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24.あなたは壊れてしまったのね
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「私が知る紋章だと、もっと薔薇は離れていたけど」
鷲の翼も薔薇の上に被さり、遮られることなく描かれていた。なのに獅子の尻尾に絡まって、足の部分は獅子より前に出ている。前と同じ描かれ方なら、獅子が堂々と立ち、その周囲の隙間を埋める形で薔薇が描かれたんじゃないかしら。
「寄り添った理由? 簡単よ。今、この国の王族直系の血を引くのは私だけ。亡きお母様に続き、お父様も亡くなられたの。一昨年の話だから気にしなくていいわ」
ターラント公爵夫人は体の弱い人で、メイベルがまだ幼い頃に儚くなった。寂しい思いをしてきた友人の、最後の家族であるお父様も亡くなられていたなんて。ショックを受けた私に、もう二年も前の話よとメイベルが慰めを向ける。
そうじゃないわ。まだ二年じゃない! あなたが一番辛くて悲しみに暮れていた時、私はただの幼子として自由に暮らしていたのよ。詰っていいのに。私が心労かけたから、国を乱したから、父が亡くなったと罵れば……でも、メイベルはそんな子ではない。だから呑み込んだ。
彼女が平静を装うなら、私はそれを否定せず寄り添うだけ。これ以上、彼女を悲しませたり苦しめるのが私であってはいけないと思う。
「知らなくてごめんなさい。後でおじ様のお墓に手を合わせたいわ」
「ええ。きっと父も喜ぶと思う」
知り合ってから一緒に過ごしたメイベルとの思い出に、時々登場するおじ様は優しかった。メイベルを大切にしていたし、互いへの眼差しに愛情を感じる。仕事の面では厳しいと聞いたけれど、いつもお茶会に顔を見せて声をかけてくれた。とても忙しい人だったのにね。
懐かしく思いながら顔を上げれば、メイベルは続きを話し始めた。
「この血を別の貴族との間で受け継ぐなら、新たな火種になる。それで一石三鳥の方法を思いついたの。キース様と私が結婚することで、王家の血はブラッドリー国に吸収される。それも王女殿下であったおば様の息子の妻になれば、この国は完全に消滅よ。私の復讐が果たされるの」
嬉しそうにうっとりと目を細めて語るメイベルは、どこか別の人のようで。ああ、良くも悪くも壊れてしまったことを理解した。そんなメイベルを、にぃには幸せそうに見つめる。どんなメイベルでも受け止めるにぃにがいるなら、いいのかな。
「一時期、この体に流れる王族の血を疎んだけれど、こんな復讐が可能になるなんて運がいいわ。大切な親友は義妹になる。家族だから今度こそ離れずに済むし守るわよ。この国の王族の血が入ったことで、ブラッドリー国にも大義名分が出来た。この国を治める理由よ」
うふふ、笑う彼女に頷く。心の底からこれでいいと納得したメイベルに、余計な混乱を招きたくなかった。穏やかに夕食へ突入し、彼女は残念そうに私達を見送る。使用人と自分だけの屋敷は寂しいのだと零した言葉が、ぐっと胸に突き刺さった。
馬車に乗る直前、にぃには私を抱き締めた。
「もう泣いていいぞ」
見開いた目が潤んでいく。それを隠すようにエイミーの胸に顔を押し付けた。
「悪い、眠くなったみたいだ。また来る」
「ええ。ご迷惑でなければ、私が明日伺います」
「じゃあ、そうしてくれ」
馬車の外から聞こえる会話が、ひどく切なく聞こえた。
鷲の翼も薔薇の上に被さり、遮られることなく描かれていた。なのに獅子の尻尾に絡まって、足の部分は獅子より前に出ている。前と同じ描かれ方なら、獅子が堂々と立ち、その周囲の隙間を埋める形で薔薇が描かれたんじゃないかしら。
「寄り添った理由? 簡単よ。今、この国の王族直系の血を引くのは私だけ。亡きお母様に続き、お父様も亡くなられたの。一昨年の話だから気にしなくていいわ」
ターラント公爵夫人は体の弱い人で、メイベルがまだ幼い頃に儚くなった。寂しい思いをしてきた友人の、最後の家族であるお父様も亡くなられていたなんて。ショックを受けた私に、もう二年も前の話よとメイベルが慰めを向ける。
そうじゃないわ。まだ二年じゃない! あなたが一番辛くて悲しみに暮れていた時、私はただの幼子として自由に暮らしていたのよ。詰っていいのに。私が心労かけたから、国を乱したから、父が亡くなったと罵れば……でも、メイベルはそんな子ではない。だから呑み込んだ。
彼女が平静を装うなら、私はそれを否定せず寄り添うだけ。これ以上、彼女を悲しませたり苦しめるのが私であってはいけないと思う。
「知らなくてごめんなさい。後でおじ様のお墓に手を合わせたいわ」
「ええ。きっと父も喜ぶと思う」
知り合ってから一緒に過ごしたメイベルとの思い出に、時々登場するおじ様は優しかった。メイベルを大切にしていたし、互いへの眼差しに愛情を感じる。仕事の面では厳しいと聞いたけれど、いつもお茶会に顔を見せて声をかけてくれた。とても忙しい人だったのにね。
懐かしく思いながら顔を上げれば、メイベルは続きを話し始めた。
「この血を別の貴族との間で受け継ぐなら、新たな火種になる。それで一石三鳥の方法を思いついたの。キース様と私が結婚することで、王家の血はブラッドリー国に吸収される。それも王女殿下であったおば様の息子の妻になれば、この国は完全に消滅よ。私の復讐が果たされるの」
嬉しそうにうっとりと目を細めて語るメイベルは、どこか別の人のようで。ああ、良くも悪くも壊れてしまったことを理解した。そんなメイベルを、にぃには幸せそうに見つめる。どんなメイベルでも受け止めるにぃにがいるなら、いいのかな。
「一時期、この体に流れる王族の血を疎んだけれど、こんな復讐が可能になるなんて運がいいわ。大切な親友は義妹になる。家族だから今度こそ離れずに済むし守るわよ。この国の王族の血が入ったことで、ブラッドリー国にも大義名分が出来た。この国を治める理由よ」
うふふ、笑う彼女に頷く。心の底からこれでいいと納得したメイベルに、余計な混乱を招きたくなかった。穏やかに夕食へ突入し、彼女は残念そうに私達を見送る。使用人と自分だけの屋敷は寂しいのだと零した言葉が、ぐっと胸に突き刺さった。
馬車に乗る直前、にぃには私を抱き締めた。
「もう泣いていいぞ」
見開いた目が潤んでいく。それを隠すようにエイミーの胸に顔を押し付けた。
「悪い、眠くなったみたいだ。また来る」
「ええ。ご迷惑でなければ、私が明日伺います」
「じゃあ、そうしてくれ」
馬車の外から聞こえる会話が、ひどく切なく聞こえた。
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