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42.幼い友人と義姉になる親友

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 帰り道はアビーの宿屋に寄った。久しぶりに会う友人は、ちょっとだけ大人びた気がする。お父さんが目の前で傷つけられ、誘拐されて助かった。そんな経験、本当はしない方が良かったんだけど。

「もう平気よ。それより、キャリーは大丈夫なの? ご飯は……食べてそうね。あれからすぐ、キャリーのお母さんもいなくなっちゃうし」

「うん、一緒に貴族のお屋敷にいるよ」

 いろいろ悩んだけど、あまり深い内情を話さないことに決めた。前世なんてもちろん説明できない。名前もキャリーのままで話を進めた。

 もしホールズワース家のグロリアと面識があるだろうと問い詰められても、知らなければ隠す必要もない。この世界は魔法があるから、知っていたらバレちゃうもの。これ以上傷つけられる要素は持たないのが幸せで、大人になって「こんな友人がいたな」と思い出してもらえる程度でいい。

 子どもの「またね」は未来が繋がることを疑わない証拠だ。笑顔で手を振るアビーに、私も目一杯手を振った。馬車で待つメイベルの侍女になったと思ったのかな。頑張ってと励まされた。

 アビーの宿屋は可能かなぎり受け入れ、隣接する宿も子ども達を泊らせた。八百屋の奥さんは二人も預かってくれるし、肉屋の旦那さんは兄弟を纏めて引き取るらしい。

 ボロボロの教会で頑張ってきた皆が、幸せになればいいな。

「教会の建て直しはホールズワースで行うわ。家具も備え付けにしましょう。寝具や食器は任せてもいいかしら」

「ええ、お義母様。もちろんですわ」

 笑顔で頷くメイベルへ、ママは少し考えて「ママと呼んでご覧なさい」と提案した。驚いて目を見開いた後、メイベルは迷いながら「ママ」と小声で呟く。呼ぶと言うより、恐る恐る声に出しただけ。

 嬉しそうにママが笑った。

「いいわね、呼び方はママに統一しましょう」

「は、はい」

 両親を失ったメイベルにとって、ママの言葉は驚きだったみたい。実の家族である私と同じ呼び方を許す。それって、もう家族の一員だと明言したのよね。

 揺れる馬車の中、メイベルはずっと嬉しそうに微笑んでいた。そんな彼女と向かいに座り、私は色々考えてしまう。メイベルは公爵令嬢で、一般的に見れば恵まれていた。家族仲もいいし、家が没落なんて思いも寄らない繁栄の中で輝く人。評判も礼儀作法もしっかりして、高位貴族らしい美しさも持ち合わせていた。

 どうしてかな。さっき話したアビーの方が幸せそうに感じた。私がねぇねと呼んだり、ママと呼ぶ許可を得たり、それで本当に嬉しそうに笑う。こんな彼女を知らない。私が知るのは、親友で公爵令嬢のメイベルだけだから。

 きっと、にぃにも彼女の別の一面を知っているはず。複雑なこの感情は、嫉妬かも。私が知らないメイベルが存在するのが、気に入らない。ごく当たり前のことなのに?

「イング子爵だけでなく寄親のウィルズ侯爵も含め、きっちり経緯を調べなくちゃね」

 ママが赤い唇で弧を描く。追求はこれからだった。私も死にかけたし、許せないよね。横領犯を捕まえなくちゃ!
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