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24.こんなはずじゃなかった!――SIDE第一王子
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どうしてこうなった?
ナイジェル・デ・オリファンティス――オリファント王国の第一王子であり、次期国王だった。
オリファント王国の第一王子として生まれ、父王の跡を継ぐ未来が待っている。何度も繰り返し「王位を継ぐのです」と話す実母の言葉を信じた。王妃である義母は、私の出来の悪さを嘆く。それは私への嫌がらせだと思っていた。自分は子を産めないくせに、側妃である母キャサリンを羨んでいるのだと。
ある日、王妃は男児を産んだ。年の離れた弟を可愛いと思えない。あれは王家の血を引く正当な跡取りになり得る存在だった。その頃、唯一の公爵家であるエインズワースの令嬢と婚約した。ずっと絵姿のみで顔を会わせない婚約者だが、彼女の高い地位が私の未来を物語る。
どんな我が侭女だろうが不細工だろうが、我慢しよう。そう思っていた。国王になれば、父上のように側妃を娶ればいい。最高権力者なら女など選び放題だ。だが我慢できなかった。昨年まで会うこともなかった婚約者より、学校生活を彩る彼女達の方が可愛い。
「エインズワース公爵令嬢グレイス、貴様に婚約破棄を言い渡す」
この一言で立場は変わった。周囲の貴族の視線が咎める色を帯び、私の味方が減っていく。他の女を連れた私の振る舞いは、貴族達の離反を招いた。この醜聞が父上の耳に届くより早く、こちらの言い分を聞いていただかなくては。
あの思い上がった女が悪いのだ。次期国王の妻に選ばれたことに感謝もせず、領地に引き籠って顔も見せない。ようやく一年前に王都に来たが、王子妃教育が忙しいからと挨拶とお茶会ばかりだった。部屋に誘っても断られ、抱き寄せると逃げられる。
細い腰を抱き寄せればしなだれかかり、微笑めば接吻けを強請る。胸を揉み太腿を撫でれば、好きに体を使わせてくれるのが女だ。恋人達はそうしたのに、グレイスは拒み続けた。それどころか軽蔑の眼差しを向ける。それが許せなかった。
思い上がっていると父上に告げた途端、穏やかな国王の顔が豹変した。聞いたこともない怒号が叩きつけられ、私の権利を否定する。あの鼻持ちならない女との婚約を破棄する権利もないと。この国を継ぐ王太子なのに、公爵令嬢の機嫌を取れと言うのか。
――王位継承権だと?! お前に与えたことは、一度もない!!
断言されたことで膝から力が抜けた。
――キャサリンはどのような教育をしたのだ。
母を罵る父の声を聞きながら、自分の言動を思い返す。婚約破棄でこれほど怒ったのだ。国外追放や爵位剥奪の話が耳に入ったら? ぞっとした。王太子としての地位を否定され、父と弟の間の繋ぎ、予備でしかなかった事実を叩きつけられる。
母上の話と違う……側妃だが、母上が産み育てた私は王太子で嫡子。何度もそう言い聞かされた。王位を継ぐお前より尊い存在は国王だけで、王妃すら私には及ばない。言われた言葉を素直に信じ、王太子として振舞った。それがすべて、勘違い?
