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53.裏で進行する何かの気配はあるんだけど

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「私の小さなお姫様! メイベルも、お邪魔するわね」

 いそいそとテーブルに近づき、運ばせた椅子に落ち着く。挨拶に訪れる貴族に微笑んで鷹揚に頷く姿は、貫禄があった。元王族だし……公爵夫人だからね。貴族の中で公爵はトップだもん。謙ったらダメなのはわかる。

「母上、予定は終わりましたか」

「ええ。だから帰りにこちらへ寄ったのよ。何でも魔女が出たらしいじゃない」

「魔女というか、悪女ですが」

 くすくす笑うママに、にぃにがさらりと訂正を入れる。魔女と悪女の違いが分からないけど、魔女の方がすごいこと出来そう。魔法が使える女性の意味だとしたら、ママも私も魔女だなぁ。

 交互に二人の顔を見る私は、相変わらずメイベルのお膝の上だ。珍しくママは抱き寄せようとしなかった。

「ママはどこへ出かけていたの?」

 用事は何か、ふと気になった。わざわざ用が済んだから来たと公言するなら、こちらの騒動に関係ある話かも。

「お片付けよ」

 やり残したことを片付けたと聞こえる。メイベルが僅かに体を揺らした。あれれ、知ってるの? 見上げると、淑女の微笑みが返ってきた。綺麗だけど、今は教える気がないって意思表示だね。

「この後、まだ大掃除があってクリフォードとキースは忙しいの。先に帰って休みましょうね」

 こくんと頷く。これは反論や質問は許されない。片付いたら教えてもらえるけど、今は無理なやつ。ということは、本当に大きな掃討作戦だったりして。

 仇の王族は処分されたし、第二王子や聖女も亡くなった。孤児院への寄付金を横領したウィルズ家も、もう終わりだよね。他にこの国で見つける悪人がいるように思えない。

 ざわざわと噂話に花を咲かせる貴族を眺め、私は早々に諦めた。頭を使うのはパパとにぃにのお仕事、権力を振り翳すのはママの役目。私は両方とも足りないから。今は年齢と背丈も足りないし、大人しく家に帰ろう。

 右手をママ、左手にメイベル。両手に花状態で、貴族に挨拶して馬車に乗り込む。揺れる馬車の中で、ママに尋ねた。

「いつ教えてくれるの?」

「屋敷に帰ったらお風呂を済ませなさい。居間で説明してあげる」

 揺れる馬車が停まり、私達は大急ぎで分かれた。早く話が聞きたい。侍女のローナに「早くね」とお願いしたのに、しっかり髪や肌を磨かれてしまった。

 早くしてって言ったのにと拗ねたら、乳母エイミーは笑う。

「お嬢様だけ早く居間へ向かわれても、誰もおられませんよ」

 ママやメイベルが早くお風呂を済ませるか。ない、それはないと断言できた。早く着いても待つことになるなら同じ。エイミーの言葉に頷き、大人しく着替えて髪を結んでもらう。

 やや早めに準備して飛び込んだ居間は、やっぱり二人ともまだ来ていなかった。
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