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72.子狼の託児所になってしまったわ

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 庭を駆け回る子狼達、その様子を見守る夫婦狼。平和な光景を、窓辺に置かれたソファの上から眺めた。庭は広くて、遠くまで芝が広がる。この西庭は芝があって遠くに樹木があるだけ。その先は森だった。

 東庭は花がいっぱい。南庭は噴水や池があって、豪華な宮殿が食い込むように建ってる。宴会の時に飛び込む池は、噴水につながる一番大きな池だった。水が澄んでいて、とても綺麗なんだよね。

 南の庭は水路があって、庭の中を小川が流れてる。メダカくらいの小魚も泳いでるから、子狼がもう少し成長したら一緒に遊びに行こうかな。今の小さな体じゃ、溺れると大事件だよ。聖獣の誰かが同行してくれたら、平気だと思うけど。

 子狼に与えたぬいぐるみは、あっという間にボロボロになっていく。遊び道具として与えたから、満足してくれるならいいけどね。私が想像してた遊び方よりアグレッシブというか、放り投げて追いかけるくらいのイメージだった。疲れたらぬいぐるみに寄り添って寝たりする可愛い姿を想定してたのに、いきなり噛んで破く。引っ張りあって、中の綿が溢れ出した。

 野生の獣をなめてたわ。間違って噛まれないよう、私が子狼に餌を与えるのは禁止なの。野生に帰る子達だから、餌付けはダメだよね。将来、餌が取れなくて困るのはこの子達だもん。

「サラちゃんはいろいろ考えてるのね」

 リディは賢いと褒めるけど、そうでもないよ。宮殿での勉強は一日一時間だけ。前世の記憶のおかげで、歴史以外はほぼ免除だった。数学なんか、この世界より進んでるらしいし。国語も読み書き出来たら問題ない。他国との会話で外国語の習得が必要だと心配したら、帝国の言語が標準語だった。

 まあ聖獣の誰かがいない状況で、他国の人と話す機会はない。だから翻訳してくれる聖獣達のおかげで、私が話せる必要はないんだけどね。聖女効果でペラペラ話せたらカッコいいと思うの。英語も中途半端だった私にしたら、外国語を母国語並みに話せるのは憧れだった。

 小さな夢が一つ壊れるたび、誰かが慰めてくれる。この甘やかしに慣れたら生意気なガキが出来そう。そう口にしたら、アゼスは大笑いした。

「自分でそう言えるなら、心配は要らん」

 確かに自覚があるうちは平気だよね。もし傲慢に振る舞ったら、注意してくれるよう頼んでおいた。

「サラちゃん、コウが狩りに出るみたいよ」

 窓際で挨拶する黒狼に手を振る。

「いってらっしゃい、気をつけてね」

 灰色狼のフクも同行するみたいだけど……子狼は全部置いていくのよね? 安心して預けすぎじゃない?

「サラちゃんの隣以上に安全な場所なんて、この世界にないのよ」

 リディに指摘されて気づいた。私のそばは聖獣がいる。育てる我が子を預ける狼にとって、最高の環境なのね。

 夫婦で仲良く走って行く姿を見送り、期待の眼差しを向ける子狼達に視線を向けた。部屋の中に入れてくれと窓をカリカリ引っ掻いたり、鼻を押し付けてアピールしてくる。野生に帰すから人に慣らしたらダメなの、そう思いながらも負けて室内に入れてしまった。

 仕方ない、コウとフクが戻るまでだからね。言い聞かせたものの、この一週間後には宮殿内に部屋をもらう狼一家がいることを、予知能力のない私が知るはずもなかった。
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