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71章 北の大地は危険な噂の宝庫
989. 休めないアベルの危険な休日
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「これも美味しいわよ」
勝手に収納ボックスを開けているお姫様は、無邪気にキッシュを頬張る。魔法がまだ不安定なアンナは、ルキフェル開発の魔法陣がついた収納ボックスを愛用していた。
部屋の中に設置された箪笥に似た扉の中は、収納空間と同じく時間がほぼ止まる。温かい食べ物や飲み物、逆に冷たい物も一緒に保存可能な上、多少なり魔力があれば開け閉め自由という便利さが受けて、かなりの数が作られた家具の一種だ。前世界なら家電分類だろう。
魔力が不安定な種族や収納空間をもてない魔族が利用し、飲食店の店員なども便利なのでよく利用する食材保管庫だ。アンナの用意した食事は、なぜか侵入者の魔王やリリスの胃を満たしていた。
「リリス、あーん」
「いやいやいや、おかしいでしょ。俺の食事っすよね」
一度は諦めて寝ようとしたアベルだが、理不尽すぎる侵入者達に飛び起きた。このままでは食べ尽くされてしまう。それより、婚約者ルーサルカに手出しできない俺の前でイチャつくとは! 理不尽だろう、と怒りに任せて抗議する。
寝不足に陥ると、人は判断力が落ちるものだ。そしてアベルもその例にもれず、口調も態度も砕けていた。ぐしゃぐしゃと髪をかき乱して叫んだアベルが、びくりと肩を震わせる。飛びのこうとしたが間に合わず、喉にひやりとした刃が触れた。
転移魔法で、自宅に不法侵入された家主の首は、物理的な危険に晒される。
「陛下に何という口の利き方でしょうね。一度死んでみますか?」
「ご遠慮します」
一度死んだら蘇れないので。やっぱり居場所が早々にバレたじゃないか。そして俺の死亡フラグが立った、アベルは青ざめた顔で抵抗を諦めた。両手を肩の高さに持ち上げ、降参を示す。くつりと喉を震わせてアスタロトが笑った。
「随分と賢くなりましたね」
「お陰様で」
賢く付き合わないと、さくっと処分されてしまう。アベルの心の声を聞いたように、ルーサルカが間に入った。
「お義父様、アベルが死んでしまいます」
「殺す気はありませんよ(まだね)」
声にしなかった後半が怖いんですが?! 可愛がっている義娘の婚約者という立場が、彼にとってどれだけ有益で邪魔か。青ざめるアベルは大人しく身じろぎせずに我慢した。
「ところで陛下。どうしてアベルの家にいるのでしょう」
護衛のヤンは外の庭で日向ぼっこをしているので、周囲で噂になっていた。おかげでアスタロトが見つけるのは簡単だったが……逃げたくせに色々甘いルシファーに弁明のチャンスを与えるところが、彼なりの譲歩だった。
魔力を結界で隠すくらい、造作もない魔王だ。しかし隠れているくせに、下手な小細工はしない。忘れるというより、それをしたら緊急時に困ることを身に沁みて知っていた。ならば逃げなければいいのだが、この癖は直らない。
「な、なぜだろうな」
目を逸らす魔王は、御年8万歳を超える長寿にもかかわらず、まだ未成年者のような外見を誇る。圧倒的強者のはずが、どうしてか側近達に弱かった。必死に腕の中に隠す姫に関してなら、最弱種族である。アベル以上に顔色を悪くしたルシファーに、剣を手にしたままのアスタロトが近づいた。
「魔王城に戻られてはいかがですか? 魔王陛下」
「し、視察の最中だ」
まだ仕事が終わっていないからと逃げるルシファーの横に歩み寄り、ぐいっと髪を掴んで視線を合わせた。そんな乱暴でいいのか? 俺の言葉より不敬じゃないか。そんなアベルの視線を無視し、アスタロトは整った顔に笑みを貼り付けた。
「北の大陸で仕事中の陛下が、なぜこの城下町にいるのでしょうか」
勝手に収納ボックスを開けているお姫様は、無邪気にキッシュを頬張る。魔法がまだ不安定なアンナは、ルキフェル開発の魔法陣がついた収納ボックスを愛用していた。
部屋の中に設置された箪笥に似た扉の中は、収納空間と同じく時間がほぼ止まる。温かい食べ物や飲み物、逆に冷たい物も一緒に保存可能な上、多少なり魔力があれば開け閉め自由という便利さが受けて、かなりの数が作られた家具の一種だ。前世界なら家電分類だろう。
魔力が不安定な種族や収納空間をもてない魔族が利用し、飲食店の店員なども便利なのでよく利用する食材保管庫だ。アンナの用意した食事は、なぜか侵入者の魔王やリリスの胃を満たしていた。
「リリス、あーん」
「いやいやいや、おかしいでしょ。俺の食事っすよね」
一度は諦めて寝ようとしたアベルだが、理不尽すぎる侵入者達に飛び起きた。このままでは食べ尽くされてしまう。それより、婚約者ルーサルカに手出しできない俺の前でイチャつくとは! 理不尽だろう、と怒りに任せて抗議する。
寝不足に陥ると、人は判断力が落ちるものだ。そしてアベルもその例にもれず、口調も態度も砕けていた。ぐしゃぐしゃと髪をかき乱して叫んだアベルが、びくりと肩を震わせる。飛びのこうとしたが間に合わず、喉にひやりとした刃が触れた。
転移魔法で、自宅に不法侵入された家主の首は、物理的な危険に晒される。
「陛下に何という口の利き方でしょうね。一度死んでみますか?」
「ご遠慮します」
一度死んだら蘇れないので。やっぱり居場所が早々にバレたじゃないか。そして俺の死亡フラグが立った、アベルは青ざめた顔で抵抗を諦めた。両手を肩の高さに持ち上げ、降参を示す。くつりと喉を震わせてアスタロトが笑った。
「随分と賢くなりましたね」
「お陰様で」
賢く付き合わないと、さくっと処分されてしまう。アベルの心の声を聞いたように、ルーサルカが間に入った。
「お義父様、アベルが死んでしまいます」
「殺す気はありませんよ(まだね)」
声にしなかった後半が怖いんですが?! 可愛がっている義娘の婚約者という立場が、彼にとってどれだけ有益で邪魔か。青ざめるアベルは大人しく身じろぎせずに我慢した。
「ところで陛下。どうしてアベルの家にいるのでしょう」
護衛のヤンは外の庭で日向ぼっこをしているので、周囲で噂になっていた。おかげでアスタロトが見つけるのは簡単だったが……逃げたくせに色々甘いルシファーに弁明のチャンスを与えるところが、彼なりの譲歩だった。
魔力を結界で隠すくらい、造作もない魔王だ。しかし隠れているくせに、下手な小細工はしない。忘れるというより、それをしたら緊急時に困ることを身に沁みて知っていた。ならば逃げなければいいのだが、この癖は直らない。
「な、なぜだろうな」
目を逸らす魔王は、御年8万歳を超える長寿にもかかわらず、まだ未成年者のような外見を誇る。圧倒的強者のはずが、どうしてか側近達に弱かった。必死に腕の中に隠す姫に関してなら、最弱種族である。アベル以上に顔色を悪くしたルシファーに、剣を手にしたままのアスタロトが近づいた。
「魔王城に戻られてはいかがですか? 魔王陛下」
「し、視察の最中だ」
まだ仕事が終わっていないからと逃げるルシファーの横に歩み寄り、ぐいっと髪を掴んで視線を合わせた。そんな乱暴でいいのか? 俺の言葉より不敬じゃないか。そんなアベルの視線を無視し、アスタロトは整った顔に笑みを貼り付けた。
「北の大陸で仕事中の陛下が、なぜこの城下町にいるのでしょうか」
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