12 / 123
12.娘を守るために独立する!
しおりを挟む
「くそぉ……あいつらめ」
結託しやがって! 呻く夫の腕に包帯を巻きながら、エインズワース公爵夫人ジャスミンは苦笑いする。圧倒的な強さを誇る夫アイヴァンを倒すため、息子二人は共闘したのだ。挟み撃ちで倒した後、傷の手当てもそこそこに飛び出した彼らを見送ったのは、昨日のことだった。
今日あたり、ウォレスに着くかしら。今回は娘だけじゃなく、弟や息子まで押しかけたわ。アマンダ様に何かお礼の品をお送りしなくてはいけませんね。ジャスミンは頭の中で、品物を検討し始めた。この頃は豊作続きだから穀物類は避けて、果物がいいかしら。聖獣が守る聖樹の森は、今年大豊作だった。
昨年はグレイスが離れることもあり、収穫量が激減している。今年はそれを補うように、数日前から急に果物が花開いて実をつけた。たわわに実った果実は、戻ってくる娘を歓迎しているのでしょう。通常なら一月ほどかかって成熟するところを、わずか一晩で枝をしならせるほどに成長した。
畑を放り出し商売を後回しにして、領民総出で果物の収穫に追われている。聖獣の加護と祝福が厚いこの森で採れる果物は、輸出しても傷むことがない。二月ほど食べ頃を維持できるので、各国から輸入希望が殺到していた。豊作の噂が広がったらしい。
以前は盗難されたそうだが、娘グレイスが3歳で聖獣フィリスと契約して以降、このエインズワース領の住民以外が収穫できなくなった。聖獣の祝福が影響している。つぎつぎと聖獣を友人にしたグレイスの噂は各国に広まり、あっという間に婚約依頼も積み重なった。
誘拐未遂事件が起きてからは、民も領外から訪れる者に警戒するようになる。自警団も結成され、今では治安維持の一端を担っていた。あの子が生まれてから、エインズワース公爵領の繁栄は右肩上がり。まさに祝福の子であり、大切な象徴だった。
王家からの命令で婚約の申し出があり、他国に嫁にやるくらいなら……と婚約させたのが失敗の始まりだ。収穫した果物の代金は踏み倒す。豊作だからと税率を上げる。王家の振る舞いに眉を顰めたのは、妻ジャスミンだけではない。夫アイヴァンも激怒した。
なんとか婚約を解消しようと画策していたところ……今回の婚約破棄騒動が起きた。渡りに舟とはこのことで、大喜びで連絡が届いた日から今日にいたるまで、領地内はお祭りムードだ。森の恵みが増えたこともあり、収穫祭のような盛り上がりを見せていた。
「もうすぐ娘達が戻るわ。あなた、それまでに手を打たなくてはね」
「わかっておる! すでにマーランド帝国と盟約を交わし、ウォレス自治領にも通知済みだ」
にやりと笑う。アイヴァンの人の悪そうな顔に、ジャスミンはしっかり念押しした。
「足元を掬われる無様は許しませんよ。そんなことになれば、私はあの子達を連れて実家に戻りますからね」
「っ、絶対に大丈夫だ! 任せろ、王家と手を切って、必ず独立する!!」
宣言する公爵家当主の言葉通り。エインズワース公爵家は、オリファント王国と袂をわかち独立する。これは以前から準備されていた計画の前倒しだった。
「聖獣様も味方してくださいます。必ず勝ってくださいね」
「戦わずに勝つのが我らの戦だ。我が勝利を信じておれ」
言い切った夫に、ジャスミンは目を細めて笑った。
結託しやがって! 呻く夫の腕に包帯を巻きながら、エインズワース公爵夫人ジャスミンは苦笑いする。圧倒的な強さを誇る夫アイヴァンを倒すため、息子二人は共闘したのだ。挟み撃ちで倒した後、傷の手当てもそこそこに飛び出した彼らを見送ったのは、昨日のことだった。
今日あたり、ウォレスに着くかしら。今回は娘だけじゃなく、弟や息子まで押しかけたわ。アマンダ様に何かお礼の品をお送りしなくてはいけませんね。ジャスミンは頭の中で、品物を検討し始めた。この頃は豊作続きだから穀物類は避けて、果物がいいかしら。聖獣が守る聖樹の森は、今年大豊作だった。
昨年はグレイスが離れることもあり、収穫量が激減している。今年はそれを補うように、数日前から急に果物が花開いて実をつけた。たわわに実った果実は、戻ってくる娘を歓迎しているのでしょう。通常なら一月ほどかかって成熟するところを、わずか一晩で枝をしならせるほどに成長した。
畑を放り出し商売を後回しにして、領民総出で果物の収穫に追われている。聖獣の加護と祝福が厚いこの森で採れる果物は、輸出しても傷むことがない。二月ほど食べ頃を維持できるので、各国から輸入希望が殺到していた。豊作の噂が広がったらしい。
以前は盗難されたそうだが、娘グレイスが3歳で聖獣フィリスと契約して以降、このエインズワース領の住民以外が収穫できなくなった。聖獣の祝福が影響している。つぎつぎと聖獣を友人にしたグレイスの噂は各国に広まり、あっという間に婚約依頼も積み重なった。
誘拐未遂事件が起きてからは、民も領外から訪れる者に警戒するようになる。自警団も結成され、今では治安維持の一端を担っていた。あの子が生まれてから、エインズワース公爵領の繁栄は右肩上がり。まさに祝福の子であり、大切な象徴だった。
王家からの命令で婚約の申し出があり、他国に嫁にやるくらいなら……と婚約させたのが失敗の始まりだ。収穫した果物の代金は踏み倒す。豊作だからと税率を上げる。王家の振る舞いに眉を顰めたのは、妻ジャスミンだけではない。夫アイヴァンも激怒した。
なんとか婚約を解消しようと画策していたところ……今回の婚約破棄騒動が起きた。渡りに舟とはこのことで、大喜びで連絡が届いた日から今日にいたるまで、領地内はお祭りムードだ。森の恵みが増えたこともあり、収穫祭のような盛り上がりを見せていた。
「もうすぐ娘達が戻るわ。あなた、それまでに手を打たなくてはね」
「わかっておる! すでにマーランド帝国と盟約を交わし、ウォレス自治領にも通知済みだ」
にやりと笑う。アイヴァンの人の悪そうな顔に、ジャスミンはしっかり念押しした。
「足元を掬われる無様は許しませんよ。そんなことになれば、私はあの子達を連れて実家に戻りますからね」
「っ、絶対に大丈夫だ! 任せろ、王家と手を切って、必ず独立する!!」
宣言する公爵家当主の言葉通り。エインズワース公爵家は、オリファント王国と袂をわかち独立する。これは以前から準備されていた計画の前倒しだった。
「聖獣様も味方してくださいます。必ず勝ってくださいね」
「戦わずに勝つのが我らの戦だ。我が勝利を信じておれ」
言い切った夫に、ジャスミンは目を細めて笑った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3,516
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる