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41.子ども達の保護が最優先です

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 私達は大したケガもなく、無事に脱出できた。届いたばかりの食べ物や服に子どもが集まっていたので、ケガ人はほぼいない。かすり傷程度だった。

「建物が古すぎたのね」

 安堵に胸を撫で下ろしたメイベルと手を繋ぎ、並んで馬車の前に用意された椅子に座る。膝の上に乗って欲しいと言われたけど、笑顔で遠慮した。ママ達は慣れてるけど、やっぱり年齢が近かったメイベルだと恥ずかしいんだよね。

 ママは険しい顔で、孤児院の関係者から事情を聞いている。にぃにも同様で、あれこれと騎士に指示を出していた。

「寝るところなくなった」

 ぽつりと呟く少女は、事情が理解できない幼子を強く抱き締める。そこへようやく騒ぎに気づいた街の人が駆け込んできた。

「にぃに」

「何だ?」

「あのね、この子達を一時的に街の人に預かってもらえないかな。ほら、アビーの宿屋とかあるし」

 もちろん無料でなんて言わない。支援物資を分けてもいいし、お金を支払うのも考えた。そこまで説明すると、にぃにの大きな手が私の頭を乱暴に撫でる。

「いい子だ。提案してくるから待っていろ」

「うん!」

 アビーの宿屋の近くは、他にも数軒の宿がある。前は同じ場所に建っているとお客さんを取り合うのでは? と心配したけど、逆らしい。宿屋が並んでいるから、あの辺りへ行けば必ずどこか空いてて泊まれる。旅人はそう考え、一軒だけの宿屋よりアビーの宿屋の並びに集まった。

 ここからそんなに遠くないので、預かってくれると助かるな。宿屋なら暖かいし、誘拐される心配も少ないもの。メイベルとそんな話をしながら、大人の話が終わるのを待った。ママから許可が出たので、街の宿屋に要請を出す。にぃにの命令で、騎士達が一斉に動いた。

 幼子と手を繋いだ少女も、連れに来た騎士の後を追いかけた。ちゃんとお礼も言えるし、あの子はいい家に貰われるといいな。ゆらゆらと足を揺らす私に、メイベルが首を傾げた。

「この辺りは、イング子爵の管理よね。王都内の孤児院には、運営費が出ていたはずなのに」

 メイベルは独り言のつもりだろうが、徐々に声に苛立ちが滲んだ。

「そうよ、運営費は私達が寄付したんだから、かなりの額があったわ。どうして建物を直さなかったの? 十分賄えたはずなのに」

 怒るメイベルには悪いけど、よくある話だと思う。王子妃教育で王宮に顔を出せば、嫌でもそういった話は耳に挟んだ。いくつかは話を潰したけど、私の耳に入らなかった案件の方が多いはず。そのひとつが、この孤児院だったんだわ。

「メイベル、そのイング子爵ってよく知ってる人?」

「ねぇねと呼ばれたいわ」

「ねぇね、イング子爵について教えて」

 言い直すと、すぐに教えてくれた。ウィルズ侯爵の寄子貴族で、領地は小さな村のみ。普段は、王都近郊に建つ侯爵家の屋敷を管理していた。侯爵家のお屋敷には小さな離れがあって、そこで生活していたらしい。となれば、衣食住は足りていたわけよね。

 お金、何に使ったのかな。嫌な感じがして、私は唸った。が、眉間に寄せた皺をメイベルが伸ばす。

「だめよ、若いうちから皺になってしまうわ」

「それは嫌」

 私はすぐに顰めっ面をやめて、自分でも眉間を指で伸ばした。
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