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本編

第33話 ここは現実だ(1)(SIDEアグニ)

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 *****SIDE アグニ



 脳内を弄ったときに気づいたからな。この女は自分が主人公だと思い込んでいる。この世界はゲームの延長に過ぎず、先を知る自分が思うままに操れると……それを壊すために俺たちは奔走したんだぞ。

 自信家であるこの女を不幸にする方法はいくらでも思いついた。新しい手法を試してみるのもいいだろう。

「作り替える必要はない。このまま崩れ落ちろ」

 吐き捨てた俺の声に、嫌悪の響きが滲んだ。カルメンは状況が理解できずに、ぶつぶつと何か呟いていた。

「おかしい、だってあたしがヒロインで、主人公なのに。こんなの、変よぉ。なんでぇ?」

 何度も繰り返された単語は、この世界の人間には意味不明だろう。だが、残念なことに俺は知っている。理解できるし、仲間とも共有した。

「お前が異世界から来たのはわかってる。主人公、ヒロイン、攻略対象、逆ハー展開、ゲーム……お前が使う単語も知ってるさ。俺は転生だが、お前は転移か? どっちにしろ、この世界はゲームじゃない。現実だ」

 諦めて受け入れろと突きつけ、乱暴な所作で前髪をかき上げた。この世界の元になったゲームのあらすじは知っている。妹が夢中になって遊んでいたため、何度も話を聞いた。

 事故で死に生まれ変わった世界で、竜という最強種族だったことは俺にとって幸いだ。意識を共有する仲間がいたことで、孤独を感じる経験もなかった。

 俺が異世界から来たことを、疑うことなく受け入れた仲間と暮らすうちに思い出したのは、いずれ現れるゲームの主人公の存在だ。

 ゲームの補正や強制力といった概念は理解していた。どんなに覆そうとしても、ゲームのストーリーに戻されてしまう。主人公にとって都合がよい、主人公のための世界だ。それはこの世界に暮らす人々の意思を捻じ曲げ、感情を操る呪詛のようだった。

 俺は世界から呪詛を消し去る方法を生み出すことにした。己の棲む世界を勝手に弄られることは、最強種の竜にとって屈辱でしかない。世界を作り替える魔力の代償として、長い眠りにつくことを承知で俺たちは尽力した。

 共有する意識の中、13匹の竜は知恵を出し合い、最適な方法を選び出したはず。その方法こそが代々の竜の乙女を苦しめたなんて、強烈な皮肉じゃないか。

「きゃあああっ、なにこれ、嘘っ! いやよ、こんなの……いやぁああああ」

 絶叫する悲鳴が牢の狭い空間を満たす。凝視する前国王やクラウディオの前で、彼女の姿は激変した。

 真っ赤になった肌が爛れていく。悲鳴を上げてのたうつ動きに合わせ、ずるりと皮が剥けた。その激痛に叫んで転がる動きで、さらに肉が崩れる。皮膚が溶けたため、頭皮がなくなって髪が抜け落ち、外見はゾンビや死霊と変わらなくなった。

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