81 / 100
81.サラが残した言葉の意味
しおりを挟む
偽聖女と女神に断定された、異世界人の女性を前に聖獣達は物騒な相談を始める。
「殺さないようにすればいいのよね? じゃあ、皮を剥ぐくらいかしら」
「それじゃ死ぬ可能性があるだろ、せいぜい腕や足を切り落とすくらいにしよう」
皇后リディは生皮を剥ぐ提案をする。ところが皇帝アゼスが眉を寄せた。殺してしまっては意味がない。ここはぎりぎりの線を責めるべきだと主張した。だが提案内容に問題ありだ。
「手足切ったら治療しないと死ぬじゃん」
ぼそっとエルが吐き捨てる。
「僕やだよ? 治療とか。人間って血を止めないと死ぬんでしょ」
「なんだと!? そんなにか弱いのはサラだけだと思っていたぞ」
「皇帝陛下として認識がおかしいよ」
一体何年、人間を統べてきたのさ。そう突きつけられ、しばらく考え込んだ。次の手を探している様子だが、エルはけろりと案を出した。
「ねえ、追いかけっこはどう? 期限は女神様が迎えに来る、明日の朝まで。追いついたら攻撃がひとつ可能になる、とか」
「殺さぬように追い回すのが難しいが、なるほど手加減の練習になるか」
エルとアゼスの相談に、リディは大きく欠伸をした。
「そんなの面倒よ。逃げ回る姿を見るのは楽しそうだけど……こんなのはどう? あの偽物を捕まえて攻撃するたびに癒すのよ。何度でも、ね」
狐の執念は恐ろしい。恨まれないよう注意しなくては。揃って同じ感想を抱いた二人は顔を見合わせる。そこでサラを連れ去ったアランから、一言飛んできた。
――血生臭いのも構いませんが、サラは「私が知らないところでして」と言いましたよ。いいんですか?
はっとした顔でエルが呟いた。
「知らないところって、もう知られてるじゃん」
「なんという優しい子だ。そういう意味か」
「危うく、グチャグチャにするところだったわ」
サラの告げた言葉の意味を理解したから、アランはあっさり手を引いた。そう考えると負けた気がして悔しい。しかし自称聖女を押し付けてサラと過ごした手前、しれっと合流するのも気まずい。悩んだ末、八つ当たりの対象にできる異世界人を振り返った。
「サラちゃんが知らなければいいのよね?」
「そうだな。バレなければいい」
顔を突き合わせて相談した結果、震える女性を地下牢へ放り込む。三人は素知らぬ顔でアランとサラが寛ぐ部屋に合流し、仲良く同じベッドで眠りについた。そのベッドが巨大であっても、聖獣すべてを載せたら危険なため小型化して。
「もふもふがいっぱい!」
嬉しそうなサラの顔に、選択を間違わずに済んだと聖獣達はほっとした。本番は彼女が寝入ってから。こっそり一人ずつ抜けて、報復すればいい。彼女が知らないところで……知らない間に。
『妙な知恵がつくのもどうなのかしら。でもいい関係よね』
女神はちらりと覗いた下界の様子に、殺される心配はなさそうと笑った。翌朝の引き取りで、集中的に自慢の顔を狙われて、ぱんぱんに腫れた彼女を回収するまでは……。
「殺さないようにすればいいのよね? じゃあ、皮を剥ぐくらいかしら」
「それじゃ死ぬ可能性があるだろ、せいぜい腕や足を切り落とすくらいにしよう」
皇后リディは生皮を剥ぐ提案をする。ところが皇帝アゼスが眉を寄せた。殺してしまっては意味がない。ここはぎりぎりの線を責めるべきだと主張した。だが提案内容に問題ありだ。
「手足切ったら治療しないと死ぬじゃん」
ぼそっとエルが吐き捨てる。
「僕やだよ? 治療とか。人間って血を止めないと死ぬんでしょ」
「なんだと!? そんなにか弱いのはサラだけだと思っていたぞ」
「皇帝陛下として認識がおかしいよ」
一体何年、人間を統べてきたのさ。そう突きつけられ、しばらく考え込んだ。次の手を探している様子だが、エルはけろりと案を出した。
「ねえ、追いかけっこはどう? 期限は女神様が迎えに来る、明日の朝まで。追いついたら攻撃がひとつ可能になる、とか」
「殺さぬように追い回すのが難しいが、なるほど手加減の練習になるか」
エルとアゼスの相談に、リディは大きく欠伸をした。
「そんなの面倒よ。逃げ回る姿を見るのは楽しそうだけど……こんなのはどう? あの偽物を捕まえて攻撃するたびに癒すのよ。何度でも、ね」
狐の執念は恐ろしい。恨まれないよう注意しなくては。揃って同じ感想を抱いた二人は顔を見合わせる。そこでサラを連れ去ったアランから、一言飛んできた。
――血生臭いのも構いませんが、サラは「私が知らないところでして」と言いましたよ。いいんですか?
はっとした顔でエルが呟いた。
「知らないところって、もう知られてるじゃん」
「なんという優しい子だ。そういう意味か」
「危うく、グチャグチャにするところだったわ」
サラの告げた言葉の意味を理解したから、アランはあっさり手を引いた。そう考えると負けた気がして悔しい。しかし自称聖女を押し付けてサラと過ごした手前、しれっと合流するのも気まずい。悩んだ末、八つ当たりの対象にできる異世界人を振り返った。
「サラちゃんが知らなければいいのよね?」
「そうだな。バレなければいい」
顔を突き合わせて相談した結果、震える女性を地下牢へ放り込む。三人は素知らぬ顔でアランとサラが寛ぐ部屋に合流し、仲良く同じベッドで眠りについた。そのベッドが巨大であっても、聖獣すべてを載せたら危険なため小型化して。
「もふもふがいっぱい!」
嬉しそうなサラの顔に、選択を間違わずに済んだと聖獣達はほっとした。本番は彼女が寝入ってから。こっそり一人ずつ抜けて、報復すればいい。彼女が知らないところで……知らない間に。
『妙な知恵がつくのもどうなのかしら。でもいい関係よね』
女神はちらりと覗いた下界の様子に、殺される心配はなさそうと笑った。翌朝の引き取りで、集中的に自慢の顔を狙われて、ぱんぱんに腫れた彼女を回収するまでは……。
178
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(りょうが)今年は7冊!
ファンタジー
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。
最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2022/02/14 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2022/02/13 小説家になろう ハイファンタジー日間59位
※2022/02/12 完結
※2021/10/18 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2021/10/19 アルファポリス、HOT 4位
※2021/10/21 小説家になろう ハイファンタジー日間 17位
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
巻き込まれ召喚された賢者は追放メンツでパーティー組んで旅をする。
彩世幻夜
ファンタジー
2019年ファンタジー小説大賞 190位!
読者の皆様、ありがとうございました!
婚約破棄され家から追放された悪役令嬢が実は優秀な槍斧使いだったり。
実力不足と勇者パーティーを追放された魔物使いだったり。
鑑定で無職判定され村を追放された村人の少年が優秀な剣士だったり。
巻き込まれ召喚され捨てられたヒカルはそんな追放メンツとひょんな事からパーティー組み、チート街道まっしぐら。まずはお約束通りざまあを目指しましょう!
※4/30(火) 本編完結。
※6/7(金) 外伝完結。
※9/1(日)番外編 完結
小説大賞参加中
婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる