【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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本編

第33話 ここは現実だ(2)(SIDEアグニ)

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 額の魔法陣は皮膚を剥いでも残る。これは体に刻んだ呪いではなく、魂に刻んだ物が浮き出ているのだ。指先が剥けて、爪に引っかかった皮が垂れ下がった。生命維持の限界まで壊れた身体は、少しすると再生を始める。

「ぐぎゃあああ、ぐぅ……がぁは、う゛っ」

 泣き叫ぶカルメンが動きを止め、元どおりの肌に生まれ変わった己の手足を眺めた。先ほどの苦痛が幻覚じゃなかった証拠に、全身はまだズキズキと痛みを訴えた。それでも皮が剥けた状態より幾分マシだ。

 呆然とするカルメンに、マリエッラが牢の外から無造作に魔法陣を投げつけた。

 白青の竜である母は、最も得意な氷を選ぶ。

「え? ぎゃ、ぐあぁあああ、いぎゃぁああ、ぐぅ、あっ」

 氷矢が全身を貫く。針のような鋭い氷が全身に突き刺さり、溶けて消える。また身体は再生を始めた。その様子を観察し、エミリオが感心したように呟いた。

「永遠に続く苦痛、ですか」

「再生機能が重要なんだ。生きたまま引き裂いても元に戻れる。だが戻る最中も激痛は続く。回復後は一時的に激痛から解放された気になるが、実際には軽くなっただけで、痛みは蓄積される」

 俺は転生する前に戻った口調で、軽く説明した。蓄積された激痛は治ると軽減されるため、次の痛みをより強く感じる。痛みから逃げる人間の防衛本能を逆手に取った形だった。軽減されない痛みに心臓を止めることも、慣れて麻痺することも許さない。

「人間の身体はどこもかしこも痛いのに、大変ね」

 マリエッラは同情する口振りで、息子である俺の説明に追加のトドメを刺した。

 人が眠るのは、痛みや傷つけられた悲しみを薄れさせる為だという。そうしなければ精神や肉体は痛みに耐えかねて壊れてしまうから。しかし呪いを受けた者は死ぬことが出来ない。

 狂った状態ではなく正常な状態で呪いをかけられれば、必ずその状態に復元されてまた壊される。狂う心すら復元する為に、国王を気狂いから引き戻したのだ。

 セブリオン家の今後の処置は改めて言い渡すことにしよう。過去の竜の乙女に対する様々な悪行を知ってから、きちんと処罰するのが筋だ。

「今回の事態を真剣に捉え、対応してくださった皆様にお礼申し上げます。さすがは長寿で物知りな竜の方々です。お陰で最高の復讐が出来ます」

 この場で俺や母を相手に礼を口にすれば、共有した竜帝テュフォンにも自動的に伝わる。竜特有の感性を利用したエミリオの丁重な礼と感謝に、上でお茶のもてなしを受ける竜たちにも笑みが浮かんだ。

 誰が手を下したかは重要ではなく、どのような罰を与えたか結果が大切なのだ。

 獲物を前に舌舐めずりしそうな笑みを浮かべ、エミリオは牢の中の罪人たちを見下ろした。この3人は死ぬことがない。だが痛みを蓄積しながら苦しめ続けることが可能だった。どんな処刑方法でも、また蘇らせて何度だって試せる。

「本当に、最高ですね」

 いっそ死にたいと懇願し、泣き叫んでもその願いは叶うことがない。渇望し続け、死に憧れながら朽ち果てる罰こそ相応しい。竜たちはそう考えて口元を緩め、俺はそんな同族に穏やかな表情で頷いた。
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