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本編

第47話 狡いですよね、私(1)

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 目が覚めると気分の悪さは消えていました。目を開くとテユ様の笑顔があって、どきどきと胸が高鳴るのです。この気持ちって、何かしら。

 美人は3日で飽きる――そんな言葉をフランカが口にしていたわ。でも慣れたり飽きる気がしないの。まだ2日目ですが、明日になってもテユ様の顔を見たら照れると思いますわ。

 テントにすると言って水の魔法を使ったテユ様でしたが、氷はすでに溶かされて跡形もありませんでした。

 赤くなった顔を隠すと、さらりと銀髪が滑りました。そうだわ、具合が悪いからって解いていたのでした。慌てて両手で髪を掴みます。

「結うのであれば我がやろう」

 で、出来ますの? 私が、鏡もなしに綺麗に結うのは無理ですわ。迷った末、そっと手を離しました。ブラシが必要ないほど銀髪は柔らかく、さらりと背を滑ります。ですから、結うのは技術が必要でした。

「さきほどと同じで構わぬか?」

「はい。お願いします」

 首筋に時折触れる彼の指先を意識してしまいます。温かい指先は侍女より荒い動きですけれど、優しく気遣う動きで髪をかき上げました。

 髪を留めてリボンを付けてもらいます。これで一安心ですわね。

「ありがとうございます」

「いや、そなたの髪に触れる口実だ。我の方こそ礼を言うべきだろう」

「き、器用ですのね」

 話題を逸らそうと褒めれば、微笑んだ彼の膝の上に座っていることに気づきました。飛び降りるのも失礼ですし、どうしましょう。

「おや……陛下は手が早い」

「よくぞ言ったものよ。他人の事など言えた義理か」

 リオ兄様のからかう口調に、テユ様がきっちりやり返す。抱き締めて膝から下ろさないのは、リオ兄様も同じではありませんか。振り返った先で見つけた光景は、こちらとほとんど変わりありません。真っ赤なフランカの顔に、きっと私も同じように赤いのだわと俯きました。

「さて、せっかく来たのだ。しっかり楽しもうではないか」

 ようやく膝から下ろしてもらえましたが、しっかり手を取ってエスコートされています。これはまあ……婚約者ですもの。許される範囲ですが、家族以外の男性と明るい場所で密着するのは恥ずかしいですね。

 足元に注意するよう声をかけるテユ様に、あまり照れた様子はありません。私だけが動揺しているみたいで、悔しいですわ。

 滑りやすい水際で、裾に気をつけながらしゃがみました。水は澄んでいて、小さな魚の群れが泳いでいるのが見えます。すごく綺麗な水だわ。

「お魚ですわ!」

「ああ、気を付けろ。そなたが思うより深いぞ」

 言われてきょとんとする。今までに来たことがある湖はすべて、遠くまで浅かったのですが?

「ここまで魚が来ているなら、膝より上まで水が来る。しかもこの水の色では、もっと深いだろう」

 簡単そうに推測するその知識に驚きました。魚の泳いでいる姿で、そんなことがわかるなんて。目を輝かせて次々と質問します。

 水の色から深さだけでなく、水温もおおよそ分かると聞いて、さらに驚きました。気づけばリオ兄様とフランカは声が聞こえないほど離れた場所にいます。

 きっと気を使ってくださったのでしょう。いえ、私も気を使うべきなのでしょうけれど。
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