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49.無邪気な子どものフリで核心をつく
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ウィルズ夫人の手が、不自然に重ねられる。近くにいた伯爵夫人が声を上げた。
「なんて大きな宝石!」
「え? あら、本当だわ」
「それも子ども達から奪った食費で購入を?」
「神の裁きを受けるぞ」
ざわついた人々の視線が、彼女の指先に集中する。豪華な飴玉みたいな宝石……透き通っていて綺麗だなと思ったけど、そうか。あれが本来は教会の修繕費だったんだ。子ども達が毎日お腹いっぱい食べても、到底使いきれないほど高額の宝石代になったのね。
じろじろと一緒になって眺めていたら、にぃにが笑った。
「欲しいのか?」
「ううん。同じ透き通ってるなら飴玉でいいわ。瓶にいっぱい買って、皆で食べるの」
にぃにの企みが読めてきたので、わざと無邪気さを装った。私の言動はかなり外見に引っ張られているけど、思考能力まで退化したわけじゃない。ゆっくり観察して考える時間があれば、大人の知識と経験で対応するわよ。
「まあ! なんて素晴らしいお嬢様なのかしら」
「素晴らしい子だ。ウィルズ伯爵夫人は恥を知るべきだ」
近くにいたロマンスグレーの伯爵が、ウィルズ夫人を睨む。そろそろかな。場も温まってきたので、私は愛らしく見えるよう小首を傾げた。髪がさらりと揺れる。昔は自慢の黒髪だったのに……って言っても仕方ないけど。
「にぃに、アクロイド伯爵は地下に閉じ込められたんでしょ。暗くて怖いから出してあげて。奥様はどうして我慢してるの?」
纏めて疑問を吐き出した。子どもらしい発言に見えるよう、表情は「きょとん」とした感じで。悪意がないフリで、核心へ切り込んだ。幼い姿って本当に便利だわ。
「私達の小さなお姫様は優しいな。人質を取られたので、アクロイド伯爵夫人は動けなかったのだよ」
分かりやすく子どもに説明するついでに、周囲に吹聴する。印象操作も含んでると思うけど、ほとんどは事実だろう。にぃにの目は怒りが滲んでいるから。
演技にメイベルが参加した。彼女も公爵令嬢として社交界を泳いだ人なので、不安そうな表情で重要な質問をする。
「キース様、アクロイド伯爵はどうなさっているの?」
「ああ、安心していい。発見してすぐに助け出した。衰弱しているが、命に別状はないよ」
うわぁ。にぃには確信犯だな。助けたの言葉にほっとしたアクロイド伯爵夫人が、強張った表情を崩した。ずっと我慢していたのだろう。そこへ重ねて衰弱や命の話を盛り込む。安心させているようで、ひどい扱いだったと遠回しに知らせる。
貴族の会話術の応用編だと思う。元々のにぃには文官としての才能が高いから、頭を使う策略はお手の物だった。そこへお祖父様が筋肉を付加しちゃっただけ。頭の中身まで筋肉に侵食されなくてよかった。
「先ほど、ウィルズ夫人は自分も寄付したと言うが、回り回って己の懐に戻る金を、寄付とは呼ばない」
ロマンスグレーの伯爵が、ぴしゃりと断罪した。焚き付けた炎が延焼を始めたみたい。ここへ油を注ぐのは誰の役割だろう。きょろきょろする私を咎めるように、にぃにが首筋に触れた。ごめんなさい、大人しくしてるわ。
「なんて大きな宝石!」
「え? あら、本当だわ」
「それも子ども達から奪った食費で購入を?」
「神の裁きを受けるぞ」
ざわついた人々の視線が、彼女の指先に集中する。豪華な飴玉みたいな宝石……透き通っていて綺麗だなと思ったけど、そうか。あれが本来は教会の修繕費だったんだ。子ども達が毎日お腹いっぱい食べても、到底使いきれないほど高額の宝石代になったのね。
じろじろと一緒になって眺めていたら、にぃにが笑った。
「欲しいのか?」
「ううん。同じ透き通ってるなら飴玉でいいわ。瓶にいっぱい買って、皆で食べるの」
にぃにの企みが読めてきたので、わざと無邪気さを装った。私の言動はかなり外見に引っ張られているけど、思考能力まで退化したわけじゃない。ゆっくり観察して考える時間があれば、大人の知識と経験で対応するわよ。
「まあ! なんて素晴らしいお嬢様なのかしら」
「素晴らしい子だ。ウィルズ伯爵夫人は恥を知るべきだ」
近くにいたロマンスグレーの伯爵が、ウィルズ夫人を睨む。そろそろかな。場も温まってきたので、私は愛らしく見えるよう小首を傾げた。髪がさらりと揺れる。昔は自慢の黒髪だったのに……って言っても仕方ないけど。
「にぃに、アクロイド伯爵は地下に閉じ込められたんでしょ。暗くて怖いから出してあげて。奥様はどうして我慢してるの?」
纏めて疑問を吐き出した。子どもらしい発言に見えるよう、表情は「きょとん」とした感じで。悪意がないフリで、核心へ切り込んだ。幼い姿って本当に便利だわ。
「私達の小さなお姫様は優しいな。人質を取られたので、アクロイド伯爵夫人は動けなかったのだよ」
分かりやすく子どもに説明するついでに、周囲に吹聴する。印象操作も含んでると思うけど、ほとんどは事実だろう。にぃにの目は怒りが滲んでいるから。
演技にメイベルが参加した。彼女も公爵令嬢として社交界を泳いだ人なので、不安そうな表情で重要な質問をする。
「キース様、アクロイド伯爵はどうなさっているの?」
「ああ、安心していい。発見してすぐに助け出した。衰弱しているが、命に別状はないよ」
うわぁ。にぃには確信犯だな。助けたの言葉にほっとしたアクロイド伯爵夫人が、強張った表情を崩した。ずっと我慢していたのだろう。そこへ重ねて衰弱や命の話を盛り込む。安心させているようで、ひどい扱いだったと遠回しに知らせる。
貴族の会話術の応用編だと思う。元々のにぃには文官としての才能が高いから、頭を使う策略はお手の物だった。そこへお祖父様が筋肉を付加しちゃっただけ。頭の中身まで筋肉に侵食されなくてよかった。
「先ほど、ウィルズ夫人は自分も寄付したと言うが、回り回って己の懐に戻る金を、寄付とは呼ばない」
ロマンスグレーの伯爵が、ぴしゃりと断罪した。焚き付けた炎が延焼を始めたみたい。ここへ油を注ぐのは誰の役割だろう。きょろきょろする私を咎めるように、にぃにが首筋に触れた。ごめんなさい、大人しくしてるわ。
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