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29.自分に言い訳を始めた時点で
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ぎゅっと抱き寄せられて、目が覚める。ああ、また抱き潰されたのか。すりと頬を服に寄せて気づいた。外に出ていた? そんなに時間が経ったのか。
「どこにいたんだ?」
「……仕事をしてきた」
わずかな間が気になった。だけど、この男が隠し事を言うわけがない。隠すと決めたら、絶対にバレないよう隠し通すはずだ。窓があれば外の時間が測れるが……窓も扉もない部屋で、時間を正確に管理する方法はなかった。
「なあ、外に出たい」
「危険だと認識したばかりであろう」
大人が子供に言い聞かせるように、宥める口調と声が心地よい。だが引き下がるのは早い。
「アザゼルが一緒なら平気だろ?」
「ダメだ。そなたを誰かに見せたくない、声も聞かせたくないし、何かに興味を持たれるのも嫌だ」
「……そっか」
驚いた。今のアザゼルの声が、懇願する響きだった。俺をこの部屋に拘束して、首輪も外さずに飼ってるくせに……まるで縋り付くような言葉だ。俺が誰かに奪われると? それとも心移りしてアザゼルと離れると思ったのか。
無理矢理抱かれた時は、俺の意思を無視して犯されたと思い憤慨した。好き勝手にこの体を使う男を蹴飛ばしたかったし、逃げ出したいと何度も願った。でも気づいたんだ。
俺はこの世界で弱者だ。異世界から呼ばれたから異物だし、常識も金の稼ぎ方も分からない。もしアザゼルが俺に飽きて放逐したら、明日から衣食住すべてに不自由するだろう。ホームレスになって、誰かの残飯や施しを受けながら生きる……出来るか? 無理だと思う。
現代日本で生活してきて、文化水準はこの世界の人間より上だったはず。突然風呂も食事も家もなく、下手すれば道徳や常識も違う世界で生き抜ける能力はない。小説なら異世界人の知識でチートするかも知れないが、現実にはそんなご都合主義はないんだ。こないだの襲撃で思い知った。
俺は狩られる側の子猫に過ぎない。カラスや大型犬に襲われたら、一溜りもなかった。今回は襲ってきたカラスを、庇護者である獅子が追い払ってくれただけ。もし世界最強の魔王に見捨てられたら、翌日には命の保証がない。
「拗ねたのか?」
黙り込んだ俺の機嫌を窺うように、アザゼルが腕に力を込める。触れる服の冷たさは俺の体温と同化し、もう感じられなかった。
「いや。仕方ないなと思っただけ」
「誰もいない場所なら連れて行っても良い」
譲歩してくれたんだろう。大きな滝や人が来ない花畑なら構わないと言い出した。俺を閉じ込めて支配してるくせに、機嫌を窺うなんて……可愛いじゃん。
腕の中でもぞもぞと動いて、アザゼルと正面から向き合う。青紫の瞳は黒っぽく影になっていた。感情は読み取れないけど、少し不安そうなのかな。おずおずと腕をアザゼルに回す。背中を抱き締めるみたいにして、首に手を絡めた。
「二人ならいいのか?」
「そなたを奪われぬなら」
「奪われても取り返せばいいじゃん」
「それでは遅い。そなたに触れる者は切り裂き、脅かす者は粉々に砕く。どんなに排除しても、ハヤトに傷が残れば意味がない」
ガラス細工のような扱いだ。排除する敵が近づかないよう、最初から存在を秘めて大切にしまい込む。子供が初めて手にした宝物を隠すように。
「ふーん。いいぜ、アザゼルに任せる」
好きにしろと突き放す言葉ではなく、任せると告げた。自分の心境の変化に戸惑う。だけどさ、この世界から戻る方法がないなら……俺はアザゼルに守られるしか選択肢はないんだ。そう言い聞かせた。
「どこにいたんだ?」
「……仕事をしてきた」
わずかな間が気になった。だけど、この男が隠し事を言うわけがない。隠すと決めたら、絶対にバレないよう隠し通すはずだ。窓があれば外の時間が測れるが……窓も扉もない部屋で、時間を正確に管理する方法はなかった。
「なあ、外に出たい」
「危険だと認識したばかりであろう」
大人が子供に言い聞かせるように、宥める口調と声が心地よい。だが引き下がるのは早い。
「アザゼルが一緒なら平気だろ?」
「ダメだ。そなたを誰かに見せたくない、声も聞かせたくないし、何かに興味を持たれるのも嫌だ」
「……そっか」
驚いた。今のアザゼルの声が、懇願する響きだった。俺をこの部屋に拘束して、首輪も外さずに飼ってるくせに……まるで縋り付くような言葉だ。俺が誰かに奪われると? それとも心移りしてアザゼルと離れると思ったのか。
無理矢理抱かれた時は、俺の意思を無視して犯されたと思い憤慨した。好き勝手にこの体を使う男を蹴飛ばしたかったし、逃げ出したいと何度も願った。でも気づいたんだ。
俺はこの世界で弱者だ。異世界から呼ばれたから異物だし、常識も金の稼ぎ方も分からない。もしアザゼルが俺に飽きて放逐したら、明日から衣食住すべてに不自由するだろう。ホームレスになって、誰かの残飯や施しを受けながら生きる……出来るか? 無理だと思う。
現代日本で生活してきて、文化水準はこの世界の人間より上だったはず。突然風呂も食事も家もなく、下手すれば道徳や常識も違う世界で生き抜ける能力はない。小説なら異世界人の知識でチートするかも知れないが、現実にはそんなご都合主義はないんだ。こないだの襲撃で思い知った。
俺は狩られる側の子猫に過ぎない。カラスや大型犬に襲われたら、一溜りもなかった。今回は襲ってきたカラスを、庇護者である獅子が追い払ってくれただけ。もし世界最強の魔王に見捨てられたら、翌日には命の保証がない。
「拗ねたのか?」
黙り込んだ俺の機嫌を窺うように、アザゼルが腕に力を込める。触れる服の冷たさは俺の体温と同化し、もう感じられなかった。
「いや。仕方ないなと思っただけ」
「誰もいない場所なら連れて行っても良い」
譲歩してくれたんだろう。大きな滝や人が来ない花畑なら構わないと言い出した。俺を閉じ込めて支配してるくせに、機嫌を窺うなんて……可愛いじゃん。
腕の中でもぞもぞと動いて、アザゼルと正面から向き合う。青紫の瞳は黒っぽく影になっていた。感情は読み取れないけど、少し不安そうなのかな。おずおずと腕をアザゼルに回す。背中を抱き締めるみたいにして、首に手を絡めた。
「二人ならいいのか?」
「そなたを奪われぬなら」
「奪われても取り返せばいいじゃん」
「それでは遅い。そなたに触れる者は切り裂き、脅かす者は粉々に砕く。どんなに排除しても、ハヤトに傷が残れば意味がない」
ガラス細工のような扱いだ。排除する敵が近づかないよう、最初から存在を秘めて大切にしまい込む。子供が初めて手にした宝物を隠すように。
「ふーん。いいぜ、アザゼルに任せる」
好きにしろと突き放す言葉ではなく、任せると告げた。自分の心境の変化に戸惑う。だけどさ、この世界から戻る方法がないなら……俺はアザゼルに守られるしか選択肢はないんだ。そう言い聞かせた。
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