているからだ。苛立ちの感情がそのまま放出されたらしい。
「す、すみません……あの、それ……僕が飲むはずだったんです」
小さな声で自白したのは、まだ年若い子爵家の次男だった。青ざめた彼の話では、朝まで宴会を楽しみたかったらしい。だが酒に弱いので、いつも酔ってしまう。そこで強い酒を甘いジュースで割ろうと考えた。
ちょうどサラが気に入った透明のジュースが、透明の酒ソーマを割るのにピッタリだったのだ。侍女に指示して作らせたのだが、彼の手元に届く前にサラの手に渡った。運んだ侍女は酒で割った話は知らず、ただのジュースを子爵の次男に渡しただけ。騒動の中、緊張で乾いた喉にジュースを流し込み、彼は原因に気付いたのだと言う。
半泣きで名乗り出た若者の話に、他の貴族達は脱力した。毒殺未遂事件でなくてよかった。そう呟く貴族達に、リディは怒りが収まらない。
「幼い子がお酒を口にしたのよ? 今後の成長に差し障りがあったら、どうするの! もう!!」
「まあ、そう怒るでない。事故だったのだし、酒の席ではよくあること……」
「よくある? じゃあ、二度とサラを酒が出る場に同席させないわ」
皇后であるリディが言い放った言葉で、貴族達に再び緊張が走る。可愛い皇女殿下のお顔を拝見するのは、宮仕えする貴族にとって名誉であり癒しだ。その機会が減る可能性があるなら、皇帝陛下に味方して阻止してもらおうと考えた。
「皇帝陛下、お酒に色をつければ安心かと」
「いや逆だ。皇女殿下のジュースに色をつけましょう」
「殿下専用のグラスを作って区別してはいかがか」
それぞれが案を持ち出し、最後にこう付け加えた。
「「「皇女殿下のお姿は癒しなのです。我らの楽しみを奪わないでください」」」
騒がしい中、あふっと欠伸をして起きたサラが「色を付けるなら薄い青がいい」と指示したことで、最終的な決着をみた。青い色のお酒がないことも重なり、帝国中にジュースの色変更が通知されることが決まる。
「サラ、気分はどうですか」
「うん、もう平気」
にこにこと笑顔を振りまく皇女殿下を肴に、宴会は再び盛り上がった。
銀髪の愛らしい皇女誕生に、サルビア聖獣帝国は喜びに包まれた。聖獣である皇帝夫妻が選んだ聖女となれば、その歓喜は大きくなる。国もこれで安泰だと誰もが胸を撫で下ろした。
皇女殿下が聖女様となれば、二重の祝いだ。普段以上に羽目を外して騒いでいる彼らの熱気は、一気に冷や水を浴びせられた形となった。愛らしい幼女が、ぐったりと眠りに落ちる姿は痛々しい。
「誰が毒を」
「そもそも毒の持ち込みなど出来ぬはず」
「他国から送られた刺客か」
ざわざわと憶測が飛び交う中、エルは毒の分析を始めた。さきほどサラの体内から抽出した毒を、ぺろりと舐める。顔を顰めた。
「何の毒だ」
「毒……って言えば、毒かな。うーん」
みょうに歯切れが悪い。悩む様子を見せた後、残った毒を3人に味見させた。アランはがくりと崩れ落ち、アゼスは苦笑いする。怒ったままのリディが声を張り上げた。
「誰よ! サラのグラスにお酒なんて入れたのは! 名乗り出なさい」
痺れるような苦味は、透明の酒ソーマ特有の味だ。サラのグラスに注がれたカルピス味のジュースに、酒が入っていた。間違っての混入か、故意に酔わせようとしたのかで罪の重さは変わる。
ふさふさの尻尾を揺らしながら腰に手を当てて怒る美女は、早く名乗り出ろと脅しをかけた。ぴりぴりと空気が緊張しているのは、彼女が雷を放っているからだ。苛立ちの感情がそのまま放出されたらしい。
「す、すみません……あの、それ……僕が飲むはずだったんです」
小さな声で自白したのは、まだ年若い子爵家の次男だった。青ざめた彼の話では、朝まで宴会を楽しみたかったらしい。だが酒に弱いので、いつも酔ってしまう。そこで強い酒を甘いジュースで割ろうと考えた。
ちょうどサラが気に入った透明のジュースが、透明の酒ソーマを割るのにピッタリだったのだ。侍女に指示して作らせたのだが、彼の手元に届く前にサラの手に渡った。運んだ侍女は酒で割った話は知らず、ただのジュースを子爵の次男に渡しただけ。騒動の中、緊張で乾いた喉にジュースを流し込み、彼は原因に気付いたのだと言う。
半泣きで名乗り出た若者の話に、他の貴族達は脱力した。毒殺未遂事件でなくてよかった。そう呟く貴族達に、リディは怒りが収まらない。
「幼い子がお酒を口にしたのよ? 今後の成長に差し障りがあったら、どうするの! もう!!」
「まあ、そう怒るでない。事故だったのだし、酒の席ではよくあること……」
「よくある? じゃあ、二度とサラを酒が出る場に同席させないわ」
皇后であるリディが言い放った言葉で、貴族達に再び緊張が走る。可愛い皇女殿下のお顔を拝見するのは、宮仕えする貴族にとって名誉であり癒しだ。その機会が減る可能性があるなら、皇帝陛下に味方して阻止してもらおうと考えた。
「皇帝陛下、お酒に色をつければ安心かと」
「いや逆だ。皇女殿下のジュースに色をつけましょう」
「殿下専用のグラスを作って区別してはいかがか」
それぞれが案を持ち出し、最後にこう付け加えた。
「「「皇女殿下のお姿は癒しなのです。我らの楽しみを奪わないでください」」」
騒がしい中、あふっと欠伸をして起きたサラが「色を付けるなら薄い青がいい」と指示したことで、最終的な決着をみた。青い色のお酒がないことも重なり、帝国中にジュースの色変更が通知されることが決まる。
「サラ、気分はどうですか」
「うん、もう平気」
にこにこと笑顔を振りまく皇女殿下を肴に、宴会は再び盛り上がった。
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