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番外編
(国王派)滅びるべくして滅びる
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フロレンティーノ公爵家が裏切った。その一報は、ある意味諦めをもって受け入れられた。正直、国王派を抜けるチャンスを窺っているのは、私も同じだった。
あの夜会が崩壊の始まりだ。浮気相手の腰を抱いた王太子フリアン殿下が、婚約者に婚約破棄を突きつけた。国王派の貴族からも悲鳴と非難の声が上がる。暴挙でしかなかった。現状をまったく理解していない。中立のフロレンティーノ公爵がいるから、ぎりぎり保たれている均衡が壊れた。
国王派は古参の貴族家が多い。王家を盛り立て守っていくのが使命と教えられて育ち、そのままに行動してきた。だが有能だった先代王と違い、当代の国王オレガリオ陛下は軽率すぎる。何より身内に甘かった。心配したのは、我が子可愛さに処分を甘くすること。
懸念はそのまま現実となった。公爵令嬢は婚約破棄後、毒を飲まされて昏倒している。意識がなかなか戻らず、つい先日目覚めたばかりだった。もし我が娘が同じ目に遭ったら、ラウレアノ伯爵家は一族が絶えるまで戦うだろう。
武闘派で知られる我が一族も、未来を選ぶときに来たのだ。このまま愚かな王に従い滅びるか、新たな主君を得て繁栄し持続するか。迷う必要はない。忠誠とは相応しい主に捧げてこそ意味がある。滅びの道連れにされるのはご免だった。
すぐ寝返れば、追撃を食らう。一族の頂点が伯爵家でしかないラウレアノで、従う子爵家や男爵家の安全を図るため、私は一計を案じる。武力を貴ぶラウレアノ家にあって、私は異端児だった。武力より策略を巡らすことに長け、冷静に情勢を読む。
父は、お前がこの時代に生まれた意味がある、と私を跡取りに据えた。亡くなるまで、一族から反対の声が上がっても意見を変えず。その恩に報い、一族が助かる道を見つけ出すのが私の役目だ。
「エリサリデ侯爵閣下にお目にかかりたい」
貴族派の重鎮である侯爵と密談を行う。個の力より全体の戦力として、ラウレアノ家は貴族派へ吸収された。その上で、当主である私は国王派に残る。いや、残ったフリをして情報を集めた。一族に見捨てられても王族に尽くす忠臣の仮面を被り、愚か者共の逃走ルートや襲撃計画を調べ上げる。
情報を流すことに、心はちくりとも痛まなかった。こんな連中が我が国を、民を食い物にしてきたのか。と逆に腹立たしい。もっと早く気づいて離脱すべきだった。宝石や金銀の煌びやかさより、民の笑顔の方が何倍も価値があるというのに。
離宮の襲撃計画を流したが、フロレンティーノ公爵閣下への攻撃は知らなかった。まだ足りない。ぎりぎりまで残り、国王派の居場所をすべて流す。小公爵様が動く手助けをし、エリサリデ侯爵に労いの言葉をもらった。
ドゥラン侯爵夫人の逃走の邪魔をし、国境に指名手配を掛ける。順調に進む断罪に、国王派はついに絶えた。愚王を始めとする罪人は捕らえられて裁かれる。残酷な罰だと顔を背ける貴族もいる中、私は静かに見守った。
かつて忠誠を捧げた王家の最期だ。どんな相手であれ死体に唾吐く無礼は、武人の恥だった。喝采を送る気はなく、当然の罰に震える彼らを嘲笑うつもりにもなれない。私に出来るのは、彼らの最期を覚えて伝えることだろう。
一族の伝承に、このような愚かな主君がいたこと。正義が悪を滅ぼしたこと。嘘偽りなく誇張せず、事実を語り継ぐ――フェリノス国は崩壊しても、この国の民は生き続けていくのだから。教訓はいつの世になっても色褪せない。
あの夜会が崩壊の始まりだ。浮気相手の腰を抱いた王太子フリアン殿下が、婚約者に婚約破棄を突きつけた。国王派の貴族からも悲鳴と非難の声が上がる。暴挙でしかなかった。現状をまったく理解していない。中立のフロレンティーノ公爵がいるから、ぎりぎり保たれている均衡が壊れた。
国王派は古参の貴族家が多い。王家を盛り立て守っていくのが使命と教えられて育ち、そのままに行動してきた。だが有能だった先代王と違い、当代の国王オレガリオ陛下は軽率すぎる。何より身内に甘かった。心配したのは、我が子可愛さに処分を甘くすること。
懸念はそのまま現実となった。公爵令嬢は婚約破棄後、毒を飲まされて昏倒している。意識がなかなか戻らず、つい先日目覚めたばかりだった。もし我が娘が同じ目に遭ったら、ラウレアノ伯爵家は一族が絶えるまで戦うだろう。
武闘派で知られる我が一族も、未来を選ぶときに来たのだ。このまま愚かな王に従い滅びるか、新たな主君を得て繁栄し持続するか。迷う必要はない。忠誠とは相応しい主に捧げてこそ意味がある。滅びの道連れにされるのはご免だった。
すぐ寝返れば、追撃を食らう。一族の頂点が伯爵家でしかないラウレアノで、従う子爵家や男爵家の安全を図るため、私は一計を案じる。武力を貴ぶラウレアノ家にあって、私は異端児だった。武力より策略を巡らすことに長け、冷静に情勢を読む。
父は、お前がこの時代に生まれた意味がある、と私を跡取りに据えた。亡くなるまで、一族から反対の声が上がっても意見を変えず。その恩に報い、一族が助かる道を見つけ出すのが私の役目だ。
「エリサリデ侯爵閣下にお目にかかりたい」
貴族派の重鎮である侯爵と密談を行う。個の力より全体の戦力として、ラウレアノ家は貴族派へ吸収された。その上で、当主である私は国王派に残る。いや、残ったフリをして情報を集めた。一族に見捨てられても王族に尽くす忠臣の仮面を被り、愚か者共の逃走ルートや襲撃計画を調べ上げる。
情報を流すことに、心はちくりとも痛まなかった。こんな連中が我が国を、民を食い物にしてきたのか。と逆に腹立たしい。もっと早く気づいて離脱すべきだった。宝石や金銀の煌びやかさより、民の笑顔の方が何倍も価値があるというのに。
離宮の襲撃計画を流したが、フロレンティーノ公爵閣下への攻撃は知らなかった。まだ足りない。ぎりぎりまで残り、国王派の居場所をすべて流す。小公爵様が動く手助けをし、エリサリデ侯爵に労いの言葉をもらった。
ドゥラン侯爵夫人の逃走の邪魔をし、国境に指名手配を掛ける。順調に進む断罪に、国王派はついに絶えた。愚王を始めとする罪人は捕らえられて裁かれる。残酷な罰だと顔を背ける貴族もいる中、私は静かに見守った。
かつて忠誠を捧げた王家の最期だ。どんな相手であれ死体に唾吐く無礼は、武人の恥だった。喝采を送る気はなく、当然の罰に震える彼らを嘲笑うつもりにもなれない。私に出来るのは、彼らの最期を覚えて伝えることだろう。
一族の伝承に、このような愚かな主君がいたこと。正義が悪を滅ぼしたこと。嘘偽りなく誇張せず、事実を語り継ぐ――フェリノス国は崩壊しても、この国の民は生き続けていくのだから。教訓はいつの世になっても色褪せない。
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