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33.お祖父様に連行された――SIDE兄

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 驚いた顔をする妹は、外見が変わっても表情が同じだ。相変わらず可愛い。もう一度背中を預ける形で座らせて、ピンクがかった金髪を撫でた。この色も悪くないが、やっぱり黒髪の方が好きだな。

「策略と言っても、あの馬鹿が考えることだ。大した命令じゃなかったけどな」

 グロリアと大事な話があるから、と言ったらしい。素直に信じた王妃は、母上を呼び出した。宰相である父上へ、意見が対立していた文官を向かわせ、俺のところへ仕事を持ち込ませた。そこまで知恵が働くのかと感心したが、実際のところは側近の侯爵子息が考えた案を採用しただけ。

 馬鹿はどこまでも馬鹿だった。彼が実際に命じたのは「グロリアを一人にしろ」程度の曖昧な内容でしかない。聞いた周囲が勝手に忖度して動いた結果、王族にとって最悪の選択をした。だが国にとっては、最良だろう。

 自らに甘く頭のおかしい王族を排除し、強大な軍事力と善政を敷くブラッドリー国の支配下に入ったのだから。これで他国から攻め込まれる心配も減るし、豊かな穀倉地帯を有する国の一部に入れた。

 飢える心配も減り、税率も引き下げられる。街道の整備が進み、商人が頻繁に安い商品を運んでくるようになった。民にとって、隣国は救いの手を差し伸べた存在として、好意的に受け止められる。

「じゃあ、お祖父様は嫌われてないのね」

 ほっとした様子で胸を撫で下ろす妹の旋毛に、キスをひとつ。心優しく賢い、何より美しく気高い妹だ。この子の何に不満があったのか。あの馬鹿王子を母上が擦りおろしたと聞いても、まだ罰が足りないと感じた。数百年苦しむとしても、全然足りない。

「夜会の話は父上と母上に聞いただろう。俺はその後のことを話すぞ」

 祖父の行動は早かった。国の魔法師団に命じ、中央の制圧を行う。崩れた王城ではなく、王宮へ逃げ込んだ王族を片っ端から捕らえた。自らは兵を率いて、蹂躙される辺境の都市や村を救う。国がひとつ滅びるということは、多くの民が庇護を剥ぎ取られる。

「立派だと思うが、反面、この国など壊れればいいと……」

 暗い感情を抱いたのも事実だ。俺はこの国が許せなかった。自分が育った国で、いわゆる「祖国」に該当するはずなのに、まるで仇のように思える。

 最愛の妹を奪った。それも冤罪で、残酷に。一切の容赦も慈悲も感じない処刑方法も。狂ったように泣き叫ぶ母を前に、気持ちは黒く塗り潰された。

 駆けつけようとした父も俺も、騎士達に阻まれた。悔しくて、己の無力さを嘆いた。

「あの後すぐ、お祖父様に連行された」

「れんこう?」

 首を傾げる妹が顔だけ振り返る。だからしっかり頷いて、聞き間違えではないと示した。

 無理やり連れ去られたんだから、連行でいいだろう。ほぼ犯罪者扱いだったからな。まあ、母上は偉そうに馬の上でふんぞり返っていたが……呟いた言葉に「わかる」とグロリアは大きく頷いた。
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