「お前の顔は二度と見たくない。キャサリンともども、王家を去れ。二度と王族を名乗るでないぞ」
母上と一緒に着の身着のまま放り出された。温情なのか、馬車を貰えたが……古くて馬も年老いている。御者がいないので、自分で手綱を取った。左右に好き勝手走る馬は、まったく言うことを聞かない。
「あの女の所為よ。公爵家に責任を取らせましょう! 私達の生活を保障させ、地位の回復を願い出させるの。早く追いかけなくては……」
母上の言うとおりだ。あの女が悪い。私達の生活はあの傲慢な女の所為で台無しだった。手持ちの金がないので、身に着けていた宝石類を売る。屈辱だが、それ以上の宝石を買わせれば留飲も下がるはずだ。
ごとごとと馬車は進む――破滅へ向かって。
ナイジェル・デ・オリファンティス――オリファント王国の第一王子であり、次期国王だった。
オリファント王国の第一王子として生まれ、父王の跡を継ぐ未来が待っている。何度も繰り返し「王位を継ぐのです」と話す実母の言葉を信じた。王妃である義母は、私の出来の悪さを嘆く。それは私への嫌がらせだと思っていた。自分は子を産めないくせに、側妃である母キャサリンを羨んでいるのだと。
ある日、王妃は男児を産んだ。年の離れた弟を可愛いと思えない。あれは王家の血を引く正当な跡取りになり得る存在だった。その頃、唯一の公爵家であるエインズワースの令嬢と婚約した。ずっと絵姿のみで顔を会わせない婚約者だが、彼女の高い地位が私の未来を物語る。
どんな我が侭女だろうが不細工だろうが、我慢しよう。そう思っていた。国王になれば、父上のように側妃を娶ればいい。最高権力者なら女など選び放題だ。だが我慢できなかった。昨年まで会うこともなかった婚約者より、学校生活を彩る彼女達の方が可愛い。
「エインズワース公爵令嬢グレイス、貴様に婚約破棄を言い渡す」
この一言で立場は変わった。周囲の貴族の視線が咎める色を帯び、私の味方が減っていく。他の女を連れた私の振る舞いは、貴族達の離反を招いた。この醜聞が父上の耳に届くより早く、こちらの言い分を聞いていただかなくては。
あの思い上がった女が悪いのだ。次期国王の妻に選ばれたことに感謝もせず、領地に引き籠って顔も見せない。ようやく一年前に王都に来たが、王子妃教育が忙しいからと挨拶とお茶会ばかりだった。部屋に誘っても断られ、抱き寄せると逃げられる。
細い腰を抱き寄せればしなだれかかり、微笑めば接吻けを強請る。胸を揉み太腿を撫でれば、好きに体を使わせてくれるのが女だ。恋人達はそうしたのに、グレイスは拒み続けた。それどころか軽蔑の眼差しを向ける。それが許せなかった。
思い上がっていると父上に告げた途端、穏やかな国王の顔が豹変した。聞いたこともない怒号が叩きつけられ、私の権利を否定する。あの鼻持ちならない女との婚約を破棄する権利もないと。この国を継ぐ王太子なのに、公爵令嬢の機嫌を取れと言うのか。
――王位継承権だと?! お前に与えたことは、一度もない!!
断言されたことで膝から力が抜けた。
――キャサリンはどのような教育をしたのだ。
母を罵る父の声を聞きながら、自分の言動を思い返す。婚約破棄でこれほど怒ったのだ。国外追放や爵位剥奪の話が耳に入ったら? ぞっとした。王太子としての地位を否定され、父と弟の間の繋ぎ、予備でしかなかった事実を叩きつけられる。
母上の話と違う……側妃だが、母上が産み育てた私は王太子で嫡子。何度もそう言い聞かされた。王位を継ぐお前より尊い存在は国王だけで、王妃すら私には及ばない。言われた言葉を素直に信じ、王太子として振舞った。それがすべて、勘違い?
「お前の顔は二度と見たくない。キャサリンともども、王家を去れ。二度と王族を名乗るでないぞ」
母上と一緒に着の身着のまま放り出された。温情なのか、馬車を貰えたが……古くて馬も年老いている。御者がいないので、自分で手綱を取った。左右に好き勝手走る馬は、まったく言うことを聞かない。
「あの女の所為よ。公爵家に責任を取らせましょう! 私達の生活を保障させ、地位の回復を願い出させるの。早く追いかけなくては……」
母上の言うとおりだ。あの女が悪い。私達の生活はあの傲慢な女の所為で台無しだった。手持ちの金がないので、身に着けていた宝石類を売る。屈辱だが、それ以上の宝石を買わせれば留飲も下がるはずだ。
ごとごとと馬車は進む――破滅へ向かって。
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